第64回 経営者のレジリエンス(14)経営者が新入社員の入社前にするべきこと
2022/09/06
前回は、経営者のレジリエンス(13)「経営者と従業員の関係は難しい」でした。 そこで大切なのは、心理的距離、つまり心と心の距離を適切に保つことでした。
今回は、「経営者が新入社員の入社前にするべきこと」というテーマです。
ある企業の具体的な事例をご紹介します。
経営者とは通例、起業家、事業承継者、雇われて経営を任されている人のすべてを含みます。
苦労した三代目社長
昭和8年に広島県三原市で創業されたパン屋さんがあります。
3代目社長のTさんは県内でパン屋さんのチェーン展開をしました。
パンは売れましたが、問題が起こりました。
それは店長クラスがどんどん辞めてしてしまうという問題でした。
働きづめで心身ともに疲弊して辞めてしまったのです。
パン作りは仕込みから販売まで、一般的には肉体労働の積み重ねです。
見た目とは大きく異なり、大変な重労働です。
ましてや店の売上げ管理やアルバイト管理などを任された店長の苦労は非常に大きなものです。
社長のぎりぎりの決断
Tさんはチェーン展開が成功すると思ったのですが、実は倒産の危機を迎えました。
上記の理由です。
そこで悩んだ末に業態を転換することにしたのです。
商品も、販売方法も変えました。
先代、先々代から受け継いだ会社であり、もしかしたら三代目いわゆる鼻息が荒い経営をしていたのかもしれません。
人間関係で悩み、多店舗展開で悩んだ末に、以下のように会社の舵を切り直したのです。
市場を見直そう。
自分のところはパン屋だけれど、菓子パン市場とスウィーツ市場の中間を狙おう。
こうして商品は「クリームパン」に絞りこみました。
価格帯も200円台、300円台に絞りこみます。
次に販売方法です。
広島県内で成功するにはどうしたら良いか、という発想を転換しました。
東京都内など大都市圏の駅ナカ催事場などで、冷蔵の状態で販売するという方法を取りました。
「このクリームパンは美味しい」、「他では売ってないよね」といった声が数多く上がり、TVなどのマスコミでも取り上げられました。
催事場であれば、売れるところは定期的に販売をして、もしあまり売れないところは素早く撤退が出来ます。
店舗を構えると固定費が膨大なものになりますので、販売方法としては大当たりです。
非常に人気になり、一時期、インターネット販売でクリームパンは3か月待ちといった時期もありました。
Tさんによると、販売できる個数は、製造できる個数の制約を受けるとのことでした。
それは紙に包むのは広島の工場で社員が手作業でやっているから、ということでした。
つまり、一日に包めるだけしか製造できないということでした。
もうお分かりになった方もいらっしゃることでしょう。
この会社は、株式会社八天堂(はってんどう)です。
そして社長の名は、森光孝雅氏です。
たまたま学校の後輩で、母校で行われた彼の講演会で知り合いました。
上記はその時に私が聞いた話です。
そして次のようなことも。
社長が内定者にしていること
ちょっと珍しいことをこの社長は、内定者、そして内定者のご家族にしています。
それは、社長自らご家族の元に足を運んで、「どうか宜しくお願い申しあげます」と伝えているのです。
その上で、「仕事というのは厳しいものです。つらいこともたくさんあるでしょう。そんな時に、ご家族がぜひ“仕事、頑張りなさい”と励ましていただきたいのです」という主旨のことをお伝えするのだそうです。
幸い、離職率も少なく、社長の考え方も一人ひとりの従業員に浸透しているようです。
私も時々、都内駅ナカの売店で購入し「社長元気ですか」などと突拍子もないことを言っています。
従業員のにこやかな顔を見て安心しています。
年齢は私よりもだいぶお若いのですが、私自身この社長から多くのことを学びました。
次回は「経営者のセルフ・マネジメント」というテーマを考えてみます。
レジリエンスの高い経営者とそうでない経営者の差は、こうした人間の基本的なことをどれだけ深く理解しているかどうかということにも関連します。
レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。
toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
株式会社ミヤマコンサルティンググループ