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深山 敏郎

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第39回 シェイクスピアの登場人物のレジリエンス(27)ヘンリーVI第三部

2022/03/15

前々回前回、今回とシェイクスピアのデビュー作と言われている「ヘンリーVI三部作」を検討していきます。

私は残念ながら舞台でこの芝居を観たことがありません(観るチャンスはあったのですが、当時はあまり興味を持てませんでした)。
そのためもっぱらBBC制作のDVDと、必要に応じてRSC(ロイヤルシェイクスピアカンパニー)版及びOxford版の原作、そして松岡和子先生の翻訳等を参考にしてこのコラムを書いています。

この三部作のタイトルには「ヘンリーVI」という名前がついているのですが、主人公としてヘンリーVI(以下、ヘンリー王)を採り上げるにはあまり彼の描かれ方に演劇的魅力を感じませんでした。
したがって、今回は私が演劇的に非常に魅力を感ずる王妃のマーガレット(マルグリットとも。以後、マーガレット)を採り上げます。

BBCのDVDでは、このマーガレットをジュリア・フォスターが演じています。
彼女は1960年頃からさまざまな舞台・映画・テレビで活躍した英国のスターであり、この役柄を非常に的確に演じています。
彼女はヘンリー王の心の弱さを補うに余りある気性の激しさと強い意志、そして実行力で宿敵ヨーク公リチャード・プランタジェネットにとどめを刺します。

その背景には、夫のヘンリー王がヨーク公に脅迫された末に約束させられた「王の死後はヨーク家に王位を返還する」ということに激怒して、自分たちの息子に王位を継がせようという強い意志がありました。
ヨーク公側は、息子たち、つまり長男マーチ伯エドワード(後のエドワードIV)、次男ジョージ(後のクラレンス公爵)、三男リチャード(後のグロスター公爵、そしてすでにこのコラムシリーズでご案内した「リチャードIII」の主人公リチャード)などに王位を継承させようとマーガレット軍と戦います。

ハイライトはヨーク軍とマーガレット軍の熾烈な戦い

第三部は、ヘンリーVI王(以下、ヘンリー)の赤薔薇派と、ヨーク公の白薔薇派の熾烈な戦いで開幕します。

これまでのヘンリーVI第一部、第二部のオープニングと対比してみましょう。
第一部、第二部ともにオープニングは非常に象徴的なシーンでした。
第一部では名君といわれたヘンリーVの葬式からスタートしますが、第二部はヘンリーVIとマーガレット(マルグリート)の結婚式から始まります。

それらに対して、第三部ではヨーク公がヘンリーに対して王位を返還するよう求めます。
もとはといえばヘンリーIVの時代に王権をヨーク家から簒奪をした形で王座に就きました。
その後、ヘンリーV、ヘンリーVIと王位は移りました。
力のないヘンリー王は、ヨーク公の要求に、自分の命が絶えた後はヨーク家に王座を返還すると約束をします。
しかしそれに対して、王妃マーガレットは激怒して自ら軍を編成してヨーク軍に戦いを挑みます。

「ヘンリーVI 第三部」のストーリー

既にご説明した内容とかぶるのですが、ヨーク公はヘンリー王に王位返還を求めるところからスタートします。
それに対してヘンリー王は当初拒絶していたのですが、旗色が悪く、渋々と自分の死後に返還すると約束をします。
それを後から知ったマーガレットは激怒し、自分たちの息子である皇太子に王位を与えないつもりか、とヘンリー王に愛想をつかします。
マーガレットは自ら軍を率いてヨーク公に挑み、ヨーク公を殺し、その首をヨーク市の城門に掲げます。

ヘンリー王は非常に弱腰で、直接は戦に参加せず素朴な羊飼いの生活をうらやんでいました。
戦場では、そうとは知らずに自らの父親を殺した息子、それとは正反対に息子を殺すはめになった父親などの悲嘆が描かれます。
その後、マーガレット軍とヨーク軍の戦は結局、ヨーク公の長男エドワードの率いるヨーク軍に軍配が上がります。
エドワードはフランスのルイ王の義理の娘ボーナ姫と結婚する決意をします。
またロンドンではエドワードの戴冠式の準備が行われています。

グレイ未亡人がエドワードに領地の返還を求めます。
好色なエドワードはグレイ未亡人の肉体を求めます。
未亡人に拒絶されるなどして領地を返還する約束をしてしまいます。

一方でヘンリー王はヨーク軍に捕らえられ、また、マーガレットと皇太子はフランス宮廷に逃れます。
当時ヨーク派のウォリック伯爵(後にランカスター派)はフランスのボーナ姫にヨーク公の意向を伝えます。
同時にエドワードがグレイ未亡人と結婚したという知らせも届きます。
激怒したウォリック伯爵(以後、ウォリック)はエドワードと王妃を討つことを決めます。
フランスのルイ王もウォリックを応援します。

ヨーク家の次男ジョージは兄の王妃選びに不満を表します。
また、ルイ王からは怒りの使者が宮廷に届きます。
ジョージはウォリックの末娘と結婚し、宮廷を去ります。
長兄エドワードの元には三男リチャード(後のリチャードIII)が残ります。
リチャードには隠れた意図があるからです。

エドワードは捕らえられ、再びヘンリーVIが実権を握りますが長続きしません。
ヨーク家の三男リチャードが兄王を救うために戻ってくるからです。
ヨーク軍と、マーガレット・ウォリック連合軍(以下、連合軍)はコヴェントリー市で戦います。
次兄ジョージは、今度は連合軍を裏切ります。
その結果、連合軍は敗れ皇太子は殺され、マーガレットは国外追放となります。
ロンドン塔に幽閉されていたヘンリー王も、リチャードに刺し殺されます。

こうしてエドワードIV王体制が完成されます。
しかし、ヨーク家三男リチャードの野望が隠されているのです。

王妃マーガレットのレジリエンス

彼女のレジリエンスは、以下のようになりました。

今回も以下の代表的なレジリエンス要素を用いて分析をします。
1.自己効力感
2.感情のコントロール
3.思い込みへの気づき
4.楽観
5.新しいことへのチャレンジ

自己効力感は高く、高いプライドを持っています。
一方でプライドを傷つけられると非常に憤慨するという面も持ちます。
当時の王妃としては当然のことだったのかもしれません。
ヘンリー王が終始弱腰であることへの反発もあったことでしょう。
彼女はまた盟友ウォリックや彼の弟モンタギューという重要な戦力を失って気落ちしている味方の諸侯をスピーチで鼓舞し続けます。
相当に意志が強いことが分かります。
また、皇太子が目の前でヨークの三兄弟に刺殺されても気を落とさずヨーク家に挑戦的な言葉を叩きつけます。

感情のコントロールは、得意ではありません。
特に母親としてヘンリー王と自分の息子である皇太子が王位継承出来ないという約束をやすやすとしてしまう弱腰のヘンリー王の意思決定に激怒します。

思い込みへの気づきという面では、強い信念が、すなわち思い込みとも言えるでしょうがこの戯曲の中では王妃として当然の思考であったかもしれません。

楽観という面は、高くは描かれていません。
歴史上の人物がどうだったかは不明ですが、シェイクスピアが描くマーガレットは気が強く、悲観的な考え方のもとに行動をしているように思えます。

新しいことへのチャレンジという視点は、この戯曲の中では判断は難しいと考えます。

次回は、シェイクスピアの歴史劇「ヘンリーV」を検討してみます。
ヘンリーVはヘンリーVIの父親であり、「ヘンリーVI」においてはハル王子として描かれています。

レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。

また、シェイクスピアに関するビジネス活用のご参考として、拙著:「できるリーダーはなぜ「リア王」にハマるのか」(青春出版)があります。
この書籍はシェイクスピア作品を通してビジネスの現場にどう活かしていくかを検討するために書かれました。

toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
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