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深山 敏郎

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第42回 シェイクスピアの登場人物のレジリエンス(30)ジョン王

2022/04/05

前回はシェイクスピアの歴史劇「リチャードII」のリチャード王のレジリエンス分析をしました。
リチャードIIは悪政を敷いたイングランド国王の典型といわれましたが、今回ご紹介する作品「ジョン王」(正式名称は、”The Life and Death of King John”「ジョン王の生と死」)の主人公ジョン王は、英国史上最も評判が悪い国王であったと言われています。

歴史上は、彼の悪政の末にマグナカルタ(ラテン語では、Magna Carta/Magna Carta Libertatum つまり「大憲章」、英語ではCharter of the Liberties「自由の大憲章」)の締結に至りました。
これは現在でもイギリス憲法の最も基本的な部分として用いられています。
その特徴は、イングランド国王の権限を制約したことです。

実在のジョン王は伝説の弓矢の名人であるロビン・フッドの敵役としても有名であり、シェイクスピアはジョン王とカトリック教会との確執、英仏戦争、貴族たちによる反乱などを舞台化して、当時は大変人気があったと言われています。
今ではなかなか舞台で観ることができず、残念です。

「ジョン王」には原作があった?

この作品には、モデルにした戯曲があったという説が有力視されています。
「ジョン王の乱世」というタイトルで、基本的なプロット(筋)はこの作品と同様ですが、いくつかの人物の扱いが拡大されています。
典型は、私生児フィリップ(サー・リチャード・プランタジェネットともいう)の台詞が大幅に拡大されていて、主人公のジョン王の台詞よりも行数が多いとのことです(松岡和子先生の翻訳のあとがきによる)ただし、シェイクスピア作品が先だったという説もあります。

私はこの作品を、舞台では数年前、大学のシェイクスピア上演グループで後輩J氏の演じた作品で観ました。
また今回BBCのDVD(レナード・ロシター主演)を観ました。
ロシターはスタンレー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」にも出演しています。
また、ピーター・セラーズ主演の「ピンクパンサー」シリーズの映画にも出演して大爆笑を誘発していました。
舞台では「リチャードIII」のリチャード役などシェイクスピア作品の主演から、テレビ、映画と大活躍した俳優でした。

「ジョン王」のストーリー

フランス王からの使者がジョン王のもとに来て、ジョン王の兄ジェフリーの遺児であるアーサーに、彼の権利である土地を返還するように求めます。
ジョン王はそれを承諾せず、フランスに対して戦いを挑もうとします。そこにジョン王やジェフリーの更に兄であるリチャードの非嫡子を名乗る者(フィリップ)が現れます。
容姿が似ていたため、彼の父の名を継いでリチャードを名乗ることが許されます。

フランスに到着したジョン王は、アンジェ城門の前でフランス王と言い争いになります。
城門の中にいる市民は城門を開けず、真の王が決まったら開けると伝えます。
市民はジョン王の姪であるスペイン王女カスティリアのブランシュとフランス皇太子ルイとの婚約を提案します。
ルイは王女を気に入って喜んでそれを受け入れ、婚約の運びとなります。
それで万事うまくいけばよかったのですが、アーサーの母コンスタンスは激怒します。
アーサーの権利が侵害されることになるからです。

また、ジョン王と教会との対立が激しくなり、ついにジョン王は枢機卿から破門を言い渡されます。
そのためフランス王はジョン王との決別を決めます。
フランス皇太子ルイは、父を説得してジョン王との関係を断ち切る決心をさせるのです。
一方、アーサーは捕らえられ暗殺されそうになります。
暗殺を命じられた臣下が迷っていると、アーサーは逃亡を企てて城壁から飛び降ります。そして死に至ります。
それを誤解した諸侯たちはジョン王を見限って、フランス側に味方します。

ジョン王は教会との和平を企てますが、今度はフランス皇太子ルイが枢機卿に反発して、カトリック批判をします。
こうして戦闘が泥沼化するなかで、修道士によって毒を盛られたジョン王は死に至ります。
ジョン王の子どもである王子ヘンリー(後のヘンリーIII)の尽力で諸侯たちは戻ることを許されます。
そしてフランス皇太子ルイも和解を求めます。
こうしてヘンリー王子が即位して、リチャードも忠誠を誓います。

ジョン王のレジリエンス

彼のレジリエンスは、以下のようになりました。

今回も以下の代表的なレジリエンス要素を用いて分析をします。
1.自己効力感
2.感情のコントロール
3.思い込みへの気づき
4.楽観
5.新しいことへのチャレンジ

自己効力感は非常に低かったと思われます。
プライドは高いのですが、国を治めるには力量不足で周囲がついてきません。
そのため、自信喪失といった状況です。

感情のコントロールは、苦手であっただろうと考えます。
枢機卿との争い、フランス国王との争い、アーサーの母親であるコンスタンスとの意見の食い違いなど、さまざまなことを冷静に対処できずに失敗します。

思い込みへの気づきという面も、弱いと考えられます。
そのため、他者の主張に対して深く考えずに受け入れてしまう局面が状況を悪くします。

楽観という視点からは、とても低いと思われます。
周囲に対する不満ばかりがたまり、結果としてジョン王の心の平安は保つことができません。

新しいことへのチャレンジという視点は、自らアイディアを出すのではなく周囲に振り回されてしまいます。

次回は、シェイクスピアの歴史劇「ヘンリーVIII」を検討してみます。


レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。

また、シェイクスピアに関するビジネス活用のご参考として、拙著:「できるリーダーはなぜ「リア王」にハマるのか」(青春出版)があります。
この書籍はシェイクスピア作品を通してビジネスの現場にどう活かしていくかを検討するために書かれました。

toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
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