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星 寿美

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第25回 人を活かすも活かさないも経営者次第

2021/10/03

経営者の視点・考え方と、社員の視点・考え方は全く違うのですが、同じ言葉を使ってコミュニケーションが行われています。

例えば、
リーダー・能動的・責任・全体・ビジョン・目標・目的・やる気・協力、etc・・・

どの『言葉』も、中学生でも使うシンプルな言葉たちですが、使う側が変わると、その『概念』『意味づけ』が変わります。

同じ『言葉』を使っているので「わかりました。」と返事をされると『伝わった。』と思ってしまいがちですが、お互いに『自分の理解の範囲で理解しました。』に過ぎません。

さらに、人は誰もが『自分が見たいように世界を見ている。』という特徴がありますので、同じ言葉を使ってコミュニケーションをとっていても、全く別の世界を見ていることは多いのです。

このようなことが頻繁に起こっています。経営者と社員という立場だと「視点が違う」と理解しやすいですが、実は、このことは、どのような関係性でも同じことが言えます。

自分以外の人とは視点も考え方も違います。経営者と社員であれば、なおさらだという話です。

にもかかわらず、多くの人たちがそこに無頓着です。説明して「分かりました。」と言われたら「話が伝わった。」と感じてしまうのです。

しかし、単語の概念一つ一つをすり合わせなんてしていたら、時間がいくらあっても足りません。

では、どうしたらいいのでしょうか?

・人をやる気にさせる
・人の能力を伸ばす
・相乗効果で成長しあい成果が出る。

という視点からお話をしたいと思います。

人をやる気にさせる

人のダメな部分を見つけるのは、とても簡単です。
誰でもできます。社員(部下)に対しては特にそうかもしれません。

人の上に立つ人は、ダメな部分ではなく『いいところ』『得意なところ』を見つけることを『努力』する必要があります。ここをおざなりにしていないでしょうか?

人は、いいところを伸ばすだけで、ダメなところが長所に変わるか、または、気にならなくなります。

人は、自分の『ありのまま』を認められると、とても嬉しく感じ、やる気になります。

だから、人を『ありのまま認める』『いい部分や得意を見つける』ことで、やる気を引き出し育てることができます。

とてもシンプルなのですが、このシンプルなことをおざなりにして、やれ傾聴だ、やれ目標作りだと、表層的なことにばかり目を向けて、なかなか本当のやる気が引き出せずにいる方が多いです。

また、ダメなことや苦手なことを『修正しよう』とするのは、周りも本人も、ものすごく大変ですが、すでに持っているいい部分や得意を伸ばすのは、全く苦ではありません。

にもかかわらず、多くの経営者(上に立つもの)たちは、相手のダメなところを教育しようと苦労されている方を多く見かけます。
もちろん、いい部分や能力を見つけ伸ばすことが上手な方も多く見かけます。

大切なことなので、もう一度言います。
人はダメなところを見つけるのは誰でもできる簡単なこと。意識して、人のいい部分、得意な部分を見る努力をすることで、相手のやる気が引き出され育つのです。

人の能力を伸ばす

その人の『やりがい・楽しいと感じること・得意なこと』を仕事の中に見つけてあげましょう。
自分で気づいて能力を伸ばせる人と、自分では気づけない人がいるからです。

自分で気づいて能力を伸ばせる人は、仕事に自らやりがいや楽しさを見出せるので、それを認め、必要に応じてサポートしたり役割を与えるなどの環境を整えることで、さらに伸びていくでしょう。

自分では気づけない人の多くは「仕事だから。」「やらないといけないから。」「生活のために。」など義務感や、やらされ感を持つ人が多いように感じます。

このようなタイプには『対話』が有効です。
お互いにオープンマインドで、ありのままを受容し合い、感情を素直に表現し掘り下げる『深い対話』です。
深い対話では、こちらが誘導せずとも、本人自らが自分の可能性や長所、課題などに気づいて、自らがチャレンジし始めます。

私は今まで、多くの社員さんたちのそのような姿を見てきました。

せっかく面談の機会を作り時間をかけているのに、深い対話をしないで終わってしまってませんか?
それは非常にもったいないことです。

面談というと、例えば学校では『先生から質問されて、それに答える時間』というイメージがありますよね。

質問への答えを聞いているのでちゃんと話を聞いた気にもなります。
けれど、その形だと、本音は出しづらいでしょう。
相手の本音を引き出すためには、まずは『ありのままを受容する』ということが基本です。

この言葉は、よく誤解をされますが『ありのままを受容する』とは、相手の価値観や考え方を受け入れることではありません。

まず『自分を大切にする。』『自分を尊重する。』ここがスタートなのです。

『自分とは全く違う価値観で、受け入れることはできないけれど、自分が自分の価値観が大切なように、この人にとっては、その価値観が大切なのだな。』

これが『ありのままを受容する』という事の基本です。
それは自分を尊重して、初めて本当にできることです。
ですから、経営者(上に立つもの)自身が、自分を大切にして、自分を尊重することが、人の能力を伸ばすために必要な要因の一つです。

相乗効果で成長しあい成果が出る。

人は環境に影響を受ける性質があります。
周りの仲間がやる気があれば、やる気を出すのは簡単ですが、周りの仲間がやる気のない中で、自分だけやる気を保つのは困難です。

人は社会性の動物です。制度やルールよりも『雰囲気』に左右されるのが私たちです。
ですから相乗効果を最大化するのに一番効果的なのが『関係の質』を上げること。

関係の質を上げることで、思考の質・行動の質も上がり、成果がでます。
このことはマサチューセッツ工科大学のダニエルキム教授が提唱している『成功の循環モデル』で説明されている通りです。

そして『関係の質』は『ありのままを受容する』ということが基本にあります。

ですから『人をやる気にさせる』『人の能力を伸ばす』『相乗効果で成長しあい成果が出る』この、全ての基本になるのが、自分自身をありのまま受容するところから始まる、ということなのです。

自分をありのまま受容し、自分を尊重することをせずに、人との能力を伸ばしたりチームの成果を最大限にしたりするために苦労が伴うことが非常に多いです。

タイトルの『人を活かすも活かさないも経営者次第』とは、経営者が部下に対して何かをする、という意味ではありません。
経営者(上に立つもの)自身が、自分をありのまま受容し、自分を尊重することを、まず大切にすることから始めましょう、という意味です。

とてもシンプルなことなのですが、その効果に驚かれるかと思います。
お金も時間もかからず、リスクは何一つありません。
このシンプルなことに取り組んでいただけたら、とても嬉しいです。

なぜなら、一人一人が、ありのまま本来の自分自身を活かし、やりがいを感じて仕事に取り組む、そんな組織が増えたら、間違いなく幸せな世界になると私は感じているからです。

図:マサチューセッツ工科大学ダニエルキム教授『成功の循環モデル』