先日、日本経済新聞に「通信制『N高』開校10年、生徒数3.6万人 学びの多様性が強みを引き出す」という記事が掲載されました。
KADOKAWAとドワンゴが共同で設立した通信制のN高等学校が開校10周年を迎え、グループ全体の生徒数は3万5744人と日本最大規模に成長しているという内容です。
強みは、完全オンラインの学習から週5日の登校まで自由に組み合わせられる柔軟性にあり、政治部や起業部、投資部といったユニークな「ネット部活」を含め、課外活動を含めたコンテンツはおよそ1万種類にのぼるといいます。
記事のなかで、教育産業に詳しい追手門学院大の客員教授が「不登校経験者が通うイメージの強かった通信制学校を、夢のある場所に変えた」と評していましたが、この一言には、ただただうなずくばかりです。
このレベルにまで学校を引き上げたのは、もちろん学校側や先生方の不断の努力があってこそでしょう。
しかしそれ以上に、私が感心するのは、そもそものマーケティングやターゲティングが非常にしっかりしている点です。
生徒一人ひとりの特性を深く理解した上で、学習プログラムや部活動を緻密にアレンジしている。だからこそ、近年は東京大学をはじめとする有名大学への合格者を毎年輩出し、東京芸術大学や海外有力大学への進学実績まで上げているのだと思います。
これはもはや、一つの確立された「教育メソッド」と呼んでよいのではないでしょうか。
考えてみれば、N高という存在そのものが、オンライン社会が成熟したからこそ生まれた産物です。
常時接続のインフラが整い、動画による学習が当たり前になった今だからこそ、場所や時間に縛られない自由度の高い学びが実現できる。
今後もITが進化していく過程で、N高のような新しい学習メソッドが次々と登場してくるに違いありません。
それにしても驚いたのは、通信制高校に通う生徒数が全国で30万人を超え、高校生の10人に1人が通っている計算になるというデータです。
正直なところ、これは私の想像をはるかに超える数字でした。
それだけ、画一的な学びの場に馴染めない、あるいはあえて別の道を選ぶ子どもたちのニーズが、世の中で確実に高まっているということなのでしょう。
私が人材育成に携わる者として最も心を動かされるのは、この仕組みが「いろんな人の才能を開花させている」という事実です。
記事には、投資部での経験を通じて分析力や目標達成力を身につけた生徒や、起業部での学びを生かして在学中に得た発想で実際に会社を立ち上げた卒業生が紹介されていました。
従来の学校という枠組みのなかでは埋もれてしまっていたかもしれない個性や才能が、多様な選択肢と出会うことで一気に花開いていく。
こうした事例は、ぜひ日本中の人に知ってもらいたいと心から思います。
次はZEN大学という形で大学まで作るというのですから、その展開がとても楽しみです。
一方で、私はこの記事を読みながら、もう一つの側面が気になっていました。
これだけ多くの生徒を、これだけ多様なプログラムで支えるとなると、職員や教員の方々の負担は相当なものではないか、ということです。
実際、記事には書かれていませんでしたが、通信制高校では生徒の学習進捗や心身の状態を把握する「生徒管理」が非常に大変だという話を、私自身も耳にしたことがあります。
おそらくN高は、この課題の多くをIT技術で埋めているのでしょう。
本コラムの第266回でも触れたように、デジタルを使えば生徒の状態を定点観測し、客観的なアラートを仕組みとして整えることができます。 膨大なデータをコンスタントに処理し続けることはAIやデジタルの最も得意とするところであり、属人的なマンパワーに頼りがちだった生徒管理を「仕組み化」する上で、これほど心強い味方はありません。
しかし、ここでも私が繰り返し述べてきたことに行き着きます。
デジタルやITは、あくまで生徒の状態を「可視化」し、効率的に支える「仕組み」に過ぎないということです。
N高が必修としている沖縄・伊計島での4泊5日の本校スクーリングや、政党代表が直接講義に立つ政治部の活動が象徴的なように、最終的に子どもの才能を引き出し、心に火を灯すのは、結局のところ人と人とのリアルな関わりです。
便利な仕組みで効率化できた時間とエネルギーを、教員が一人ひとりの生徒と向き合う時間にどれだけ振り向けられるか。
そこにこそ、これからの教育の質が問われるのだと思います。
これは、私たち企業の人材育成においても全く同じ構図です。
eラーニングやAIで学びの「仕組み」をいかに整えても、その学びを本人の成長や成果へと結びつけるのは、上司や周囲の人間による泥臭い関わりにほかなりません。
オンライン社会が確立したからこそ生まれたN高が、テクノロジーと人の関わりを両輪として、子どもたちの才能を解放していく。
その姿から、目が離せなくなってきた今日この頃です。