先日、日本経済新聞に「携帯ショップ、市区町村の4割でゼロ 高齢者のデジタル格差の一因に」という記事が掲載されました。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手3社の携帯ショップが一つもない市区町村が、2026年には全国約1800のうち42%に達する見通しだという内容です。店舗数はピークの2013年に約1万1500店あったものが、26年3月末には14%減の9900店前後まで減り、30年には約9800店とさらに落ち込むと見込まれています。とりわけ地方の減少が顕著で、1店舗当たりの平均カバー面積は、店舗数首位の東京都が11平方キロメートルなのに対し、全国最少の鳥取県では東京の29倍となる321平方キロにのぼるといいます。
時代の流れからすれば、決して珍しいことではないのかもしれません。ただ、この記事は私にとって、どうしても他人事として読めないものでした。
コンサルタントとして駆け出しの頃、もう20年以上前になりますが、私は携帯ショップ関連の仕事をたくさんいただいていました。窓口の方々の接客スキル試験の問題を作り、接客試験の試験官を務め、携帯キャンペーンのイベント全体をアセスメントし、イベントディレクターの指導もする。最初の10年ほどはドコモさんに相当お世話になったと言っても過言ではありません。自分自身も携帯のことはよく勉強していましたから、当時は相当詳しかったと思います。
あの頃のショップには、まだ勢いがありました。お客様がひっきりなしに来店し、「待ち時間をどう解消するか」が店舗の大きな悩みだったほどです。しかし実は、その頃ですらキャリアからの販売奨励金が細り、手数料の率も下がり、「ビジネスモデルの転換を図らなければならない」という話はずっと出ていました。そうした流れのなかで、私自身の携帯ショップの仕事も、少しずつ少なくなっていったわけです。
現在の運営が決して楽ではないことは、端から見ても、関係者の話からも、実質的な売り上げベースから見ても伝わってきます。携帯・スマホを世に広めるという一つの役割を、この業界はすでに果たし終えたということなのでしょう。ここから先は、高齢者をはじめとするデジタル弱者の支援が軸になるのでしょうが、そこから収益を上げていくのは、正直なところかなり難しい話だと思います。
驚かされたのは、先ほどのカバー面積の数字でした。過疎地だからこそ、本来はもっと細かくカバーしなければならないはずなのに、現実はまったく逆になっている。これは、選挙の一票の格差の議論とどこか似ています。面積や人口といった数字だけでは測れないものが、確かにあるのだと思います。記事によれば、ドコモは25年度までに3割削減するとしていた方針を実質撤回し、ソフトバンクも店舗網を維持する方針を示しているそうです。商売である以上、採算は当然問われます。しかし携帯ショップには、ある意味で公共インフラとしての側面もある。であればやはり、一定のネットワークは維持されるべきではないでしょうか。
本コラム第276回で、通信は電気や水道と同じく止まることが許されない社会の「土台」だと書きました。第270回では高齢者のデジタルデバイドとTOKYOスマホサポーター制度を取り上げ、身近に教えてくれる人がいるかどうかが活用の分かれ目になると書きました。携帯ショップは、その両方をつなぐ結節点です。記事にも、キャリア上位3社がスマホ教室を25年に計200万回超開いたこと、7月下旬の熊本地震では販売店を通じて被災者向けの端末交換やSIM再発行、充電サービスが提供され、KDDIの車両型店舗が避難所を巡回したことが紹介されていました。第282回で私は、災害時にはバッテリーこそが生命線になるのではないかと書きましたが、まさにその役割を、街の携帯ショップが担っていたのです。
一方で、AIがこれだけ普及していくなかで、ショップのあり方も当然変わっていきます。ソフトバンクが一部の販売店に、接客や商品・サービスの提案を支援するAI端末を無償で貸与しているという記述には、思わず目が留まりました。本コラム第283回で取り上げたハンズのAI接客と、構図はまったく同じです。現場の知見をAIが写し取り、接客を「増幅」する。デジタルは人を消し去るのではなく、人の力を増幅する装置である――この軸は、ここでも少しも揺らぎません。
ただ、私が思うのは、もう一段手前のことです。そもそも私たちが、スマホやデジタルと「どう共生していくのか」というイメージそのものを、社会としてはっきり描けていない。だからこそ、ショップが果たすべき役割も見えてこないのではないでしょうか。今のままでは、ショップは「お年寄りをはじめとする情報弱者のよりどころ」という位置づけにとどまってしまいます。それ自体はもちろん尊い役割ですが、そこだけに閉じてしまえば、いずれ「ショップで働きたい」という希望者も少なくなっていくように思うのです。
盛者必衰とは言いますが、携帯ショップが登場した頃は相当儲かったと聞きます。そして今の姿は、実は当時から相当程度想像できたはずでした。ただ、そこに追いつけなかった。それでも私は、まだ巻き返せる気がしています。そのためには、一社一店舗の工夫ではなく、もう少し大きな単位――業界全体、あるいは行政も巻き込んだ枠組みで考えていく必要があるのでしょう。すでにそうした取り組みは始まっているのだと思いますが、少なくとも我々の目には、まだはっきりとは見えてきません。
生活インフラであることは間違いないのですから、ここから先どのように変わっていけるのか、しっかり注目していきたいと思います。そして何より、駆け出しの私を育ててくれたのは、ほかならぬこの業界です。何かお役に立てることがあるならば、ぜひお手伝いしていきたい。昔育ててもらった業界に、何とか復活してもらいたい。そんなことを強く願っている今日この頃です。