第34回 シェイクスピアの登場人物のレジリエンス(22)ヘンリーIV 第二部
2022/02/08
前回はシェイクスピアの戯曲「ヘンリーIV 第一部」の主人公ヘンリーIVのレジリエンスについて検討してみました。
今回はその続きとしての「ヘンリーIV 第二部」の主人公の一人ハル王子のレジリエンスを分析してみます。
「ヘンリーIV 第二部」はハル王子の成長物語
前回既に「ヘンリーIV 第一部」で国王ヘンリーIVのことや戯曲としての「ヘンリーIV 第一部 第二部」のことについては詳しく触れていますので、今回のコラムでは「ヘンリーIV 第二部」という戯曲と、主人公の一人、ハル王子について詳しく考えてみましょう。
まずハル王子とフォールスタフの関係について考えてみましょう。
「ヘンリーIV 第一部」と「同 第二部」におけるハル王子とフォールスタフの関係は非常に対照的です。
第一部においては、二人はほとんどのシーンで一緒に登場します。
松岡和子先生の「ヘンリーIV 全二部」翻訳の後書きによると、第一部ではハル王子が登場する10の場面の内、8つのシーンにはフォールスタフも登場します。
それに対して、第二部では2回しか一緒に登場せず、しかも2回目はハル王子がフォールスタフを拒絶するシーンであるとのことです。
因みに、この戯曲でナンバーワンの台詞行数を誇るのはフォールスタフです。
シェイクスピアの時代においては、恐らくフォールスタフ役者がもっとも有名であり、ギャラも最も高かったと思われます。
それだけ客を呼べる役者だったことが伺われます。
「ヘンリーIV 第二部」の登場人物は、名前のある役は実在の人物は半数で、残りの人物はシェイクスピアの創作です。
これは同じシェイクスピアの歴史劇「リチャードII」と対照的です。
「リチャードII」では、名前のある役はすべて実在の人物でした。
「ヘンリーIV 第二部」のストーリー
シェイクスピア戯曲「ヘンリーIV 第二部」のストーリーは以下の流れです。
ロンドンに届く情報は虚実が入り混じっていて、ハル王子とホットスパーのどちらが勝ったのかすらわからない状況でした。
シュルーズベリーで勝ったのはハル王子か、ホットスパーか。
王ヘンリーIVに対して謀反を起こしたノーサンバランド伯爵は結局、自分が援軍に赴かなかったことが息子がハル王子に討たれた理由であるということを知らされます。
伯爵はその復讐のために、新たに謀反を起こしたヨーク大司教に合流することを決めます。
一方でフォールスタフは、ホットスパーは、“実は自分が討った”と嘘をつきます。そのフォールスタフは、ロンドンの酒屋の女将クイックリーに訴えられます。
借金の踏み倒しと結婚詐欺の容疑です。
裁判官はフォールスタフを再度、戦場に送り出そうとします。
ハル王子は酒場のウェイターに変装して、フォールスタフが未だに放蕩三昧なのかどうかを確認します。
フォールスタフには他にも恋人がいることまで分かってしまいます。
ヘンリーIVは体調を崩しています。
そこに上記のように、再び謀反が起こります。
今度はヨーク大司教です。
この謀反軍は、国王の軍に苦戦します。
それは謀反に呼応したはずのノーサンバランド伯爵の援軍が到着していないからです。
ヘンリーIVの息子であり、ハル王子の弟であるランカスター公は謀反軍と和解します。
兵士たちは故郷に返しますが、謀反人たちには厳しく対応し、処刑します。
国王ヘンリーIVは病気が悪化し、倒れます。
発作を起こした国王が死去したと誤解したハル王子は、王冠を持ち去ります。
意識を回復した国王は怒りますが、ハル王子の誠意ある弁解に対して許しを与えます。
国王はハル王子を自分の後継者であると明言します。
そして国王は「エルサレムの間」で崩御します。
フォールスタフはハル王子が王位を継承したことから、有頂天になって自分の出世が約束されたと思い込みます。
新王ヘンリーV(ハル王子)はフォールスタフに対して昔の仲間だからと特別扱いをせず、追放します。
王の弟公ジョンはハル新王を讃えて終わります。
ハル王子(後のヘンリーV)のレジリエンス
ハル王子のレジリエンスは、以下のようになりました。
今回も以下の代表的なレジリエンス要素を用いて分析をします。
1.自己効力感
2.感情のコントロール
3.思い込みへの気づき
4.楽観
5.新しいことへのチャレンジ
自己効力感は非常に高く、どのような時にも自分を信じ、また、冷静に振舞います。父王ヘンリーIVの王冠を持ち去り、怒りを買った時にも冷静に説明をして信頼を深めます。
感情のコントロールは、父王ゆずりでこの戯曲の中で一二を争うほどコントロールしている人物と言ってよいと思います。
ただし、フォールスタフに対しての態度の豹変は、冷徹とみられています。
思い込みへの気づきという面では、父王との関係においても思い込みで不満をぶつけることなく、冷静にいろいろな見方をしています。
楽観という視点からは、父王ヘンリーIV以上に楽観的で、自分がフォールスタフとともにやっていた放蕩三昧の生活からも庶民の気持ちが理解できたと解釈します。
新しいことへのチャレンジという視点は、必要に応じて新しいものの考え方をします。
昔の遊び仲間であるフォールスタフを重用せず、親族とともに国をきちんと治めていこうと決意します。
次回は、シェイクスピアの問題劇「尺には尺を」を検討してみます。
レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。
また、シェイクスピアに関するビジネス活用のご参考として、拙著:「できるリーダーはなぜ「リア王」にハマるのか」(青春出版)があります。
この書籍はシェイクスピア作品を通してビジネスの現場にどう活かしていくかを検討するために書かれました。
toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
株式会社ミヤマコンサルティンググループ