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星 寿美

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第48回 胃を痛めるほど苦手な上司を好きになるプロセス

2022/03/14

入社4年目の佐藤楓さんは、26歳の若さでリーダーに抜擢されました。
仕事へのやる気と情熱、そして姿勢(行動)が評価されたのです。
実際に佐藤さんは、勤務以外の時間も『よりよくするには、どうしたらいいのか。』を常に考えていましたし、同僚への気遣いもできていました。

実際に、こんなこともありました。
2Days研修実施日の2日目、講師の私は1時間早く会議室に入りました。
すると、すでに佐藤さんが、寒い朝だったにも関わらず、暖房も付けずに一人でパソコンに向き合っています。

「おはようございます!早いですね!」と声をかけると。

「おはようございます!昨日の内容について、一人でじっくり考える時間が取れなかったので、早く来たのです。今日の研修も楽しみです!」

前日の研修後に、後輩の相談に乗ったり、業務に必要な書類作成などをしていて、じっくり課題に取り組めなかったのだそうです。
そして、朝早くに会議室に入ったけれど、たった一人のために暖房代をかけては申し訳ないと、必要な分の電気だけをつけて、暖房もつけずに取り組んでいる、その姿に私は感動を覚えました。

そんな期待の新リーダーだった佐藤さん。
ある時から上司との関係に悩み始めます。

もう続けることができないと思い悩む

上司の自分への態度が明らかに他の人への態度と違うと感じ始めた佐藤さん。
上司の表情や態度を『怖い』と感じるようになります。

部下からも「なんか、上司の佐藤さんに対する態度だけ違いますよね。」などと言われたことで、さらに「嫌われているのかも。」と思い込んでいきました。

声をかけて振り向いた時の顔がとても怖かったり、顔を見ずに返事をされる、その時の態度(雰囲気)に棘を感じたり、少しのミスで叱責されたり・・・

そんなことが積み重なり、胃がキリキリと痛み始めます。
しかし、仕事上はなんでもない風を装い、後輩たちのためにも、いつも通り明るくしていたそうです。

本当に感じていることを伝える

ある日私は、佐藤さんから「相談があります。」と電話を受けました。
最初は「今の仕事が合ってないかもしれない。」「本当にやりたいことは他にあるかもしれない。」などの、当たり障りのない相談でした。

とにかく、何を言われても「そうなんですね。」「そんなふうに感じているんですね。」「なるほど。」と、とことん『ありのまま』聞き続けました。
すると少しずつ、本当に話したいことがポロポロと出てきたのです。

とことん、ありのままを受容する大切さを今回も痛感しました。
そして、上司との関係に思い悩んでいることを聞き「会って話しましょう。」とすぐに会う約束をしました。

仕事の後、お会いし3時間半、話をお聞きしました。
その時の話を要約すると『私に向ける表情が怖い!』『嫌いだという雰囲気が出ている!』『怖くて近寄れない!』というものでした。
さらに・・・

そういう時に、佐藤さんは「私が何か間違えているのだろうか?」「どうしたら納得してもらえるのだろうか?」あれこれ考えてヘトヘトになってしまうのだそうです。

私は、佐藤さんの話を全て聞き、私なりに理解できたこと。
本当に怖くて胃が痛いことを理解したことを伝えた上で「私にしてくれた話をそのまま、感じているままに、上司に伝えたらいいよ。」と言いました。

こちらから見えている世界が全て本当ではなく、誰もがみんな『主観』から物事を見ているから、相手から見えている、感じている世界も見てみましょう、と提案したのです。

佐藤さんは、もちろん抵抗しました。
怖くて近寄れない上司に「怖いです。」なんて伝えることは、難しいですよね。

「私は、佐藤さんの気持ちも感覚も十分理解できるのと同じように、上司が好き嫌いで人を見たりするような人ではないと思えるので、何かしらボタンのかけ間違いがあるはずだと感じているのです。」

と正直に私の気持ちをお伝えしました。

事実を理解し成長しあえる

そして、次の日に時間をとって、上司・佐藤さん・私の3人で会議室でお話をしました。

上司には、事前に「佐藤さんが悩んでいて、そのことで相談したい。」とお伝えしましたが、その上司はその時点で「自分に対して思い悩んでいる。」とは少しも感じていなかったのです。

最初は躊躇して話し始めることができなかった佐藤さんですが、私の「私たちと、この場を信頼して。話せば、解決するから!」という言葉に意を決し、話してくれました。

上司は、話を聞いて、とても驚いていました。
そして、そんな思いをさせてしまっていたことに少しも気づけなかった、と心から謝罪をしていました。

さらに、『実は・・・』と、上司側の事情もお話ししてくれたのです。

ちょうど会社の方針が変わる時で、その上司一人に大きなプレッシャーと責任がかかっていたのだそうです。
家にも仕事を持ち込んで、気持ちに余裕がない状態が続いていたそうです。

「社長から強く言われた時に、顔がこわばってしまっていたのかも。」とも、話していました。
そして「どんなに理由があっても、部下にこんな思いをさせてしまっていたなんて、本当に申し訳なかった。」と、上司の目に思わず涙がぽろり・・・

そんな上司の真摯な言葉と態度に、佐藤さんは、相手にも相手の事情があるのだと理解できたと思います。
さらに、上司からの「佐藤さんには信頼という気持ちしかないよ。いつもすごく前向きに頑張ってくれているから、つい期待して、強く言ってしまう時もあったかもしれないけれど、私は人を好き嫌いでは決して判断しないと決めているし、佐藤さんのことは心から認めているし、いつもいい刺激をもらっているよ!」

という言葉に、佐藤さんもぽろりと涙が。

ただ、感じるまま、感じていることを正直に伝えただけで、お互いに理解し合えたのでした。

もちろん『信頼関係があり、ボタンのかけ間違えだけだ!』と思えたからこその『場の設定』だった、というのもあります。
いつも同じ結果になるとは思いませんが、実は『信頼できる場を作ること』ができれば、理解しあえることは難しくないのです。

佐藤さんは、相手の態度や言葉などの状況だけで判断して『決めつけて』勝手に悩んでいたのだと気づいたそうです。
本当に感じていることを伝えて、それに対して相手の本当の気持ちが聞けたことで、本来の上司の、等身大の姿を感じることができ、上司のことが大好きになったそうです。