第38回 シェイクスピアの登場人物のレジリエンス(26)ヘンリーVI第二部
2022/03/08
前回、今回、次回とシェイクスピアのデビュー作と言われている「ヘンリーVI三部作」を検討していきます。 前回も申し上げたとおり私は残念ながら舞台でこの芝居を観たことがありません。(観るチャンスはあったのですが、当時はあまり興味を持てませんでした)。
そのためもっぱらBBC制作のDVDと、必要に応じてRSC(ロイヤルシェイクスピアカンパニー)版及びOxford版の原作、そして松岡和子先生の翻訳等を参考にしてこのコラムを書いています。
この作品の背景には、前回書いたようにシェイクスピアは当時の歴史書をもとに記述しているのですが、史実に忠実ではなく、年代や役柄にさまざまな脚色があります。
今回はヨーク公爵リチャード・プランタジェネット(以下、ヨーク)のレジリエンスを検討してみます。
BBCのDVDでは名優バーナード・ヒルが演じています。
彼は後に映画「タイタニック」のエドワード・スミス船長、そして映画「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還等」のセオデン王を演じています。
2本とも世界の興行収益が10億ドルを超えており、これらの映画で重要な役を演じた数少ない俳優です。
また、シェイクスピア作品では、舞台「マクベス」のマクベス、映画「真夏の夜の夢」では、イージーアスを演じておりシェイクスピア作品との結びつきの強さも感じます。
「ヘンリーVI第二部」はヨーク家とランカスター家の薔薇戦争の始まり
第一部は、ヘンリーVの葬式からスタートしますが、第二部はヘンリーVIとマーガレット(マルグリート)の結婚式から始まります。
先王のヘンリーVは能力の高い国王でしたが、ヘンリーVIが生後わずか9か月の時に父王が崩御します。
摂政も力が弱かったため、国内は乱れ、フランスとの戦争が起こります。
前回扱ったトールボット卿親子はその戦の犠牲になります。
最終的にイングランドとフランスは和平条約を結びます。
第二部では、イングランドの内戦が描かれます。
ヨーク家とランカスター家の王位をめぐる争いです。
ヨークがその仕掛け人です。
もともとヨークのプランタジェネット家は王位をヘンリーに簒奪された家系であり、満を持して権力闘争に向かいます。
「ヘンリーVI 第二部」のストーリー
ストーリーを理解するために、まず赤薔薇のランカスター側と、白薔薇のヨーク側の主要登場人物を整理しれおきましょう。
必ずしも機械的にはめ込むことはできず、それぞれの陣営の中にも反目はあります。
赤薔薇(ランカスター側)
王ヘンリーVI
王妃マーガレット
グロスター公爵及び公爵夫人(※赤薔薇ではあるが王妃への不満が強い)
枢機卿ボーフォート
サフォーク侯爵(後に公爵)
サマセット公爵
バッキンガム公爵
白薔薇(ヨーク側)
ヨーク公爵リチャード・プランタジェネット
息子エドワード(後のエドワードIV、及びリチャード後のリチャードIII)
ソールズベリー伯爵
ウォリック伯爵
舞台は若いヘンリーVIと、フランス貴族の娘でありフランス王家へも血のつながりがあるマーガレットの結婚式から始まります。
領地を妃の父君に返還するという考えに、王の摂政グロスター公爵は大きな不満を表明します。
同じようにフランスの最前線で戦っていたイングランド軍やフランスに領地を持っていて領主には大きな不満をもたらしました。
土地を奪われたヨーク家(白薔薇)の一族はグロスター公爵を支援します。
それとは対照的にフランスとの和平派であるランカスター家(赤薔薇)はそれに対抗します。
こうした中、グロスター公爵の夫人は陰謀によって「妖術を使った罪」で捕らえられてしまいます。
こうしてイングランドの権力闘争は陰謀、そして殺戮が繰り返されます。
そうした中で、ヨークは、王位を継承する権利を主張します。その間も貴族たちは内紛を続けます。
また、グロスター公爵は冤罪で逮捕され、殺害されます。
逮捕された場所がサフォーク公爵の屋敷だったことから、嫌疑がサフォーク公爵に向かいます。
そのショックで枢機卿ボーフォートも命を失います。
ヘンリーVIはずっと妃の言いなりでしたが、妃と心のつながりが強かったサフォーク公爵を国外追放します。
サフォーク公爵が北フランスを失った責任をも取らされたものと思われます。
こうした中でイングランド王室は財政的にも窮地に陥ります。
一方で、アイルランドの暴動にヨークが出兵します。こうしてヨークも自らがコントロールできる兵を得る口実が出来たのでした。
ロンドンに近いケント州でならず者のジャック・ケイドに率いられた一揆が起こります。
彼は王位継承者と偽るのですが、暴徒たちがロンドンに向かう中でこのケイドは殺害されます。
民衆に人気のあったヨークは国王軍をセント・オールバンズの戦いで退け、ウォリック伯爵の支援を受けてロンドンに侵攻します。
王への誤解もあったようです、自分の王位継承権を主張します。
ヘンリーの王位は過去に簒奪したものだったからです。
王妃は逃亡を促すのですが、王ヘンリーVIは逃げないと主張します。
こうして戦争の中、この舞台は終了となります。
ヨークのレジリエンス
彼のレジリエンスは、以下のようになりました。
今回も以下の代表的なレジリエンス要素を用いて分析をします。
1.自己効力感
2.感情のコントロール
3.思い込みへの気づき
4.楽観
5.新しいことへのチャレンジ
自己効力感は非常に高く、それは彼の王位継承権があると確認してから更に強くなった様子です。
長く下積みを強いられてきていろいろな思いを若い王に対して持っているのですが、表面上はあまり表しません。
感情のコントロールは、下積み時代の我慢からうまく出来ています。
また、本心は本心として、それを不用意に表すことはありません。
思い込みへの気づきという面では、自分の不遇の原因を叔父に訪ねて真相を明らかにする(第一部)等、適切に行動して視野を広げます。
楽観という面は、あまり高いということは言いづらいと思います。
周到に計算して戦略を組み立てて、それを着実に実施していく策略家の一面があると考えられます。
リスク・マネジメントに長けていたということでしょうか。
新しいことへのチャレンジという視点は、この戯曲の中では判断は難しいと考えます。
ただし、周到に準備するというプロセスでいろいろな思考を巡らせて必要な方法を取るという面はあることが分かります。
次回は、シェイクスピアの歴史劇「ヘンリーVI三部作の内、第三部」を検討してみます。
ついに三部作の完結です。
レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。
また、シェイクスピアに関するビジネス活用のご参考として、拙著:「できるリーダーはなぜ「リア王」にハマるのか」(青春出版)があります。
この書籍はシェイクスピア作品を通してビジネスの現場にどう活かしていくかを検討するために書かれました。
toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
株式会社ミヤマコンサルティンググループ