影響力を与える伝え方をするために、話の構成が大事なのは言うまでもありません。しかし、話の構成ばかりに気を取られ、そもそもの“前提”を考えない人がいます。
前提とは、ある事を成り立たせるための、前置きとなる条件です。例えば、カレーを作る場合、食材を揃えることも大事ですが、そもそも鍋や包丁といった調理器具がなければ作ることができません。つまり、カレー作りにおいては、『調理器具がある』ということが前提になるわけです。
これと同じで、スピーチやプレゼンも、これを成り立たせるための前提が必要となります。そこで今回は、話を構成する前に考えておくべき4つの前提を紹介します。
なぜ、「前提」が大事なのか?
4つの前提をお伝えする前に、なぜ前提が必要なのかをお話しましょう。
例えば、あなたが役員に向けて、「DX化して、業務効率をアップさせよう!」というプレゼンをするとします。非効率となっている要因を洗い出し、課題を整理して、その課題解決に役立つDXツールもいくつかピックアップしました。
そして、「なぜ、DX化なのか?」⇒「DX化によるメリット」⇒「当社に置き換えた場合の効果」⇒「具体的な導入ツール」のように“刺さりやすい構成”も考えました。
しかし、いざプレゼンを始めてみるといまいち反応がよくありません。丁寧に、そして熱心に訴えてみるも、まったく伝わらない。プレゼンは大失敗に終わってしまいました。
ここまで準備し完璧といえる内容だったのに、なぜプレゼンは失敗したのか?
それは、役員が誰ひとり『DXを知らなかった』から……。
そんなバカなと思うかもしれませんが、これがまさに前提が抜けた状態です。このプレゼンでは『役員がDXを知らない』という前提が抜けていたのです。
私たちはコミュニケーションの“だろう運転”をしがちです。「これくらいのことは知っているだろう」「社会的に常識だからわかるだろう」と、あなたも一度は思ったことがあるのではないでしょうか。
相手の知識や理解のレベルを考慮せず、自分を基準に話をしてしまうと、どんなに立派な話でも、どんなに話の構成がしっかりしていても、伝わらなくなってしまいます。
そのようなことにならないよう、話をする前に4つの前提を覚えておきましょう。4つの前提とは、
①どこで(状況)
②誰に(相手)
③何を伝えて(主題)
④どうなってもらうか(目的)
です。
どこで(状況)
話す前に、まず自分がこれから話そうとしている場所がどういう場所なのか、何人くらいの人が聞いてくれそうなのか、といった状況を考えます。
例えば、セミナーのようにそもそも興味を持ってくれている人が集まるような場で話す時は、 手短にしなくても、聞き手は最後まで話を聞いてくれます。
一方でエレベータートークのように、たまたま居合わせた上司に仕事の提案をしたいという時には場所的にも時間的にも制約されてしまいます。
このように、これから自分が話す場というのがどういう状況なのかをまずは考え、そこから逆算して何から話せばいいのか、どういう話し方がふさわしいのかというようなことを考えます。
誰に(相手)
相手が自分の話をどれくらい理解してくれるのか、理解してくれなさそうであれば、どこまで掘り下げて話すべきか、ということを考えます。
例えば、1+1がわからない人に1+1を説明する時、相手が「1」を知らないのか、「1」は知っているけど、「足す」がわからないのか、「1」も「足す」も知っているけど、「答えの出し方」がわからないのか、理解のレベルというのは人それぞれ違います。
この相手のレベルをあらかじめ考えておくことで、相手に寄り添った伝え方ができるようになります。もし、相手が初対面で理解レベルがわからない場合は「今言った〇〇という言葉は知っていますか?」と質問しながら歩幅をあわせていくことができます。
何を伝えて(主題)
主題とは話の全体を通して伝えたいことです。
例えば、太宰治の『走れメロス』という物語は、『人を信頼することの尊さ』を主題にした物語です。
実際、太宰治がどのようにこの物語を書いたかはわかりませんが、少なくとも書きながら主題を定めたわけではないはずです。先に「人を信頼することって大事だよな。そういうテーマで何か書けないかな」と主題から逆算して物語が構成されたのではないでしょうか。
同じようにあなたが話をするときにも必ず主題を先に考えるようにします。何となく出、構成を考えるのではなく、構成を考える前に「これは必ず伝えたい!」という主題を設定しておくのです。
どうなってもらうか(目的)
目的とは主題に沿った話を受けて、最終的に相手にとってもらいたい行動や、感じてもらいたいことを指します。
例えば、先のDX化のプレゼンであれば、「DX化により業務効率をアップさせる」が主題です。その主題を受けて聞き手(役員)にどう行動してもらいたいか、どう感じてもらいたいかを設定するのが目的です。
DX化のプレゼンであれば「DX化の承認を得る」とか、役員が「DX化を進めよう」と前向きな姿勢になってもらうとかそういうことです。
このようにあらかじめ目的を定めておくこくと、話の軸がしっかりしてブレにくくなります。また、話し手としても、目的のために自然と相手に行動を促す言葉が出てきたり、エモーショナルになったりします。
まとめ
プレゼンやスピーチにおいて話の構成は大事です。だからこそ、その構成の礎となる4つの前提、「どこで、誰に、何を伝えて、どうなってもらうか」を考えるようにしてみてください。
反対に4つの前提がしっかり定められていると、構成も作りやすくなります。ぜひ試してみてくださいね。