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深山 敏郎

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第28回 シェイクスピアの登場人物のレジリエンス(16)お気に召すまま

2021/12/28

前回はシェイクスピアの四大悲劇の一つ「オセロー」の主人公オセローを私なりに分析してきました。

今回はレジリエンス応用編の第十六弾として、シェイクスピアが円熟期に書いた恋愛喜劇「お気に召すまま」の主人公の一人、ロザリンドのレジリエンスについて検討してみます。

「お気に召すまま」は兄弟、権力闘争、そして恋愛を見事に描く作品

いろいろな「お気に召すまま」がある中で、私のお気に入りは1936年に上演された映画です。
オーストリア出身の英国女優エリザベート・ベルクナー(英語名:エリザベス・バーグナー)が主人公ロザリンドを演じ、若きローレンス・オリヴィエが恋人役のオーランドーを演じたこの作品は、名作の一つとして数えられる作品に仕上がっています。

まるで、アカデミー主要5賞を独占した「或る夜の出来事」の中の、クローデット・コルベールと、クラーク・ゲーブルの掛け合いのような小気味のよいテンポで恋愛が進んで行きます。
とてもウィットに富んだ作品です。
まだご覧になっていない方は是非ご検討ください。

余談ですが、ベルクナーは映画「イヴの総て」のモデルとされています。
また、英国シェイクスピアグローブ座の舞台ではナオミ・フレデリックが2009年にロザリンドをうまく演じており、DVDで観た限りでは相当のエンターテインメントに仕上がっていました。
この作品は有名な台詞の宝庫であり、よく引用されます。

例えば、'All the world's a stage, and all the men and women merely players'は、登場人物ジェイクイズの「この世界は舞台だ。男でも女でも人は誰でも役者に過ぎない。(それぞれ登場して退場する。自分の番が来れば一人ひとりがいろいろな役を演ずる。)」(第II幕第七場 筆者拙訳)という台詞(部分)です。

これまでこのシリーズでは、男性主人公を扱うことが圧倒的に多かったのですが、ロザリンドはシェイクスピアが描く女性としてこれほどウィットに富み、魅力的な女性像があったかと思うくらい見事な主人公と言えるでしょう。

舞台では、オーランドーとの相当テンポの速いやり取りが主人公ロザリンドの恋心を盛り上げていきます。
この二人のアーデンの森の中でのウィットに富む会話のテンポの良さが、この戯曲の命でしょうか。
ロザリンドの機転をどう表現するかが成否の鍵になる作品と言えます。

「お気に召すまま」のストーリー

サー・ローランド・ド・ボイスの息子の一人オーランドーは、兄とは仲が悪く、父の遺産を独り占めしたと喧嘩をして家を出ていきました。
公爵の兄も現公爵フレデリックに追放され、ジェイクイズなど少数の気心の知れた仲間たちとアーデンの森で生活をしています。
贅沢は出来ないものの、満足しながらの生活です。
兄を追い出した公爵は、娘のシーリアに懇願されて、前公爵で兄の娘ロザリンドを養っていました。

レスリングの試合で勝ったオーランドーにロザリンドが恋をします。
娘と比較して輝いていると思われるロザリンドは、公爵に追放されます。
公爵の娘シーリアはロザリンドと道化を連れて家出をしてアーデンの森で生活する決心をします。
オーランドーと従者はアーデンの森で前公爵たちに出会い、食料をめぐんでもらいます。
ロザリンドは危険を避けるために男装をしてシーリアとともに家出の旅を続けます。
そこで偶然オーランドーと再会しますがオーランドーは自分が恋焦がれるロザリンドとは知らずに恋愛術を男装のロザリンドから受けます。
つまり、ロザリンドからロザリンドの口説き方のレッスンを受けます。
恋愛劇として最高の見せ場です。
そして物語の最後は公爵兄弟やオーランドー兄弟も和解し、ロザリンドとオーランドー、シーリアとオーランドーの兄が結ばれます。
舞台が終わってから、ロザリンドが一人でエピローグを話して終わります。

ロザリンドのレジリエンス

ロザリンドのレジリエンスは、父親である元公爵が弟に追放されたため、過酷な扱いをうけながら、強く生きる魅力的な女性として描かれています。

今回も以下の代表的なレジリエンス要素を用いて分析をします。
1.自己効力感
2.感情のコントロール
3.思い込みへの気づき
4.楽観
5.新しいことへのチャレンジ

自己効力感は非常に高く、レスリングで勝利したオーランドーに自分のペンダントを与え、男装に変わってからは恋人オーランドーに自分を口説くノウハウを伝授しながら恋愛感情を温めるなどをします。
自信がなければ出来ないことでしょう。

感情のコントロールは、公爵から受ける迫害にも近い仕打ちをも乗り越えてゆくポジティブさと恋愛へまっすぐに進む積極さを兼ね備えています。

思い込みへの気づきという面では、アーデンの森へ逃げ込むのに女性二人では危険であろうと、自分は男装します。機転の利くキャラクターと言えるでしょう。

楽観という視点からは、過酷な運命にもかかわらず、親友シーリアと家出して何とかなるだろう考えて行動をして、良い結果を招きます。

新しいことへのチャレンジという視点は、男装の件もそうですし、アーデンの森でのオーランドーとの恋を成就させるために自分の口説き方を伝授するなどさまざまな工夫を考えます。非常に高いと言えます。

総合的にかなり高いレジリエンス評価になりましたが、シェイクスピア喜劇のスーパースターの一人として、ロザリンドを扱っても良いだろうと考えます。
シェイクスピア時代は舞台は男性のみで演じられていましたので、相当優秀な若手男優が出て来てロザリンド役を演じたことと思います。

次回は、シェイクスピア悲劇「アテネのタイモン」を検討してみます。

レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。

また、シェイクスピアに関するビジネス活用のご参考として、拙著:「できるリーダーはなぜ「リア王」にハマるのか」(青春出版)があります。
この書籍はシェイクスピア作品を通してビジネスの現場にどう活かしていくかを検討するために書かれました。

toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
株式会社ミヤマコンサルティンググループ
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