HACHIDORI NO HANE(ハチドリのはね)HPトップ

益田 和久

ホーム > 益田 和久 > 記事一覧 > 第281回 AIに相談する時代の「最後は自分で決めたい」〜参照先の変遷と、リブートのチャンス〜

第281回 AIに相談する時代の「最後は自分で決めたい」〜参照先の変遷と、リブートのチャンス〜

2026/07/24

先日、日本経済新聞に「旅行や保険をAIに相談『過半数』 電通デジタル調査」という記事が掲載されました。買い物をする際にAIに相談する人が3人に1人に上り、情報を比較しやすく入念な検討をする傾向にある旅行や保険、家電、転職については、相談する割合が半数以上に達したという内容です。電通デジタルが設立した「withAIラボ」が、15〜69歳の男女計3300人からオンラインで有効回答を得た調査で、旅行計画・宿泊予約は57%、保険は56%と高い一方、気軽に消費することの多い飲食品や日用品は3割程度にとどまったといいます。

この記事を読んで、もはやAIなしでは生きていけないような状況が、着実にできつつあるのだと実感しました。しかし同時に、私が興味深く感じたのは、AIの回答を「そのまま採用する」と答えた割合が、全カテゴリーで2〜3%にとどまっていたという点です。ほとんどの人が「補助的に少し使う」「参考に最後は自分で決める」と回答している。AIを頼るタイミングも「複数の商品やサービスの比較」が79%と最も多く、購入時の最終判断は半数を下回ったそうです。

ここで私が思い出したのは、私たちが何かを決めるときに「誰に、何に相談してきたか」という参照先の変遷です。

インターネットが普及する前、何かしらの購買活動や意思決定をする際には、それに詳しい人を探して——人づてでもいいから——その人から情報を得て参考にしていました。ところがインターネットが普及してからは、情報が無限に入るようになった代わりに、かえってその情報量の多さに判断ができなくなってしまった。そこで今度は、SNSのつながりを通じて参考情報を収集するようになりました。そしてAIが登場してからは、AIとの対話が主流になりつつあります。

基本的に「参考情報を提供してくれる」という点では、これらは何ら変わりません。違うとするならば、自分のために、というか「個別最適」というか、自分に寄り添い続けてくれるという点でしょう。本コラム第269回で楽天市場のAIコンシェルジュを取り上げた際、「一億総外商時代」の幕開けだと書きましたが、まさにそれが日常の意思決定の場面にまで浸透してきているということなのだと思います。

ただ、はっきりしているのは、あくまでも参考情報にしか過ぎないということです。それはツールが何であろうが、いつの時代も変わらないような気がします。人づての情報も、ネットの検索結果も、SNSの口コミも、AIの回答も、最後の一歩を踏み出すのは自分自身です。このあたりはやはり、人は最後は自分で決めたいという、自尊心のようなものを持っているのだなと改めて思います。記事のなかで、ラボ責任者を務める池田純一執行役員が「商品やサービスを選ぶ過程の楽しさなど買い物自体の価値もあり、AIに情報比較などを頼るようになっても意思決定は人に一定残るだろう」と語っていましたが、この見立てには深く納得しました。

もう一つ、この記事に関連して気になったのが、AIの出現によって影響を受けている業界の動きです。旅行業や保険業といった、まさに「相談されて成り立ってきた」業種は、AIに仕事を奪われるのではないかと語られがちです。しかし調べてみると、実際にはAIによる検索から直接予約できる機能を追加したり、AIエージェントを新たな顧客の流入口と捉えて連携を拡大したりと、うまくAIと共生する方向へと舵を切っているように見えます。奪われるか奪われないかという二項対立ではなく、どう組み合わせるか。本コラム第279回で取り上げた大丸松坂屋のDXが、販売員の目利き力をデジタルで「増幅」する方向に進んでいたのと、根は同じ話でしょう。

さて、ここからは少し個人的な感慨です。

これまで研修のなかで受講者の皆さんに対して、「環境変化への対応が重要だ」ということを、ところどころでよく話してきました。少子高齢化、ハラスメント、コンプライアンス、SDGs——ある意味、抗うことのできない社会構造の変化を想定して話をしてきたつもりです。しかし今、AIの進化は、これら全ての事象と繋がっている気がしてなりません。そして目まぐるしい勢いでアップデートし続けている。正直なところ、半年後や1年後が全く想像できなくなってきました。

ただ、そう考えると、ある意味で楽しいのです。自分の半年後や1年後が想定できたとしても、それが分かりすぎていると面白くないという一面もあります。先が見えないということは、裏を返せば、まだ何にでもなれるということでもあります。

AIの進化によって自分の生きている領域が侵害されようが、それは新しい変化のチャンスでもある。旅行業や保険業がそうであるように、私たち人事教育コンサルタントの仕事もまた、AIによって形を変えていくでしょう。しかしそのとき問われるのは、AIに置き換えられない部分をどう磨くかであり、AIをどう味方につけるかです。第277回で「使いこなせる人と使いこなせない人の格差」について書きましたが、その格差は、能力の差というよりも、変化を自分のチャンスと捉えられるかどうかの差なのかもしれません。

そして何より、このAIを最強のパートナーにして、自分をリブートさせるチャンスは、全ての人に平等に与えられています。年齢も、職種も、これまでの経歴も関係ありません。誰もが自分専用の参謀を持てる時代に、それをどう使い、最後にどう決めるか。決めるのは、いつだって自分自身です。

参照先が人からネットへ、ネットからSNSへ、そしてAIへと移り変わっても、最後に決断を下す主体が自分であることは変わらない。その主体性さえ手放さなければ、変化は脅威ではなく、面白がるべき素材になります。久々に、自分のこれからの変化にワクワクしている今日この頃です。

最新の記事
アーカイブ