HACHIDORI NO HANE(ハチドリのはね)HPトップ

深山 敏郎

ホーム > 深山 敏郎 > 記事一覧 > 第63回 経営者のレジリエンス(13)経営者と従業員の関係は難しい

第63回 経営者のレジリエンス(13)経営者と従業員の関係は難しい

2022/08/30

前回は、経営者のレジリエンス(12)「経営者と家族の関係は難しい」でした。
そこで大切なのは、親が子に「ホンネで話してくれてありがとう」というキーワードを発するということでした。
ホンネで話し合える親子関係があれば、会社経営についてもきっと良いアイディアがたくさん出て、実現できることでしょう。

今回は、「経営者と従業員の関係は難しい」というテーマです。

経営者とは通例、起業家、事業承継者、雇われて経営を任されている人のすべてを含みます。

経営者と従業員の関係は本当に難しい?

経営者と従業員の関係は、長年の積み重ねがある場合と、社長が新規で赴任した場合に分けて考えることが合理的であろうと考えます。

長年の積み重ねがある場合は、「阿吽(あうん)の呼吸」が成り立っている場合が多く、多くの言葉を要しません。因みに阿吽とはもともと仏教用語で、阿とはものごとの始まり、吽というのはものごとの終わりです。
阿吽とは宇宙を指す言葉で、阿吽の呼吸とは同じ宇宙を共有している仲間の動き方となります。

例えば社長が方針を役員に伝えると、深い意味が理解できているため、後は役員や部長級の社員が行うべきことを心得ていて、現場で実施されるということです。

メリットは、組織の小回りが利く、ということです。
ある程度の規模まではこのスタイルが非常に効果的であろうと思います。

ディメリットは、古参の社員たちが現場の指揮を任されるため、若手社員やキャリア採用者などはよく理解できずに指示に従わざるをえないこともあるということでしょう。

前回のこのコラムで、親子の場合、「ホンネで話してくれてありがとう」という言葉が、親が子に伝えるべきキーワードであるとお伝えしました。
それでは、経営者と従業員の間ではどうでしょうか。

経営者と従業員の適切な「心理的距離」とは

経営者と従業員の間には心の距離(心理的距離)というものがあります。
気心の知れた社員とは心理的な距離が近くて、新しい社員とは、まだ心理的な距離が遠いのが一般的です。

経営者は、気心の知れた社員とだけ仕事をしているわけではありません。
古参の社員とは「親しき仲にも礼儀あり」という言葉がある通り、仕事にふさわしい心の距離でコミュニケーションを心掛ける必要があります。
つまり、近すぎる距離では、いざという時に、古参の社員の甘えやわがままが出て、組織風土を停滞させることがあります。
あの役員は特別だから、ルールを守らなくとも社長は文句を言わない、といったことがまずいのです。

一方で比較的新しい社員とは、互いによく理解できていない部分が多いということもあるでしょう。
大企業であれば、社内のルールがきっちりと決まっており、また、社風もいろいろなルール、手続きに反映されます。
中小企業の場合には、社長の言葉が社風を形作り、また、社長のことが好きだから社員は頑張ることが出来るのです。

新人との食事会(コロナ禍ではなかなか困難でしょうが)、ちょっとした雑談などが社長の人柄や社風を直接伝えるよい機会なのです。
中小企業ならではの心理的距離の縮め方です。
大企業の社長のように、社長室に籠り、特定の社員とだけコミュニケーションをするというわけにはいきません。
ぜひ社長から積極的に若手、新人と交流する場を多く設けましょう。

大企業の例ではありますが、GEという会社があります。
歴代の経営者(例えば、ジャック・ウェルチやジェフ・イメルトなど)は、社員と直接のコミュニケーションに多くの時間を割きました。
GEにはニューヨーク州クロトンビルという場所に教育施設(世界初の企業内ユニバーシティと言われています)があり、ジェフ・イメルトなどは自分の仕事時間の30%以上はクロトンビルに居ると言われています。
ジャック・ウェルチの場合も、ジェフ・イメルト程ではないにしても、20%以上はクロトンビルに居たようです。
そこでは経営者自身が社員と直接対話する機会があるのです。

また、1980年代、再生時期にあったBA(英国航空)の会長であったサー・コリン・マーシャルは、全世界の英国航空社員(数千人)と何回かに分けて話し合う機会を設けて意識の統一を図り、民営化後の社風の変革を成功に導きました。

大企業でも、こうした経営者と従業員の対話を重んじているのです。
ちょっと工夫をすれば社長とすべての従業員の心理的距離を縮める機会はあるはずです。

次回は「経営者が、新入社員の入社前にするべきこと」というテーマを考えてみます。
レジリエンスの高い経営者とそうでない経営者の差は、こうした人間の基本的なことをどれだけ深く理解しているかどうかということにも関連します。

レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。

toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
株式会社ミヤマコンサルティンググループ
http://miyamacg.com/