第35回 現場で活かせる傾聴とは?
2021/12/12
傾聴が大事!と言われています。多くのセミナー・研修・本などでも取り上げられています。
しかし、現場では、一生懸命に傾聴をしているつもりで逆効果なことが多々みられます。
傾聴は確かに大事。だから勉強して取り組んで素晴らしいと思います。
なのに逆効果なことがあるのは切ないですよね?
今回の記事では『傾聴とはなんなのか?』
現場で活かせるレベルに掘り下げてみたいと思います。
よく言われている傾聴とは?
傾聴とは、「耳」「目」「心」を傾けて真摯な姿勢で相手の話を聴くコミュニケーションの技法です。
受容(相手を受け入れる)と共感(話を聞いてその通りだと思う)によって、話し手は自身の理解を深めることができ、積極的・建設的な行動を取れるようになるといわれています。
また「積極的傾聴(Active Listening)」は、米国の心理学者でカウンセリングの大家であるカール・ロジャーズ(Carl Rogers)によって提唱されました。
ロジャーズは多くの事例を分析し、カウンセリングが有効であった事例に共通していた、聴く側の3要素として「共感的理解」、「無条件の肯定的関心」「自己一致」をあげ、これらの人間尊重の態度に基づくカウンセリングを提唱しました。
①共感的理解
相手の話を、相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとする。
②無条件の肯定的関心
相手の話を善悪の評価、好き嫌いの評価を入れずに聴く。相手の話を否定せず、その背景に肯定的な関心を持って聴くことで、話し手は安心して話ができる。
③自己一致
聴き手が相手に対しても、自分に対しても真摯な態度で、話が分かりにくい時は分かりにくいことを伝え、真意を確認する。分からないことをそのままにしておくことは、自己一致に反する。
簡単にまとめると、以上のことが一般的に傾聴だと言われています。
現場で起こっているすれ違い
上記に書いたような傾聴を学び、実践されている方に起こりがちなのは「頷き・おうむ返し」などのスキルを駆使しすぎて、話し手が話したくなくなるという場面。
これはよく見かけますが、スキルで聞こうとしてしまうことで起こります。
また、受容(相手を受け入れる)と共感(話を聞いてその通りだと思う)だと思って無理に実践してしまうと、その『無理している』が相手に伝わり関係構築が難しくなってしまう、これもありがちです。
いづれも、頭の理解だけで、表面的に理解し実践してしまうと起こってしまいます。
ロジャーズの提唱する①共感的理解 ②無条件の肯定的関心 ③自己一致などについても同じです。
聞き手に対して、話し手の「聴いてもらえた感じがしない。話したくなくなる。」などと感じる、傾聴においての現場で起こるすれ違いのほとんどが、頭の理解だけで、表面的に理解し実践してしまうことで起こっています。
傾聴されて、逆に話しづらかった経験はありませんか?
私はあります。
逆に、傾聴という言葉を知らなくても、しっかり傾聴できる人もたくさんいます。
人とのコミュニケーションは、知識での頭の理解ではなく、在り方という言語化が難しい部分に影響されることが大きいと私は思います。
もちろん知識として学ぶことは大切です。
学んだ後に、頭の理解だけで実践しないことがポイントなのです。
現場で活かせる傾聴とは?
受容(相手を受け入れる)と共感(話を聞いてその通りだと思う)、これらの定義をまず明確にしましょう。
まず受容するとは、相手を全く受け入れなくても理解しなくてもいいのです。
そもそも、相手を受け入れたり、理解なんて、誰もできないのです。
生まれ育った背景も性格も違うのですから、完全に理解はできない。
そこから始めることが大事です。
では、相手を受容するとは何なのか?
それは、ただありのままを受容するだけ、ということです。
ただ「あなたはそう感じているのですね。」「あなたはそう考えるのですね。」と。
そこには、受け入れたり理解したりという意識はなく、ただ物を右から左に移動させるのと同じように「あなたはそうなのね。」と、ありのままを受け取るだけです。
では、共感とは何か?
話を聞いてその通りだと思えないのに、その通りだと思うのは不誠実ですよね?この共感も受容と同じです。
ただ「そうなのね。」とありのままを受け取るだけです。
そもそも、相手の話を聞いてその通りだと思うのは、聞き手の主観であって、相手はもしかしたら、全く別の主旨を話しているかもしれません。
それなのに「その通りね!」と理解したつもりでいると、そこで大きな誤解が生じてしまいます。
例えば、辛い経験をされた方の話を聞いて、同じような経験があると「わかるわかる。」と共感してしまう場合があります。
もし、話し手が心の中で「あなたの方が恵まれている。」などと感じていたら「あなたに、何がわかるのよ。」と余計に傷つけてしまう可能性もあるのです。
受容と共感は表層的に頭の理解で使ってしまうと非常に危険なのです。
我々にできるのは、相手の言葉を「そうなんですね。」「そうなのね。」とありのままを、ただ受け取ることだけです。それでも、聞き手は十分に安心できます。
①共感的理解
相手の話を、相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとする。
→このことは、とても大事なことですが、そのように努力する一方で、相手の立場に立つことも気持ちに共感することも『主観』であって、一致はしないのだと、どこかで意識していることも、また同じくらい大事なことなのです。
②無条件の肯定的関心
相手の話を善悪の評価、好き嫌いの評価を入れずに聴く。相手の話を否定せず、その背景に肯定的な関心を持って聴くことで、話し手は安心して話ができる。
→その通りだと私も感じます。そして練習や場数が必要です。実践して習慣化するのに時間がかかるからです。また逆に、時には善悪の評価、好き嫌いの評価を伝えることでクリエイティブな場になることもあります。なので「こうするべき」という頭の理解だけで行動することで、大きな機会損失になる可能性もあります。ありのままの対応が、どんな相乗効果で何を生み出すかは想定できないからです。
③自己一致
聴き手が相手に対しても、自分に対しても真摯な態度で、話が分かりにくい時は分かりにくいことを伝え、真意を確認する。分からないことをそのままにしておくことは、自己一致に反する。
→常に自分と繋がって内側にフォーカスする習慣をつけることが大切です。自分の内側の感覚を言語化するということです。私は多くの企業で1000名以上の社員さん達と個別面談や研修でコミュニケーションをとってきましたが、頭で考えることを言葉にするのは得意でも、内側で感じていることを言葉にすることが苦手な方が多い印象です。その部分は教育されていないから、という要因も大きいと感じます。
まとめ
現場で本当に傾聴を活かしたいのであれば、知識を学ぶことは大切ですが、その学びを頭の理解だけで実践しないこと。
では、どうしたらいいのか?
①人は誰もがそもそも誤解しあっていて、本当には理解し合えない。そこから始めること。(だから響き合えたり、分かり合えたと『感じる』と嬉しい。)
②自分に誠実であることが相手に対しても誠実。そして自分を尊重できた分だけ相手を尊重できることを忘れない。そのために自分の内側にアクセスし、内側で『感じていること』を言語化すること。
③「(あなたは)そうなのね。」とただただ『ありのまま』を受容する聞き方を心がけること。
④すると、もっと相手を知りたくなるので、相手を理解したいという純粋な感覚から生まれる『質問』が自分の内側から生まれる。その相手を理解したいという気持ちから生まれた質問をして理解を深める。
⑤その深めた理解を「あなたが言おうとしていることは、こんな理解であっていますか?」とか「私はこう感じましたが合ってますか?違和感があれば教えてください。」と相手の伝えたいことを言葉ですり合わせる。
私が実践している『傾聴』を言葉で表現してまとめると、大体この5ステップです。
短くまとめると『自分を尊重し、相手を尊重し、相手に興味をもち、理解をすり合わせる。』
これは、本当にさまざまないい結果を生みます。
リーダーたちにお伝えすると、チームがみるみるよくなります。
現場で活かせる傾聴だと、私は感じています。