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星 寿美

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第16回 『社員全員辞める?!』社内の対立を解決する方法

2021/08/01

ある介護会社での実例です。
看護師と介護士が対立して「全員辞める!」くらいに険悪に拗れてしまい、社内では解決が難しい、ということでご依頼してくださいました。

全員が私とは初対面で「このよそ者、一体誰?」という状況から対立を解決しないといけないという厳しい状況でした。

と、いうのは。
私は通常、お一人お一人と個別に面談をし、話をじっくり伺う中で、関係性を構築してから、そして全体像を把握してからの全体会議、というのが得意な流れです。

しかし、この時はそんな猶予もなく「全員を集めるのでなんとかしてください!」というご依頼でした。

不穏な空気から始める会議

メインの人物は5人対3人。
集まってもらった会議室内は不穏な空気が流れていました。
「事情を少し聞いただけの外部の人間がポンと来て何がわかるのよ。」
「知らないくせに私たちをジャッジするの?」など、不満や不安の表情です。
場を和ませるためのアイスブレイクなんて、とてもじゃないけれど出来ません。

そこで、私は最初にこんな話をするところから始めました。

「私はどちらかが『いい・悪い』を見極めるために来たわけではありません。
どの感情にも必ず『理由』があります。
皆さんは、その理由の部分をお互いに誤解しあっているだけだと思います。
私は、その誤解を解くためにきました。

その後、10分ほどお時間をいただいて『感情についての講義』をしました。

『自分から起こる感情には必ず理由があり、そのどんな感情も大切にすべきもの。』
『誰の感情も否定することはできない。』
『感情の奥にある、理由の部分で理解しあえれば人は必ず繋がり合える。』
というような内容です。 

誰も否定することはない、という部分で安心していただけたのか、講義は興 味深く聴いていただけました。

この 最初の感情についての理解、チューニングがアイスブレイクの役割を果たしたのでしょう。
その後、積極的にご参加いただくことができました。

相手の話を聴く心の余裕を作る方法

どちらの派閥からでもいいのですが、まず看護師たちの話を聞きました。
話の最中で介護士たちが「ちょっと!」と、感情的に反応する場面がありますが「後ほど、好きなだけ反論できます。」と諭し、ひたすら聞きます。

次に介護士達が言いたいことを言います。
すると今度は看護師達が反応する場面がありますが、同じように諭し、ひたすら聞きます。

そうやって交互に言いたいことを、全部出し尽くす場を作りました。
お互い に刺激、触発しあいながら、言いたいことを、出し尽くしていただきました。
もう言うことは何もない、と言い尽くして満足するまでです。

すると、そこでやっと相手の言葉が耳に入るようになります。

実際には、聞こえているからこそ、反応して感情的になるのですが、それは自分視点の聞き方、反応する聞き方です。

ここで言う「耳に入ってくる」というのは、客観的にという意味です。

実は、自分自身を表現できていないと「理解してほしい!」という気持ちがいっぱいの状態で、客観的に聞けないし、心のゆとりもありません。

十分に自分を表現して、やっと「さて、相手は何を言おうとしているのかな?」と心のゆとりが生まれ、客観的に聞けるようになります。

また、使っている単語の概念がお互いに違う場合も多いので、ファシリテーターが「この言葉は、どういう意味で使っていますか? 」とチューニングすることも大事です。
そうやって、言語化のお手伝いをしながら、言いたいことを全部表現していただきます。

お互いに話をじっくり聴く中で、ファシリテーターが、

「それは、こういうことで間違いないですか?」
「こういう気持ちになって悲しかったのですね?」
「なぜ、悲しさを感じたのだと思いますか?」
「その時に、どうして欲しかったのでしょうか?」

などと、適切な質問をし、内容をまとめて確認していきます。

するとどうでしょう。

自分の正しさを「わかって!わかって!」と主張しあって対立していた2派閥が、お互いを理解しようと言う空気感になっています。

対立を鎮める時、どちらが『いい・悪い』と言う2元思考に陥ると拗れます。
コツは「全部正しい!」これに尽きます。

「全て正しく、そしてどの感情も大切なもの。」という根っこから外れないことです。
なぜなら、誰もが尊重されたいからです。

対話を終えてからの感想

・態度に傷ついたし、バカにされていると思い込んでいましたが、本当は全然違うポイントでイラつかせていたんですね。確かにそのポイントは甘かったかも。

・いちいちムカついてしまっていたけれど、本当はそんな思いやりの気持ちからの態度だったんですね。知りませんでした。

・その時に思ったことを伝えていたら全然拗れることなんてないのに、陰でいっちゃって尾ひれがついて、こんなになっちゃうなんて、本当に怖いです。これからはちゃんと気持ちを本人に伝えるようにします。

・もっと相手を信じればいいのだと気づきました。勝手に悪く思い込んで、どうせダメだろうと伝える前に諦めていました。

・自分なりには一生懸命にやっていたつもりだったけれど、仕事に対するプロフェッショナルな考え方や視点、私の方に甘さがあったことに気づけました。

・意地悪と捉えることが、仕事上で幼い捉え方だったと気づけました。まだ見えていないことが他にもありそうです。成長したいです。

などなど。
対話を通じて多くの気づきを、それぞれが得たようです。

表面上の解決は意味がない!

この仲裁方法は、私が保育士時代に編み出した方法です。

他の先生方は、喧嘩をした子どもの話を先生が聞いて、例えば「先に手を出したのは○○くんね!先に謝ろうね。」などと先生がジャッジし指示します。

子ども達は納得できない顔で「ごめんねー。」「いいよー。」と形式的に言い合って握手して・・・。

そんな場面を見るたびに私は違和感を覚えました。
それで、自分が納得出来る方法を模索して、編み出したのがこの方法です。

当人同士が思う存分、言いたいことを言い合える、その場だけを作りました。
すると、子どもたちは納得して理解しあっていきました。
ジャッジは必要ないということ。
ちゃんと伝え合えば心から納得して繋がり合えること。
それを何度も子どもたちが見せてくれました。 

それに、表面だけ解決したように見えても、本人同士納得できないばかりか、
『自分たちで解決できる力を育てる機械の損失』と私は感じていました。

私が介護会社で実施したのは、保育園時代に子どもたちにしたことと全く同じことでした。
大人相手ですから目的を最初にお伝えし、話をまとめたり質問したりして、少しはお手伝いしましたが。

どんなに感情的に絡み合った糸でも、すべての感情を尊重し大切にすること。

そして、いい悪いというジャッジではなく、感情の『理由』を言語化し表現するお手伝いをすることで理解しあえる、絡み合った糸をほぐすことができると私は実感しています。

人間関係を解決する際に、思い出していただければ幸いです。