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深山 敏郎

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第27回 シェイクスピアの登場人物のレジリエンス(15)オセロー

2021/12/21

前回はシェイクスピアのロマンス劇「冬物語」の主人公レオンティーズを私なりに分析してきました。

今回はレジリエンス応用編の第十五弾として、シェイクスピアの戯曲「オセロー」の主人公、嫉妬に狂うムーア人の将軍オセローのレジリエンスについて検討してみます。

「オセロー」は誰もが持つ“不安”をテーマにした悲劇

「オセロー」はシェイクスピア四大悲劇の一つです。
舞台では、主人公のオセロー役は時代を代表する名優が演じてきました。
ギリシャ悲劇「オイディプス王」が自らの運命に翻弄される主人公を描き、あたかも人間の宿命、あるいは原罪を描いているような作品であるとすれば、この「オセロー」は妄想によってどんどんビルドアップされていく不安を制御しきれずに嫉妬に狂う夫を描いています。
いわば、夫婦の問題、家庭問題を扱ったリアルな戯曲です。
また、ムーア人とは北西アフリカのイスラム教徒であることから、人種差別を受けていた主人公の事情などもこの不安の背景にはあると言えるでしょう。

因みに、「オイディプス王」は、ソポクレス作のギリシャ悲劇で古典として扱われた作品で、アリストテレスも絶賛しています。
テーバイのオイディプス王の悲劇です。
王自らの出自を知らずに育ち、実の父をそうとは知らずに殺し、母と結婚をして子供を設け、そのためにテーバイが危機に陥ります。
そのことを知らされた母であり妻は自害し、オイディプスも両目を自ら葬り去ります。
心理学の「エディプスコンプレックス」の語源にもなったギリシャ古典作品です。

「オセロー」は主人公のオセロー、妻であり夫に絞殺されるデズデモーナに加えて、裏で筋書きを書いてオセローを操作するイアーゴーのそれぞれの悲劇です。
筆者は舞台で何度かこの芝居を観ましたが、いずれも感動する素晴らしい作品でした。
簡単に言えば、自信がない男のコンプレックスが原因で自ら感情のコントロールを失い、破滅への道を歩むという筋立てです。
夫婦の悲劇、家庭の悲劇という側面が強いリアルな芝居になっています。
一方、現代のオフィスで言えば上司が感情のコントロールを失いパワハラに至るといった悲劇をも連想させます。
人間の愚かさを正面から描いた作品です。

前回扱った「冬物語」はシェイクスピアの成熟期に描いた戯曲で、「許し」がテーマとなっていますが、この「オセロー」は救いのない悲劇です。

「オセロー」のストーリー

「オセロー」の舞台はヴェニスで、ムーア人の将軍オセローがヴェニスの元元老院議員の娘で美しく貞淑な妻デズデモーナと結婚します。
デズデモーナは父の強い反対を押し切って結婚し、キプロス島総督として現地に赴く夫に同行したいとまで公爵に願い出ます。
敵を倒したオセロー将軍はキプロス島に上陸し、大歓迎を受けます。
その中でたった一人だけ彼を逆恨みしていた人物が悪役イアーゴーです。
彼は自分が希望していた副官をライバルであるキャシオーに取られたことから、オセローを逆恨みします。

イアーゴーは、色男キャシオーとオセローの妻デズデモーナの不倫話をでっち上げます。
徐々にオセローはそれを信ずるようになり、嫉妬に狂います。デズデモーナは夫の気持ちの変化を嘆きます。
最後は妻を疑い、絞殺します。
後に真実を知ったオセローは自らの愚かさを知り、後悔して自ら死を選びます。

オセローのレジリエンス

オセローのレジリエンスは、優秀な将軍としての側面と、嫉妬に狂う夫としての側面から描かれています。

今回も以下の代表的なレジリエンス要素を用いて分析をします。
1.自己効力感
2.感情のコントロール
3.思い込みへの気づき
4.楽観
5.新しいことへのチャレンジ

自己効力感は、軍事においてはとても高いのですが、夫婦の愛情を育むのに必要な信頼感という側面ではとても低いと言わざるを得ません。

感情のコントロールは、この戯曲最大のテーマであり、人間の弱さを赤裸々に描いています。
とても苦手であったと思われます。

思い込みへの気づきという面では、前述の悪役イアーゴーに見事に操作されて、思い込みから抜け出すことが出来ません。イアーゴーも嫉妬から何と罪深い所業に及んだことでしょうか。

楽観という視点からは、恐らくムーア人に対する偏見、迫害もあったことでしょう。
なかなか事態を楽観することが出来なかった様子です。

新しいことへのチャレンジという視点は、この戯曲の中ではまったくといっていいほどしていません。

かなり厳しい評価になりましたが、シェイクスピアは人間誰にでも内在する愚かさに焦点を絞ってこの悲劇「オセロー」を描いていますので、このようになるのが当然でしょう。
因みに私が舞台で演ずるとすれば、躊躇なくイアーゴーを選ぶことでしょう。
シェイクスピアの悪役にはそれほど魅力があります。

次回は、雰囲気を変えてシェイクスピアの傑作喜劇「お気に召すまま」を検討してみます。

レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。

また、シェイクスピアに関するビジネス活用のご参考として、拙著:「できるリーダーはなぜ「リア王」にハマるのか」(青春出版)があります。
この書籍はシェイクスピア作品を通してビジネスの現場にどう活かしていくかを検討するために書かれました。

toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
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