コラムの131回目では、老子の言葉「軍隊の本質」を検討してきました。
老子は、武器は不吉な道具であり、「道」を体得した人は戦をしないと言い切っています。
「老子」は、なぜレジリエンスを高めるのか
今回のテーマは、「そもそもなぜ『老子』がレジリエンスを高めるのか」をご説明します。
つまり、この「レジリエンス」シリーズの中でなぜ「老子」の言葉を引用するかをご説明します。
より早いタイミングでお伝えすべきでしたが、筆者にとっては当然のことのように思えていたため、改めてお伝えすることを怠っていました。
合計81章からなる書籍「老子」(徳間書店)の中には、さまざまな人生の知恵といった、いわば考え方の基本となる言葉が凝縮されています。
よく「老荘」といわれるように、「老子」と「荘子」は並び称されます。
「荘子」の中にも、「老子」と同じようにさまざまな知恵があります。
「荘子」の中には「胡蝶の夢」や、「大びょうたんの使いみち」など、さまざまな事例が慶子(けいし)などとの対話の形で記述されているのに対して、「老子」には短いたとえ話があるだけで、結論も簡潔に述べられています。
筆者は「老子」も「荘子」も人生の手本として、少しでもこうした考え方に近づこうとしています。
ほんの少しであっても人生が終わるまでに「道」を体得した人のように振舞えたならよいと考えています。
人生の岐路に立った時、生きることに疲れた時、悩みが消えない時などには必ず「老子」を読みます。
そして「荘子」を読みます。
そして生きる勇気をもらうのです。
生きる勇気、生きる力とは、私たちが苦境に陥ったときにもっとも大切な「レジリエンス」ではないでしょうか。
私たちがネガティブな思考に凝り固まった時、「老子」や「荘子」は必ず別の考え方もあるのだと教えてくれます。
心理学用語では「リフレーミング」といって、思考の枠組みを拡げるための手法があります。
つまり、「別の見方をしてみよう」と提案してくれるのです。
そうすると、小さなことでくよくよ悩んでいるのが、ばからしく思えます。
まるで、シェイクスピア戯曲「マクベス」の3人の魔女の台詞「奇麗は汚い、汚いは奇麗(Fair is foul and foul is fair.)のようではありませんか。
このように私たちの思考の枠組みを変えてくれる「老子」は、今では私の人生になくてはならないものになっています。
どのような時にも生きようという意欲をもたせてくれるのです。
また西洋には「どの雲にも銀色の裏地がついている(Every cloud has a silver lining.)」という諺があります。
人生のどしゃぶりの時でも、雨雲の裏、つまり太陽側は燦燦と照り輝いているのです。
だから気を落とさなくとも良いと教えてくれています。
「老子」はこうして私たちを、思い込みという谷底から救ってくれるのです。
本コラムが私たちの日々の悩みを和らげ、深く自省するきっかけになれば幸いです。
「老子」に関しては、徳間書店「中国の思想」第6巻「老子・列子」を参考にさせていただきました。
レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。
(筆者:深山 敏郎)
株式会社ミヤマコンサルティンググループ
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