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深山 敏郎

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第32回 シェイクスピアの登場人物のレジリエンス(20)ヴェローナの二紳士

2022/01/25

前回はシェイクスピアの問題劇「トロイラスとクレシダ」の主人公トロイラスのレジリエンスについて検討してみました。

今回はシェイクスピア習作時代の喜劇「ヴェローナの二紳士」(1594-1595くらいの時期の作品)の主人公の一人ヴァレンタインのレジリエンスを分析してみます。

「ヴェローナの二紳士」はシェイクスピア喜劇の原型

この作品は、シェイクスピア習作時代の喜劇として、ストーリーの整合性などがややあやふやであるという点はあるものの、その後の彼の喜劇の原型となる作品です。

恋愛をめぐる若さゆえの未熟な恋のやり取り、嫉妬、裏切り、駆け落ち、女性が変装して男性のふりをする、などいろいろなテーマが混在しています。

例えば、未熟な恋のやり取り、駆け落ち、という点では、「真夏の世の夢」に出てくるテーマでもあり、嫉妬、裏切りといったテーマは「オセロー」の主題と言えます。
もっとも、「オセロー」は悲劇ではありますが。
また、女性が男性のふりをすることは、後に「お気に召すまま」、「ヴェニスの商人」、「十二夜」などで使われた技法です。

「ヴェローナの二紳士」のストーリー

主人公のヴェローナの二紳士とは、ヴェローナのヴァレンタインとプローテュースのことで、ともに貴族の子です。
この二人は子供の頃からの親友であり、ヴェレンタインは当初、恋には関心を示さず、一方のプローテュースは恋人ジュリアに夢中です。
まずヴァレンタインがミラノ大公に仕えるためにミラノに向かうことを決めます。
プローテュースも誘いましたが、行く気はありません。
ところがプローテュースは父のアントーニオに命令され、後を追います。

ヴァレンタインは恋人シルヴィアと駆け落ちの約束をします。
それは大公がシルヴィアの結婚相手として、シューリオという貴族を選んでしまったからです。
ヴァレンタインの親友プローテュースがミラノに到着し、ジュリアという恋人がいるにもかかわらず、親友の恋人シルヴィアに恋してしまいます。
冷静さを失ったプローテュースは親友を裏切り、ミラノ大公に親友ヴァレンタインが大公の娘シルヴィアと駆け落ちしようとしていることを密告します。
激怒した大公はヴァレンタインを追放してしまいます。
プローテュースはヴァレンタインを表面上慰めますが、裏ではシルヴィアに言い寄ります。

追放されたヴァレンタインは山賊に出くわしますが、なぜか意気投合してその首領におさまります。
一方、プローテュースの恋人ジュリアは小姓に変装してミラノに向かいます。
そこで偶然、自分の恋人がシルヴィアに求愛することを目撃してしまいます。
ところがシルヴィアの心はヴァレンタインとともにあり、拒絶します。プローテュースはあきらめるからと、シルヴィアの肖像画を代わりにくれるよう懇願します。
その肖像画をジュリアが変装した小姓に取りにいかせます。
ジュリアは内心、深く傷つきます。
この芝居の中で、恐らくもっとも悲しく、同時に美しい台詞が、ジュリアがシルヴィアと交わす言葉でしょう。

恋人ヴァレンタインに会いたいシルヴィアは、城を抜け出して山の中に行きます。
そこで山賊に襲われますが、九死に一生を得ます。それはプローテュースが追ってきたからです。
ところがプローテュースはシルヴィアを力づくで自分のものにしようとします。
そこを偶然、ヴァレンタインが目撃するのです。
親友の裏切りを嘆くヴァレンタイン、そこではじめてプローテュースは自分の愚かさに気づくのです。ヴァレンタインも愚かな親友をついに許します。

喜劇の決まり事として、大公が寛大に二組のカップルは元のさやに戻り、結婚します。

ヴァレンタインのレジリエンス

ヴァレンタインのレジリエンスは、プローテュースとは比較にならない素晴らしい内容となっています。

今回も以下の代表的なレジリエンス要素を用いて分析をします。
1.自己効力感
2.感情のコントロール
3.思い込みへの気づき
4.楽観
5.新しいことへのチャレンジ

自己効力感はとても高く、恋人を信じ、また自分を裏切った親友をも包容する寛大さを示します。
人として尊敬に値する自己効力感を身に付けています。

感情のコントロールは、プローテュースの裏切りに遭い深く嘆くものの、その後は冷静さを取り戻して改心した親友を許すのです。

思い込みへの気づきという面では、この芝居の中では特に記されていません。
ただし、まさか親友が裏切るなどとは思いもよらないということはあります。
この面では一般的なレベルでしょう。

楽観という視点からは、どのような局面に至っても悲観せず恋に向けて前進しようとします。

新しいことへのチャレンジという視点は、この作品の中では特に目立った特徴は描かれていないように思えました。

次回は、シェイクスピア歴史劇「ヘンリーIV 第一部」を検討してみます。

レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。

また、シェイクスピアに関するビジネス活用のご参考として、拙著:「できるリーダーはなぜ「リア王」にハマるのか」(青春出版)があります。
この書籍はシェイクスピア作品を通してビジネスの現場にどう活かしていくかを検討するために書かれました。

toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
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