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深山 敏郎

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第30回 シェイクスピアの登場人物のレジリエンス(18)ウィンザーの陽気な女房たち

2022/01/11

前回はシェイクスピアの悲劇時代の最後を飾る「アテネのタイモン」の主人公タイモンを私なりに分析してきました。

前回は極端な思考をする貴族の悲劇でしたが、今回はレジリエンス応用編の第十八弾として、シェイクスピアが生み出した傑作キャラクターの「ウィンザーの陽気な女房たち」の主人公、サー・ジョン・フォールスタフ(フォールスタッフとも)のレジリエンスについて検討してみます。

「ウィンザーの陽気な女房たち」はずる賢い主人公を描いた名作喜劇

サー・ジョン・フォールタフほど愛されたキャラクターは珍しいのではないでしょうか。

一説によると、シェイクスピアの英国歴史劇「ヘンリーIV」二部作を観劇したエリザベス女王が、劇中のキャラクターであるフォースタフの恋愛物語が観たいというリクエストに応えて二週間で書き上げたともいわれています。
「ヘンリーIV」の中でのフォールスタフ同様に、この戯曲の中でも肥満の老騎士で戦場ではいつも最後を歩き、大層な臆病もので、自分を守るためならどのような嘘もつく、そしてウィットに富んだキャラクターとなっています。
愛すべきキャラクターだからでしょうか、ヴェルディもオペラ「ファルスタッフ」を書きあげました。

私は個人的にはこのフォールスタフのようなキャラクターが大好きです。
但し、実生活の友人としてではなく、舞台上やビデオ等で観ることに限りますが。

「ウィンザーの陽気な女房たち」のストーリー

飲んだくれてやりたい放題の生活をしていたフォールスタフは、治安判事に騒乱罪で訴えると言われます。
困ったフォールスタフは二人の人妻にまったく同じ内容のラブレターを同時に送り、何とか窮状を助けてもらおうとします。
ページ夫人は最初にこのラブレターを受け取り、次にフォード夫人も同様に受け取ります。
二人は怒って、力を合わせてフォールスタフに逆襲をします。

フォード夫人は、夫が留守をする10時から11時にフォード家を訪れるようにフォールスタフへ手紙を書きますが、家来が密告して、夫たちが知ることになります。
フォールスタフは時間通りにフォード家を訪れるのですが、突然夫が帰宅したため、急いで洗濯物の中に隠れます。
フォールスタフは一安心するのですが、これはすべて夫人たちの策略で、洗濯物とフォールスタフを入れたかごはテムズ川に投げ込まれます。
やっとのことで自宅に逃げてきたフォールスタフは、偽名を使って訪れたフォードの夫にこの話をしてしまいます。
密会事件はすべて夫に筒抜けになります。

フォールスタフはこれにも懲りず、何度もフォード夫人と密会をします。
すべてが筒抜けなため、夫が帰宅してフォールスタフはしこたま殴られる羽目に陥ります。
夫人たちもすべてを夫たちに打ち明け、仕返しとばかり夜ウィンザーの森へフォールスタフを呼び出してこらしめようとします。
フォールスタフは小さな子たちにつねられたり、悪さをされてやっと自分が騙されていたことに気づきます。

こうした主筋に加えて、若い恋人たちの恋愛成就もあってめでたしめでたしの喜劇が成立します。

フォールスタフのレジリエンス

フォールスタフのレジリエンスは、喜劇の主人公として他人から笑われるのですが、やりたい放題の人生を送り、自分にその罪の結果が帰ってくるという何とも人間らしいレジリエンス??と言えるでしょう。

今回も以下の代表的なレジリエンス要素を用いて分析をします。
1.自己効力感
2.感情のコントロール
3.思い込みへの気づき
4.楽観
5.新しいことへのチャレンジ

自己効力感はある程度高く、したたかに生きるのですが、同時に自分の戦闘での実力を知っているため、臆病な側面もあります。
無理せず、逃げるが勝ちといった生活の知恵を発揮しきった人生というところでしょうか。

感情のコントロールは、臆病で見栄っ張りという面からみるとそれほど得意ではなかったと考えられます。

思い込みへの気づきという面では、愛すべき“思い込み人間”と言えるでしょう。
つまり、思い込みの塊といったところでしょうか。

楽観という視点からは、劇中いつでも楽観しているのがフォールスタフの特徴と言えるでしょう。

新しいことへのチャレンジという視点は、結果としてうまくいかなかったものの、自分の窮状を二人の人妻に同時にラブレターを送って金銭的支援をしてもらおうと考えるなど、創造性に富んだ発想をします。
倫理観は欠落しているものの、頭の回転が速くまた、機転が利く人物と言えるでしょう。

総合的にフォールスタフに好意的なレジリエンス評価になりました。
どんな環境でもしぶとく生き残っていくためのヒントが、フォールスタフの中に見出せることでしょう。

次回は、シェイクスピア悲劇「トロイラスとクレシダ」を検討してみます。

レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。

また、シェイクスピアに関するビジネス活用のご参考として、拙著:「できるリーダーはなぜ「リア王」にハマるのか」(青春出版)があります。
この書籍はシェイクスピア作品を通してビジネスの現場にどう活かしていくかを検討するために書かれました。

toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
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