北中米で開催されているサッカーワールドカップでは、世界中の視線がスター選手たちのプレーに注がれています。その一方で、観客や選手が快適に試合を楽しめる環境を支えている日本企業があります。大阪市に本社を置く太陽工業です。
同社は大型膜構造建築の分野で世界トップクラスのシェアを持つ企業であり、今回の大会でもダラス競技場をはじめ複数のスタジアムで同社が設計・施工した膜屋根が活躍しています。強い日差しを反射しながら自然光を取り込み、快適な室内環境を実現するその技術は、世界最高峰のスポーツイベントを陰で支えています。
興味深いのは、太陽工業が最初から世界市場を目指した企業ではなかった点です。創業は1922年。前身の能村テント商会は小型テントの製造からスタートしました。その転機となったのが1970年の大阪万博です。米国館をはじめとする大型膜構造物を手がけたことで、同社は「テントメーカー」から「空間創造企業」へと進化しました。
その後、太陽工業は世界で初めて膜によるアリーナを実現し、海中膜技術の開発にも成功するなど、「世界初」を次々と生み出してきました。現在では膜構造物分野で世界シェア約70%を占めるリーディングカンパニーへと成長しています。
同社の事業領域はスタジアムやドームだけではありません。建築、土木、物流、環境分野などへ展開し、膜という素材の可能性を広げ続けています。単に製品を販売するのではなく、新たな空間や用途そのものを創造してきたことが、同社の競争力の源泉といえるでしょう。
ここから見えてくるのは、「市場を創る企業」の強さです。多くの企業が既存市場の中で競争する一方、太陽工業は膜構造建築という専門領域を磨き続け、新たな価値や用途を提案してきました。世界シェア70%という数字は、競争に勝った結果というよりも、誰も見たことのない市場を切り拓いてきた結果なのかもしれません。
世界中が熱狂するW杯の舞台裏には、100年以上にわたり技術と信頼を積み重ねてきた日本企業の存在があります。選手や観客の記憶には残らないかもしれません。しかし、人々が最高の体験を享受できる環境を支えることこそ、太陽工業が100年にわたり磨き続けてきた価値なのではないでしょうか。