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深山 敏郎

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第36回 シェイクスピアの登場人物のレジリエンス(24)コリオレイナス

2022/02/22

前回はシェイクスピアの問題劇「尺には尺を」の主人公、公爵のヴィンセンシオのレジリエンスについて検討してみました。

今回はシェイクスピア作品の中でも比較的後期 悲劇時代の中でも後期に当たる「コリオレイナス」の主人公ケイアス・マーシアス・コリオレイナス(コリオレイナスは敬称)のレジリエンスを検討してみます。

「コリオレイナス」は悲劇時代後半に書かれた”葛藤“悲劇

前回はシェイクスピアの「尺には尺を」を扱ってきました。
今回の「コリオレイナス」はシェイクスピア悲劇時代の最終時期(1607-1608)に書かれたといわれる芝居です。
この時期にはすでにこのコラムでご紹介した「アテネのタイモン」も書いており、この2作が事実上、シェイクスピアの書いた悲劇の最後ということになるでしょうか。

「コリオレイナス」は古代ローマの物語で、テーマは”葛藤“です。

貴族と平民の共存の葛藤、妻の意志(命)と母親の意志(名誉)の葛藤、コリオレイナス自身の意志と母親の懇願の葛藤など、さまざまな葛藤がこの芝居の悲劇性をビルドアップしています。

余談ですが私はたまたま、BBCのDVDでアラン・ハワード(1937-2015)の演じたコリオレイナスを観て彼の心の葛藤が非常に分かりやすく言葉に表されていることに驚きました。
アラン・ハワードはロイヤル・シェイクスピア・シアター等で活躍した、現代を代表するシェイクスピア役者の一人でした。

更に余談中の余談ですがアラン・ハワードは俳優として名門の家に生まれます。
彼はレスリー・ハワード(1930年代、40年代に活躍した俳優)の甥にあたります。
レスリー・ハワードは映画「風と共に去りぬ」のヒロイン、スカーレット・オハラが恋する美男子、アシュレー・ウィルクス役や、映画「ピグマリオン」(後にオードリー・ヘップバーン主演「マイ・フェア・レディー」としてリメイクされた)の主演ヒギンズ教授を演じた名優で、アンニュイな魅力で女性のハートを掴んだ人気俳優でした。

話を元に戻しましょう。
戯曲「コリオレイナス」は、古代ローマの貴族であり、勇猛果敢な将軍の命をかけた葛藤のストーリーです。
プルタルコスの「対比列伝」(「英雄伝」とも)にも記載がされている実在の人物をモデルにしてシェイクスピアが執筆した脚本です。

コリオレイナスは紀元前5世紀に活躍した勇将です。コリオリを陥落させた功績から「コリオレイナス(コリオリの勇者)」と称されました。
この時代はジュリアス・シーザー(紀元前100年-紀元前44年)などの活躍した時期から見ると、数百年前のことです。
この作品はシェイクスピアの存命時には上演記録が残っていないと言われています。

「コリオレイナス」のストーリー

シェイクスピア戯曲「コリオレイナス」のストーリーは以下の流れです。
古代ローマ時代、市民たちが飢えに苦しんでいました。
貴族であり勇将のケイアス・マーシアス(コリオレイナス)は、貴族が安易に市民に妥協して食物を分け与えることに不満でした。
背景にはローマを敵軍から守っているのは自分たち貴族であり武将だからだという自負があります。
彼は隣国のヴォルサイとの戦いで一番の功績を挙げました。
そのため彼には「コリオレイナス」という栄誉ある称号が与えられたのです。

貴族たちは彼をローマの執政官に推薦しようとします。
この役職は実質的にローマを統治する立場にあたります。
しかし、当時のローマでは市民の同意を得なければなりませんでした。
コリオレイナスは自分の本心と異なる言動をすることには抵抗がありましたが、母親の強い願いによって、いやいや市民におもねるスピーチをして執政官に任ぜられます。
しかし、裏では横柄な態度を取っていたため平民の代表である護民官たちには憎まれます。

護民官たちは市民たちを扇動してコリオレイナスを執政官の立場から引きずり降ろそうとします。
コリオレイナスは護民官たちの挑発に乗ってしまい、市民たちを愚弄する言葉を発します。
その結果、市民たちはコリオレイナスが法律を破ったとして、死刑を求めます。
貴族たちのとりなしで何とかその場は収拾できたものの、度重なる護民官たちの策略でローマから裏切り者の汚名を着せられて追放されます。

こうした策略でローマを追われたコリオレイナスは、宿敵であるヴォルサイ軍の将軍タラス・オーフィディアスと会い、自らヴォルサイ人になる選択をします。
共にローマを討とうと依頼します。
オーフィディアスもローマへの復讐を誓っていたので共闘します。
オーフィディアスから兵隊の半分を借り受けます。

こうした動きを察したローマはコリオレイナスの友人たちを派遣して彼に嘆願しますが、聞き入れません。
母ヴォラムニアや妻ヴァージリアの嘆願も聞き入れようとしません。
しかし、心から尊敬する母親の度重なる懇願に、ついには節を曲げてローマを全滅させることを諦めます。
ローマとヴォルサイの和平を結ぼうとします。
ところがコリオレイナスはここでも傲慢な態度に出たため、ヴォルサイのオーフィディアスはコリオレイナスを許さず死を与えます。

ケイアス・マーシアス・コリオレイナスのレジリエンス

彼のレジリエンスは、以下のようになりました。

今回も以下の代表的なレジリエンス要素を用いて分析をします。
1.自己効力感
2.感情のコントロール
3.思い込みへの気づき
4.楽観
5.新しいことへのチャレンジ

自己効力感はあまり高いとは言えません。
真の自己効力感とは、どのような状況でも自分に自信を持ち続けることです。
いろいろな葛藤があったとはいえ、安易に自分の節を曲げて正反対の行動に移るということはありません。
自己効力感の高い人は決断の前に冷静に、また総合的に判断するからです。
彼からは主体性もあまり感じられません。

感情のコントロールは、苦手であったと思われます。
親(コリオレイナスの場合は母親)から教育されたことが基準で、それに反する扱いを他者から受けた場合は半ば条件反射的に感情を害して行動に出ます。
ある意味で古代ローマの貴族教育というものの弊害が出たのではないかと思われると同時に、当時としては侮辱された場合には、毅然と戦うことが一般的なことであったのではないかということを思います。
今とは時代が異なるのです。

思い込みへの気づきという面では、母親の度重なる説得に対しては柔軟すぎるほど気付きを得て行動を変えます。
それが彼の悲劇の背景にあると思われます。

楽観という面は、コリオレイナスからはあまり感じられません。
ローマから理不尽に追放された時点ですぐに敵であるヴォルサイに身を寄せてローマへの復讐を誓います。
数百年後にローマの英雄となったジュリアス・シーザー(ユリウス・カエサル)はコリオレイナスに類似した苦労をしてきました。
理不尽な理由で処刑者リストに載ったため、国外に逃れて時期をみてローマに帰ります。
こうした将来への展望と言いますか、楽観があればコリオレイナスの人生も変わったことと思います。

新しいことへのチャレンジという視点は、いろいろと極端な行動は取るのですが、新しいことへのチャレンジではなく窮地に陥ってコントロールを失ったからという理由に思えます。

次回は、シェイクスピアの歴史劇「ヘンリーVI三部作の内、第一部」を検討してみます。

レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。

また、シェイクスピアに関するビジネス活用のご参考として、拙著:「できるリーダーはなぜ「リア王」にハマるのか」(青春出版)があります。
この書籍はシェイクスピア作品を通してビジネスの現場にどう活かしていくかを検討するために書かれました。

toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
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