伊藤忠商事が、学生向けに少しユニークな社員訪問の機会を設けています。
その名も、「Morning with ITOCHU」。
学生が複数の社員から仕事や価値観について話を聞くオンラインイベントで、開催時間は朝8時から9時まで。2027年卒の学生向けには、毎週木曜日の朝に実施されました。
なぜ、朝8時なのでしょうか。
それは、伊藤忠商事が長年にわたって「朝型勤務」を推進してきた会社だからです。
同社では、夜遅くまで働くことをよしとする従来の働き方を見直し、仕事をできるだけ朝に移す取り組みを続けてきました。
「Morning with ITOCHU」は、その朝型勤務を学生に説明するためだけのイベントではありません。
学生と社員が、実際に朝の時間に会う。
つまり、会社の文化を言葉で説明するのではなく、その文化の中に学生を招き入れているのです。
採用活動では、多くの企業が自社の理念や社風、働き方を伝えようとします。
「挑戦を大切にしています」
「社員同士の風通しが良い会社です」
「ワークライフバランスを重視しています」
どれも大切なメッセージです。
しかし、学生が本当に知りたいのは、採用サイトに書かれた言葉だけではありません。
社員がどのような時間に働き、どのような表情で話し、どのような言葉を交わしているのか。制度が実際の仕事の中で、どのように息づいているのか。
そうした会社の日常にこそ、その会社らしさは表れます。
興味深いのは、伊藤忠商事が自社の朝型勤務を、採用活動にも取り入れていることです。
会社が大切にしている考え方は、社内だけで完結するものではありません。
社員との出会い方にも、顧客との付き合い方にも、会議の開き方にも、意思決定の進め方にも表れるものです。
むしろ、理念を語る場面よりも、こうした何げない振る舞いの方が、会社の文化を雄弁に伝えるのかもしれません。
もちろん、朝8時からの社員訪問を「早い」と感じる学生もいるでしょう。
しかし、それも含めて、採用における大切な相互理解です。
朝の時間を有効に使う働き方に魅力を感じる人もいれば、自分には合わないと感じる人もいます。会社が自社の文化を曖昧にせず、実際の体験として見せることで、入社後の「こんなはずではなかった」も減らせます。
採用とは、できるだけ多くの人から選ばれることではありません。
自社らしさを正直に見せ、その文化に共感する人と出会うことでもあります。
2026年7月、伊藤忠商事の「Morning with ITOCHU」は、先進的な採用・人事施策を表彰する「HR OF THE YEAR 2026」を受賞しました。
評価されたのは、複数の社員と学生が同時に交流することで接点を増やし、その後、志望度の高い学生には個別の社員訪問を用意するという効率的な仕組みです。
しかし、その取り組みの奥には、もう一つ大切なものがあるように思います。
それは、採用のために会社を取り繕うのではなく、普段の会社の姿を、そのまま学生に見せようとする姿勢です。
会社らしさは、立派な言葉だけでつくられるものではありません。
何時に会うのか。
どのように迎えるのか。
誰が、どんな言葉で話すのか。
そんな一つひとつの振る舞いに、その会社が大切にしているものがにじみ出ます。
「朝型勤務をしています」と語るのではなく、朝8時に会ってみる。
制度として始まった朝型勤務は、いつしか社員の働き方を越え、未来の仲間と出会う方法にまでなっていました。
朝8時の画面の向こうには、説明会の言葉だけでは見えない、伊藤忠商事という会社の姿が映っているのであります。