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深山 敏郎

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第33回 シェイクスピアの登場人物のレジリエンス(21)ヘンリーIV 第一部

2022/02/01

前回はシェイクスピアの問題劇「ヴェローナの二紳士」の主人公ヴァレンタインのレジリエンスについて検討してみました。

今回はシェイクスピア歴史劇「ヘンリーIV 第一部」の主人公である国王ヘンリーIVのレジリエンスを分析してみます。

「ヘンリーIV第一部、第二部」はシェイクスピア歴史劇の代表作

この作品は、シェイクスピア喜劇時代に書かれた歴史劇です。
1597年に書かれたと言われています。
シェイクスピアは習作時代にも「ヘンリーIV全三部」、「リチャードIII」、「ジョン王」といった歴史劇を書いています。
中でも「リチャードIII」は大人気になりました。
リチャードIIIの役柄は、例えばローレンス・オリヴィエのような時代を代表する名役者が演じています。
この作品には明確な主人公リチャードが居て、悪逆非道を繰り返しますが最後は倒されます。

さて、実在のイングランド王ヘンリーIV(在位:1399年~1413年)は、ランカスター朝最初のイングランド国王です。
ボリンブルック城で生まれたため、ヘンリー・ボリンブルックと呼ばれることもあります。
彼はイングランド王になる前、諸侯の反乱や謀反などによって国外追放されるなどの経験をしています。
最終的にリチャードIIを倒して王座に就きます。
非常に苦労して国王の座を得た人なのです。

シェイクスピア戯曲である「ヘンリーIV」は第一部、第二部とも主要登場人物はいろいろといます。
例えばヘンリーIV、その王子ハル(後のヘンリーV)、そして以前に「ウィンザーの陽気な女房たち」でも取り上げたコミック・リリーフ(喜劇的演出を意図した登場人物)のサー・ジョン・フォールスタフです。
フォールスタフはシェイクスピアが創作したキャラクターであり、実在の人物ではありません。
彼はこのコラムシリーズ「ウィンザーの陽気な女房たち」に既に登場していますので、「ヘンリーIV 第一部」ではヘンリーIVを取り上げ、「同 第二部」では王子ハルを取り上げてみます。

この作品のようなシェイクスピアの歴史劇には無数に魅力的なキャラクターが登場します。
ご興味をもっていただいた方は是非原作をお読みください。

シェイクスピアは「ヘンリーIV」をただの歴史記述としては書いておらず、人間を描くことに集中しています。
そのため、フォールスタフをはじめとする個性豊かな登場人物の多くはシェイクスピアの創造物です。

私はこのコラムを書くにあたって、原作をざっと読むとともにBBC版のDVDとグローブ座の舞台DVDを観ました。
BBC版は映画のような作りになっていて、戦闘のシーンなどが大迫力でした。
名優ジェレミー・アイアンズがヘンリーIV役を演じています。
私の目には、ヘンリーIVと息子のハル王子の親子関係を軸に描かれたヒューマン・ドラマといった内容に見えました。

「ヘンリーIV 第一部」のストーリー

シェイクスピア戯曲「ヘンリーIV 第一部」のストーリーは以下の流れです。
紆余曲折を経て王座に就いたヘンリーIVは心が落ち着きません。
彼は自らの心を休めるために十字軍としてエルサレムへ行くことを考えています。
また、彼はもう一つの悩みを抱えています。
それは息子ハル王子のことです。
ハル王子は酒場に入り浸ってジョン・フォールスタフと放蕩三昧の生活に陥っていて、未来の国王の座を譲ることが適切かどうかは非常に疑わしい状況です。
このフォールスタフは盗賊まがいのことをしているゴロツキです。

一方でヘンリーIVの臣下であるノーザンバランド伯爵の息子ホットスパーはハル王子と同年齢で、戦場で勇ましく振舞い、武勲をほしいままにしています。
ヘンリーIVとしては息子にもいらいらするばかりです。
そうした折も折、ホットスパーの一族が国王ヘンリーに反旗を翻します。

敵の勢力は増すばかりで、ヘンリーIVは息子のハル王子を呼び戻し、真意を質します。ハル王子は改心して王のために忠誠を尽くすと約束して戦場へ向かいます。
王のヘンリーIVも現地に赴いて、なるべく対決を回避したいとホットスパーたちに使者を通じて伝え、反乱の理由を尋ねます。
その理由とは、ヘンリーIVがリチャードIIを倒した時の功績に対して自分たちは十分な恩賞を得ていないというものでした。
ヘンリーIVは使者を通じて善処する旨伝えるのですが、ホットスパー側からの使者であるウスター伯爵はそれを信ずることなく、ホットスパーに正確には伝えません。

そうした背景もあって、結局、戦さになって武勇に優れたホットスパーとこれまで放蕩三昧を繰り返していたハル王子の直接対決となります。
大方の予想に反してハル王子が勝利をおさめます。

ヘンリーIVのレジリエンス

ヘンリーIVのレジリエンスは、以下のようになりました。

今回も以下の代表的なレジリエンス要素を用いて分析をします。
1.自己効力感
2.感情のコントロール
3.思い込みへの気づき
4.楽観
5.新しいことへのチャレンジ

自己効力感はある程度高いのですが、自らがリチャードIIを倒すことで王位に就くというイレギュラーさや、息子のハル王子の放蕩三昧などに自信を失いかけています。

感情のコントロールは、この戯曲の中でもっともコントロールしている人物と言ってよいと思います。
謀反を起こした臣下に対しても、その理由を尋ねて善処しようとするなどはまさに自らの感情に振り回されない人物と言えるでしょう。

思い込みへの気づきという面でも、臣下の謀反に対して決めつけで状況判断を誤るということはしていません。
また、放蕩息子のハル王子に対しても、その真意を直接確かめてその真意が分かると全幅の信頼を寄せます。

楽観という視点からは、絶えず不安にさいなまれているところから、あまり得意な方ではなかったと思われます。
これに対して、本作には出てきませんがリチャードIIIなどシェイクスピア戯曲の典型的な悪役は、極論ではありますが楽観的なキャラクターが多いと思えます。

新しいことへのチャレンジという視点は、それほど独創的ということはないのですが、息子のハル王子を信ずるために話し合いをする姿勢などは問題解決のための柔軟性や創造性を伺わせます。

次回は、シェイクスピア歴史劇「ヘンリーIV 第二部」を検討してみます。

レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。

また、シェイクスピアに関するビジネス活用のご参考として、拙著:「できるリーダーはなぜ「リア王」にハマるのか」(青春出版)があります。
この書籍はシェイクスピア作品を通してビジネスの現場にどう活かしていくかを検討するために書かれました。

toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
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