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深山 敏郎

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第24回 シェイクスピアの登場人物のレジリエンス(12)ジュリアス・シーザー

2021/11/30

前回はシェイクスピア作品「じゃじゃ馬ならし」の主人公ペトルーチオを私なりに分析してきました。

今回はレジリエンス応用編の第十二弾として、シェイクスピアの戯曲「ジュリアス・シーザー」の主人公、ブルータスのレジリエンスについて検討してみます。

「ジュリアス・シーザー」は、歴史劇から悲劇へ の橋渡しになった作品

「ジュリアス・シーザー」は、シェイクスピアの円熟した「悲劇時代」の最初の作品と言われています。
歴史劇という見方も出来ないことはないのですが、シェイクスピアの歴史劇は主に英国を舞台に展開されているのに対し、この作品はローマを舞台にしています。
また、作品の悲劇性や主人公がはっきりしていること、作品名に「悲劇」という表現が用いられている(「ジュリアス・シーザーの悲劇」というタイトルがついている)ことから、私は「悲劇」と判断しています。
シェイクスピアの歴史劇はどちらかといえば、一つの戯曲の中に主人公も複数出てきて時代変遷を描いているのですが、この作品は明らかに異なります。

この戯曲のタイトルは「ジュリアス・シーザー」なのですが、実質上の主人公はブルータスです。
ジュリアス・シーザー(以下、シーザー)の有名な台詞「ブルータス、お前もか」はこの作品の前半に起こるブルータス一派によるシーザー暗殺の時の台詞です。

この作品は、1599年に「グローブ座」のこけら落とし(最初の上演作品)として上演されたと言われています。

シェイクスピアは、地元の名門の子弟が通うグラマー・スクールに途中まで通っていて、ラテン語でローマ時代の伝記、たとえばプルタルコス「対比列伝」(別名、「英雄伝」)などを読んでいたことがうかがわれます。
シェイクスピアはそうした伝記からこの作品のヒントを得ていたと考えられます。
「対比列伝」の中でシーザーは英雄として描かれており、幼少期からの数々の苦労、部下思いだったこと、植民地で行った政策の卓越性、大きな国家構想を描いていたことなどが分かります。

シェイクスピアはこうしたいわゆる英雄としてのシーザーだけでなく、彼の人間的側面、特に心の弱い面を積極的に描きました。
不吉な夢などの前兆に怯える妻のキャルパーニアに従って、暗殺の日(3月15日)に自宅に閉じこもろうとしますが、ブルータス一派が迎えに来てシーザーの栄誉をたたえるために皆が待っていると言われると、議事堂に行くことにします。

また、シーザーはキャシアスを「痩せこけて、腹が減った顔」と称し、内心恐れ、嫌いだと言います。
キャシアスはブルータスの妹の夫(義弟)で、ブルータスをそそのかして暗殺団に加わらせます。
シーザーは、ブルータスとキャシアスを絶えず競わせていたのです。
そのためもあり、ブルータスとキャシアスは親せきでありながら不仲になっていました。

「ジュリアス・シーザー」のストーリー

この戯曲は、シーザーの凱旋から始まります。
三頭政治の一方の雄であったポンペイウスをエジプトまで追いつめて討ち、帰国します。
ローマ中が大喜びしています。
それだけシーザーは英雄として民衆から慕われていたのです。
それを良しとしなかったのは、シーザーにいわゆる冷や飯を食わされてきたキャシアスであり、義兄のブルータスです。
ブルータスは元老院共和派の名門の出ですが、若いころに父が死んだため、母親はシーザーの愛人になっていました。
シーザーは、共和派と対立する平民派でした。
そうした政治的な立場の違いや心情的な屈折もあったのでしょうか、ブルータスは育ての親といっても過言ではないシーザーを、キャシアスに説得されて、ついには討とうと決心します。
キャシアスがブルータスを暗殺団に引き入れたのです。
それにはいろいろと計算があったようです。
つまり、高潔で正義を行うことで有名なブルータスが暗殺団に加わったということは、民衆に対してシーザー暗殺の正当性がアピール出来ると考えたのです。

ブルータス一派は議事堂にシーザーを呼び出し、みごとシーザーを討ちます。
劇の前半で、シーザーはこの世から去るのです。
ブルータス一派は民衆に対して、自分たちの正当性をアピールする演説をします。
その後、シーザーに可愛がられていた部下のマーカス・アントニアス(マーク・アントニー)が演説をします。
その結果、民衆はブルータス一派を敵対視するようになり、アントニアスと、オクタヴィアス・シーザー(後にローマの初代皇帝となるアウグストゥス)が一緒になってブルータスとキャシアスの軍に挑みます。

ブルータスの妻ポーシャは気丈で、夫の足手まといになるまいと火を飲んで自害します。
ブルータスは妻の死を知らされ、気を落とします。
また、戦場でシーザーの亡霊にも悩まされます。また、キャシアスとも仲たがいをしますが、互いを深く理解し和解します。

そして、ブルータス一派は破れて戦場でブルータス自身も自害します。

ブルータスのレジリエンス

今回も以下の代表的なレジリエンス要素を用いて分析をします。
1.自己効力感
2.感情のコントロール
3.思い込みへの気づき
4.楽観
5.新しいことへのチャレンジ

自己効力感は、残念ながら高くはなかったと判断できます。
高潔で正義の人ではありましたが、ゆらぎない自信を持っていたとは考えられず、自己矛盾を抱えて絶えず悩んでいたと思われます。
その結果、キャシアスの説得に応じてしまい、親代わりであったシーザーを討とうと決心します。

感情のコントロールという面では、残念ながらうまくいっていなかったようです。
つまり、本心を周囲にさらけ出し、朗らかに過ごすというタイプではなく、シーザーに対する屈折した感情を過度に抑え込んでいたため、反動としてシーザー暗殺に走るという暴走をするのです。

思い込みへの気づきという面でも、残念ながら高くはなかったようです。
つまり、シーザーに対する屈折した思いが、自己の行為が正当なものであるという思考に凝り固まらせて、思い込みから抜け出せずにいます。

楽観という視点からも、絶えず自らの人生を悲観していることから高くはありません。

新しいことへのチャレンジという視点は、一見、大きな決断をして新しいことにチャレンジしたように見受けられますが、実のところ、キャシアスの口車に乗ったというだけで、シーザー暗殺ということも、主体的に実行したことではありません。

次回は、この作品の続編ともいうべきシェイクスピアの悲劇、「アントニーとクレオパトラ」を検討してみます。

レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。

また、シェイクスピアに関するビジネス活用のご参考として、拙著:「できるリーダーはなぜ「リア王」にハマるのか」(青春出版)があります。
この書籍はシェイクスピア作品を通してビジネスの現場にどう活かしていくかを検討するために書かれました。

toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
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