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深山 敏郎

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第14回 シェイクスピアの登場人物のレジリエンス(2)リア王

2021/09/21

前回はシェイクスピアのハムレットについて、私なりに分析してきました。

今回はレジリエンス応用編の第二弾として、シェイクスピアの戯曲「リア王」の主人公リアのレジリエンスについて検討してみます。

「リア王」の悲劇

シェイクスピア作品の内、非常に有名な戯曲であるものの上演が困難とされる作品の一つです。
なぜ上演が困難かというと、この戯曲の世界が壮大で舞台では表現しづらいと言われているからです。
黒澤明監督の映画「乱」は、この戯曲を原案として作られた作品です。

戯曲「リア王」では、リア王と三人の娘たちの人間関係を中心に展開し、サブ・プロット(副筋)として、リア王の臣下であるグロスター伯爵一家の親子関係も同時に進行します。
リア王の三人の娘たちも、リア王も、そしてリア王の愛した道化も死んでしまいます。

以下の代表的なレジリエンス要素を用いて分析をします。
1.自己効力感
2.感情のコントロール
3.思い込みへの気づき
4.楽観
5.新しいことへのチャレンジ

「リア王」のストーリー

「リア王」のリアは、ブリテン国の国王として描かれていますが、このストーリーは架空の話です。
また、シェイクスピアがこの作品を書く前に「原リア」という戯曲が存在していて、そちらはハッピー・エンドの物語です。
シェイクスピアは、そうしたハッピー・エンドのストーリーにはせず、救いのないとも言える悲劇として描きます。
主な登場人物はほとんど死んでしまいます。

主人公リアは、80歳を超えて王座からの引退を考え、三人の娘たちに国土を分割して与えようとします。
上の二人の娘たちは既に結婚していて、それぞれの夫にもそれなりの重要な爵位を与えています。
リアは末娘をもっとも頼りにし、愛してもいました。
末娘は未婚で、劇の冒頭近くに娘への求婚者二人が求愛するのですが、一人は財産目当てであり、もう一人の求婚者であるフランス王は、末娘の人間性に惚れ込んでいます。
リア王は三人の娘たちに、父である自分をどれほど愛しているかを言わせます。
二人の姉たちは、心にもないことを言って、国土の三分の一を得るわけですが、末娘は愛情を言葉に出すことが苦手で、父リアの不興を買います。
また、末娘を擁護しようとした忠臣ケント伯爵を国外追放にしてしまいます。
リアは神に誓った言葉は変えないと、末娘には何の財産も与えずフランスへ勝手に行け、とばかり持参金も持たせずに突き放します。
また、ケント伯爵には幾日かの猶予を与えて国外追放にします。

リアは末娘に与えるはずだった最も肥沃な土地を二人の姉娘たちに分け与えます。
自分は引退をするのですが、部下を100名も引き連れて二人の城を交代に訪れます。
しかし、姉娘たちは馬脚を露します。
それぞれが父に冷たくあたるようになり、嵐の中、一人で城から出てゆかせるなど、ひどい仕打ちをします。
また、二番目の娘は夫に、リアのもう一人の忠臣であるグロスター伯爵の両目をくり抜くように指示し、そうしてしまいます。
実はそうした悲劇を演出した人物が居たのです。
それはグロスターの庶子、つまり妾腹(しょうふく)の子であるエドマンドです。
さまざまな陰謀を使って、リア王の娘たちが死ぬように仕組みます。
また、父を欺いて、あたかも兄が父の命を狙っているように思わせて、自分が父の後継者を名乗ります。

そうしたリアの窮状を救おうと、末娘と夫のフランス王がブリテン国に戦を挑みますが、破れてしまいます。
末娘は殺されます。

リアは、すべてを失ってはじめて裸の人間としての自分に立ち返ります。
上の二人の娘を呪い、嵐の中で発狂します。
リアに付き添うのは、国外追放になったものの変装した忠臣のケント伯爵、両目を失ったグロスター伯爵、彼の嫡子エドガー、そして道化です。
そして最後にはリア自身も失意の内に死を迎えます。

リアのレジリエンス

ブリテン国の王、リアのレジリエンスは以下のようになることでしょう。

自己効力感は決して高いとは言えず、娘たちの言葉によって一喜一憂します。
真に自己効力感の高い人は自信があり、他者からの評価や態度に一喜一憂しません。

感情のコントロールは、リアの最も苦手な分野でしょう。
これまで国王で、誰も直言してくれるような人は居なかったのであろうことがうかがわれます。

思い込みへの気づきという面では、リアは決して柔軟な思考をもっておらず一度思い込んだら、そこからなかなか抜け出せないという状況に陥ってしまいます。

楽観という視点からも、決してリアに備わっている要素とは言い難いでしょう。

新しいことへのチャレンジという視点では、この戯曲を読む限りあまり観察ができません。

こうして考えてみると、「リア王」のリアは、どこにでも居そうな頑固親父であるという面と、狂気を持つ存在として描かれています。
部下への命令のように、末娘も自分の思うように操ろうとして失敗し、狂気が増幅されるのです。
反面教師として、こうした悲劇の主人公を観察してみるのも面白いでしょう。
いろいろな見方が出来るかもしれません。

次回は「ヴェニスの商人」の登場人物について分析してみましょう。

レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。

また、シェイクスピアに関するビジネス活用のご参考として、拙著:「できるリーダーはなぜ「リア王」にハマるのか」(青春出版)があります。この書籍はシェイクスピア作品を通してビジネスの現場にどう活かしていくかを検討するために書かれました。

toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
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