前回はシェイクスピア作品「恋の骨折り損」の主人公の一人ファーディナンドについて、私なりに分析してきました。
今回はレジリエンス応用編の第九弾として、シェイクスピアの戯曲「リチャード III」の主人公、リチャードIIIのレジリエンスについて検討してみます。
「リチャード III」は、シェイクスピアの大ヒット作
「リチャード III」(創作年代:1592-1593年)は、シェイクスピアの出世作といわれる戯曲です。
習作時代と言われる時代に、歴史劇ヘンリーIV三部作の後に、薔薇戦争をしめくくる作品として書いたものですが、ヘンリーIV三部作との違いは、圧倒的な悪役リチャードただ一人を主人公にした点です。
ローレンス・オリヴィエ監督・主演のこの作品をビデオで観たときに衝撃が走りました。
なぜかといえば、同じオリヴィエのハムレットを観たときには、あまり感じなかった圧倒的な演技力がそこにはあったからです。
オリヴィエ登場から数分は本人であるとはまったく気づきませんでした。
オリヴィエのリチャード IIIをまだご覧になっていない方には、是非お勧めします。
「リチャード III」のストーリー
生まれながらに背骨が曲がって足を引きずる、肉体的に醜い姿のリチャード(但し、これはシェイクスピアの創作といわれていて、最近のリチャード IIIの遺骨鑑定ではリチャードの背骨は湾曲していなかったとされています)は、さまざまな姦計でイングランド国王候補を陥れ殺害して、ついには王座を手に入れます。
オリヴィエの映画では、リチャードの姦計を独白する冒頭の話し方は静かなのですが、大迫力です。
その通りに物語は進んでいきます。
一族のGを頭文字にした人間が王位継承者を皆殺しにするというデマを流布させます。
こうして兄のクラレンス公ジョージを無実の罪で殺害します。
また、リチャードは国王への階段を昇るために、自らが殺害したエドワードの葬儀の時に未亡人アンを口説き結婚してしまいます。
国王の座を手に入れるための道具として使うのです。
一事が万事で、他人を信用せず、自らが国王になるために不都合な人物はすべて屁理屈をつけて殺害してしまいます。
こうした方法で国王になったリチャードは、非常に孤独で最後は彼が殺害したさまざまな親族の亡霊に悩まされます。
彼を信頼する臣下がまったく居なくなって、敵リッチモンド軍との対決に際しては意気が上がりません。
最後は乗馬が倒れても戦おうとしますが、最後はリッチモンドの手で殺害されます。
「馬をくれ、馬を。馬と引き換えに我が王国を差し出そう」(深山拙訳)という有名な台詞はこの状況の中で出てきた言葉です。
このようにしてリチャードを倒したリッチモンド(後のヘンリー VII)が、エドワードIVの娘エリザベスと結婚宣言して、赤薔薇のランカスター家と白薔薇のヨーク家が結合して薔薇戦争に終止符を打ちます。
長い薔薇戦争の終わりでした。
リチャード IIIのレジリエンス
今回も以下の代表的なレジリエンス要素を用いて分析をします。
1.自己効力感
2.感情のコントロール
3.思い込みへの気づき
4.楽観
5.新しいことへのチャレンジ
自己効力感は王座につくプロセスを見ていると、非常に知的な能力も高く、自身満々に見えるため、一見高いように見えます。
しかし、(シェイクスピア作品の中では)身体的な醜さに由来すると思われるコンプレックスが非常に強く、自身を含めて周囲の人を誰も信じないという設定です。
感情のコントロールという面では、部下のちょっとしたミスに対しても許すことなく、それが原因で国王になった後も敵を作り続けます。
感情は表面に見せる時とそうでない時とがあるのですが、残念ながら基本的に自らコントロールすることが出来ないと言えるでしょう。
思い込みへの気づきという面では、姦計を練る段階では非常に柔軟でさまざまな独創的な手段を考え、また実行するのですが、根本に他者を信用してはいけないという決定的な思い込みがあります。
そのため、イングランド王になるという自分の野望は達成するものの、周囲から見放されて滅亡へまっしぐら、となります。
楽観という視点からは、まったく見受けられません。
周到な準備をして、それでも他人や状況を疑い他を排斥する方法を取り続けます。
新しいことへのチャレンジという視点は、悪事に関しては天才的に発揮したと言えます。
例えば一族でGのつく人間が王位継承者を皆殺しにする、と流布するなどです。
もし彼が独創的な才能を、国の発展に使ったならばこのような悲劇に終わらなかったでしょう。
シェイクスピアが、このように本来あるべき姿に進まなかった主人公としてリチャードを描くことで、人間とは何かを我々に問いかけてくるように思えます。
人間は自らの運命に満足できない場合、それに逆らおうとする面があります。
それが多くのイノベーションを生み出してきたのは事実です。
ただし、その根底に社会や自他の幸せということを意識しなければ、悲劇に終わることが多いのだと思われます。
次回は、シェイクスピアの四大悲劇の一つ、「マクベス」を検討してみます。
レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。
また、シェイクスピアに関するビジネス活用のご参考として、拙著:「できるリーダーはなぜ「リア王」にハマるのか」(青春出版)があります。
この書籍はシェイクスピア作品を通してビジネスの現場にどう活かしていくかを検討するために書かれました。
toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
株式会社ミヤマコンサルティンググループ