第49回 シェイクスピアの登場人物のレジリエンス(37)テンペスト(嵐)
2022/05/24
前回はシェイクスピアのロマンス劇「終わりよければすべてよし」の主人公ヘレナのレジリエンス分析を行いました。
今回はシェイクスピアの単独執筆の戯曲として遺作となったロマンス劇「テンペスト(嵐)」の主人公ミラノ大公プロスペローのレジリエンスを分析してみます。
今回も参考にしたのは、松岡和子先生の翻訳、BBCのDVD、そしてOxford版のシェイクスピア全集、そして大学の後輩たちの作品を観た時の記憶です。
この作品は1611年~12年頃に書かれた作品といわれていて、ロマンス劇時代のペリクリーズ、シンベリン、冬物語の後に書かたと考えられています。
その後、若手の売れっ子作家ジョン・フレッチャーとの共作として「ヘンリーVIII」と「二人の貴公子」を書きました。
このシリーズでは、シェイクスクピアの単独執筆作品をとり上げてきましたので、今回の「テンペスト(嵐)」が作品として扱うのは最後です。
また、次回はシェイクスピアの生き方はどうだったのかを振返って、シェイクスピア自身のレジリエンスを分析してみます。
テンペストというのは周期的に来る大嵐のことで、語源は”temp”ということになります。
この”temp”という言葉は音楽などのテンポ、寺院という意味のテンプル、変化する個人の気性などのテンパー、そして体温のテンペレチャーといった語と同じ語源です。
私の大学時代、こうしたことに造詣が深いO先生がいろいろと教えてくれました。
ちなみに寺院のテンプルですが、紀元前には中東などの寺院で時間を計測していたといわれていて、日本でも“日”に“寺”を加えた漢字が時であることは偶然ではないと思われます。
日本の古い寺院も時を計測していた場所であるということが言われています。
プロスペローがミラノ大公の地位を奪われた後、この劇の舞台になっている無人島に流れ着いたのは12年前です。
娘のミランダが3歳の時でした。プロスペローは魔法によりテンペスト(嵐)を起こし、自分と娘をここに追いやったナポリ王やプロスペローの実の弟アントーニオなどの一行をこの島に導いたのです。
この作品のモデルになった作品は特には無いようですが、松岡和子先生の翻訳の解説で、河合祥一郎先生が「一六0九年ジョージ・サマーズ卿一行がバミューダ諸島で遭遇した際の奇談(『バーミューダ諸島での発見』)を利用したことは確か」と述べています。
シェイクスピアは当時話題になったトピックを応用することに長けていたことが分かります。
「テンペスト(嵐)」のストーリー
ミラノ大公プロスペローは、魔術の研究に没頭していて政治は弟のアントーニオに任せきりにしました。
アントーニオは権力欲しさから兄の宿敵であったナポリ王アロンゾーと結託して、兄プロスペローとその娘ミランダ(3歳)を船で海に流します。
たどり着いた無人島には魔女の息子である半人半獣のキャリバンと、妖精のエアリエルがいるだけでした。
プロスペローはこの二人を手下として支配します。
海に流される時に、ナポリ王の臣下ゴンザーローがプロスペロー親子に同情して、生き延びられるように食品や衣類、そしてプロスペローが愛する魔法の書籍などを船に積んでおいたのです。
そのおかげでプロスペロー親子は命を長らえることが出来ました。
プロスペローにとっては絶好のチャンスが訪れました。
宿敵一行が島の近くを通ることになったのです。
テンペストを起こし船を難破させ、ナポリ王一行と王子ファーディナンドとを島の別々のところに上陸させます。プロスペローの娘のミランダは、どうか可哀そうなことをしないで欲しいと父に訴えます。
プロスペローは、全員が無事だと告げたため、ミランダは安心します。
ミランダはナポリ王子ファーディナンドと恋に落ちます。プロスペローは簡単には二人を許さず、ファーディナンドに丸太を運ばせるなどの試練を与えます。
ファーディナンドがそれを受け容れ努力する姿に、プロスペローの心も和らぎます。
その結果、二人の結婚を許します。
一方、島の別のところに流れ着いたナポリ王アロンゾーは王子がおぼれ死んだと思い、嘆きます。
しかし、アントーニオはナポリ王の弟セバスチャンをそそのかし、王アロンゾー暗殺を企てますが、プロスペローの命を受けたエアリエルによって阻止されます。
プロスペローはアロンゾーからの心からの詫びを受け容れ、すべての悪事を掌握しているアントーニオも許し、ミランダとファーディナンドという若い二人の結婚を喜びます。
自分はミラノ大公に戻り、静かな余生を望みます。
そして魔法の杖を折り、マントを置きます。
ミランダが発する「素晴らしい新世界、こんな人たちが住んでいるのね」という言葉が象徴的です。
プロスペローのレジリエンス
彼のレジリエンスは、以下のようになりました。
今回も以下の代表的なレジリエンス要素を用いて分析をします。
1.自己効力感
2.感情のコントロール
3.思い込みへの気づき
4.楽観
5.新しいことへのチャレンジ
自己効力感はある程度高かったことと思いますが、やや他者を見下す傾向があり、島の原住民ともいえる妖精エアリエルや怪物キャリバンを魔法の力によって奴隷のように扱います。
昔ながらの権力者の思考が、自らが流れ着いた島でも抜けなかったようです。
感情のコントロールはこの舞台の日までは、自分たち親子を海に追いやったナポリ王アロンゾーや自らの弟アントーニオには復讐心が燃えていたと思われますが、ミランダとファーディナンドという若い二人の純粋な恋愛感情を見守る内に感情のコントロールを取り戻します。
思い込みへの気づきという面は、島へ流れ着いてからの12年間、ずっと復讐心に捉われていたと考えられます。
劇の最後にそれは氷解します。
楽観という視点は、最後の最後ではすべてを許し、ミラノ大公に戻ることを前提に楽観できるようになりました。
新しいことへのチャレンジという視点は、若い二人を祝福しようと妖精たちを使って宴を催します。
次回は、シェイクスピアの生涯と彼のレジリエンス分析をしてみます。
シェイクスピアシリーズのはこれで筆を置きます。
レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。
また、シェイクスピアに関するビジネス活用のご参考として、拙著:「できるリーダーはなぜ「リア王」にハマるのか」(青春出版)があります。
この書籍はシェイクスピア作品を通してビジネスの現場にどう活かしていくかを検討するために書かれました。
toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
株式会社ミヤマコンサルティンググループ