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岩田 徹

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第132回 微差

2023/06/23

まだまだ記憶に新しいW B C準決勝メキシコ戦。
4-5と1点リードされた状態で迎えた9回裏の日本の攻撃。
この回先頭打者は大谷選手。
ホームランで同点の場面ですが、後ろにもいい打者が控えていると考え、
まずは必ず出塁するという想いで、いつもよりバットを短めに持ち、
コンパクトなスイングを心がけて放った一打はセンター右への2塁打。
塁上で「俺に続け!」とばかりに日本ベンチに向かって叫ぶ大谷選手。
次のバッターは今大会で好調を続ける4番吉田正尚選手。
ここで日本ベンチ内はさまざまな場面を想定して、
監督、コーチ、選手の心理が交差していました。
次の打者は若き主砲、村上宗隆選手ではありましたが、今大会は絶不調。
この日も3つの三振を喫するなど、本来の調子とは程遠いものでした。
ベンチでは吉田選手が出塁した時の状況を想定し、
不調の村上選手に代打を送り、犠牲バントで2人のランナーを得点圏へ進め、
この日ヒットを打っている岡本選手、山田選手の一打でサヨナラ勝ち、
というシナリオがありました。

そこで栗山監督は城石コーチに指示を出し、
ベンチに残っていた唯一の野手である牧原選手に犠牲バントの可能性を示唆しました。
ところがこの大舞台で追い込まれた状況での犠牲バントは大きなプレッシャーとなり、
城石コーチの話を聞いた牧原選手は顔が真っ青になるほど不安に駆られました。
栗山監督の横に戻った城石コーチに対して、
「送りバントの指示はしてくれた?」と声をかけた栗山監督。
「は、はい。。」と少し戸惑った回答をした城石コーチ。
栗山監督は城石コーチの表情は見なかったそうですが、
その一瞬の返事のずれ、迷いを感じ取ったそうです。
そこで栗山監督は即座に、「宗に任せる」と決断したとのこと。

大きなプレッシャーを受ける中で犠牲バントを成功させる確率。
失敗した時にダブルプレーになる確率。
不調の村上選手に打たせた時にヒットになる確率。
諸々の状況を想定して一番確率が高いと判断し、村上選手に任せたそうです。
結果は皆様ご存知の通り、村上選手のサヨナラタイムリーツーベース。
劇的な幕切れとなり大きな感動を読んだ試合でした。

牧原選手が受けていた大きなプレッシャー。
それを感じ取る城石コーチ。
そして城石コーチの少しの迷いを感じ取った栗山監督。
普段のコミュニケーションが大舞台での成功を生み出した好例とも言えるでしょう。
微差に気付けるほどの意思疎通をしていきたいものですね。