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深山 敏郎

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第60回 経営者のレジリエンス(10)経営者の陥りやすい錯覚①

2022/08/09

前回は、経営者のレジリエンス(9)経営者の思考法③「問題解決」でした。

今回は、「経営者の陥りやすい錯覚①」というテーマです。
経営者とはここでは起業家、事業承継者、雇われて経営を任されている人のすべてを含みます。

経営者がどのような視点でものごとを観て、判断し、問題を解決に導くのかということは、経営者のレジリエンスそのものと言ってよいでしょう。そうした中で陥りやすい錯覚を今回と次回に分けて解説します。

経営者の錯覚は大きく2種類に分けられる

経営者の陥りやすい錯覚は大きく分けて、
①五感に由来する錯覚、
②思考に由来する錯覚(つまり思い込み)
に分けて考えられます。

今回は、①五感に由来する錯覚を取り扱います。
航空会社や鉄道会社で安全教育をする際に、錯覚の恐ろしさを学びます。
五感に由来する錯覚として、
1)見間違い、
2)聞き間違い、
3)さわり心地の錯覚、
4)味の錯覚、
5)香りの錯覚
に分けることができます。

3)~5)に関しては、特殊な職場に限定される場合が多いのです。
例えば、家具を販売している経営者の場合、ソファの座り心地は大変重要な要素です。
同じように、自動車販売業の場合にも、運転席などシートの触感は非常に重要です。

4)~5)に関しては飲食店経営者やシェフにとってはとても重要です。
それぞれ錯覚を避けるためにさまざまな工夫をしています。
例えば珈琲のバリスタは味を混同することを避けるために、珈琲のテイスティングをした後は水で必ず口をゆすぎます。

ここでは五感の内、1)見間違い、2)聞き間違いの実例と、それを避けるための工夫について考えてみましょう。
見間違いは誰にでもあります。
気が急いている時や、考え事をしている時にはよく起こります。
それを防ぐためには、例えば新聞の校正者などは、校正をする時には部屋にこもって外部からの刺激を遮断するといいます。
今は校正中なので、話しかけないでください、といったこともドアの外に掲示する人が多いようです。

経営者にとっては、得意先などとの契約を締結する時に契約書を隅から隅まで確認することが必要です。
そうした時には、外部情報を遮断して書類に目を通します。
同じように、事業計画などの数字をチェックする時にも外部情報を遮断することが有効であると考えられます。

見間違いのコストは高くつくものです。
見間違いした契約書や事業計画などは取り返しがつかないことになりかねません。
新聞の校正者のように集中してみましょう。

聞き間違いの防止のためにはどうすれば良いのでしょうか。
例えば部下と重要なことを話し合う会議などでは、必ず詳細な議事録を取ります。
会議後に部下の提案などに自分がどのように返答したかを書き残します。
それを目で追って、再確認するわけです。ボイスレコーダーやビデオ撮影などをする会社もあります。

あるインターナショナル・ホテル・チェーンでは、役員会を録画して、全世界の拠点にどの役員がどうした発言をしたかを正確に伝える努力をしています。
これは部下が間接的な情報に踊らされることなく冷静に、会社の方向を定める役員会の模様を観察することに役立っており、情報開示の力によってモチベーションも向上するとのことでした。

それでも起こる、見間違い、聞き間違い

私たちは、こうした見間違い、聞き間違いを避けるためにさまざまな工夫をしています。
音声と文字の両方を使って、チェックする方法もあります。
しかし、それでも見間違い、聞き間違いが起こるということは理解しておく必要があります。
人間は錯覚の動物といって良いと思います。
そのようなときは、誰かを責めるのではなくヒューマンエラーを防止するためにどうしたらよいかを部下とともに話し合ってみることをお勧めします。

お客様との「言った、言わない」を避け、スタッフ同士の勘違いからの仲たがいを避けるためにも、人間は錯覚するものだということを前提に、どうしたら重大な錯覚を避けることができるのかを検討してみてはいかがでしょうか。

次回のテーマである「経営者の陥りやすい錯覚と、その対処法②」として、思考の領域の錯覚を考えてみます。
レジリエンスの高い経営者とそうでない経営者の差は、こうした人間のメカニズムを深く理解しているかどうかということにも関連します。

レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。

toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
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