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益田 和久

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第291回 内定式の「IT・デジタル枠」に思う、問われるのは迎える側の進化

2026/10/03

10月1日、全国各地で2027年春の入社予定者を迎える内定式が開かれました。今週の日本経済新聞にも内定式の記事が数多く並びましたが、今回はその中から「北関東の銀行・企業で内定式 地域課題解決とデジタル担う人材に期待」という記事を取り上げたいと思います。北関東3県の地方銀行や主要企業が一斉に内定式を開き、経営陣が地域貢献やデジタル化への対応の重要性を語ったという内容です。めぶきフィナンシャルグループ傘下の常陽銀行では、27年度に新設した「IT・デジタル枠」の5人を含む88人が出席しました。秋山謙取締役常務執行役員は、デジタル技術によって銀行の仕事は変わっていくとしたうえで、「新しい技術を安心と信頼につなげられる人」がこれから活躍するだろうと語りかけたそうです。IT・デジタル枠の1期生となった学生は、大学で学んだ社会調査やデータ分析を生かして、お客様のニーズに寄り添う銀行員になりたいと抱負を述べています。このほか栃木銀行やデクセリアルズ、ベイシアなどの式辞でも、「学び続ける姿勢」や「自ら考え、自ら行動する」ことへの期待が語られていました。

私がこの記事で目を留めたのは、「IT・デジタル枠」という言葉でした。金融機関には以前から、いわゆる理系の採用枠がありました。年金数理人(アクチュアリー)のような数理の専門家や、システム開発を担う人材の枠です。けれども、あえて「IT・デジタル枠」と銘打ったことには少し驚きました。常陽銀行の発表によれば、この枠で入行した人は最初からIT・デジタル関連の部署に配属され、システム企画・開発、データ利活用、デジタル戦略の立案、新サービスの開発といった業務に携わる予定だといいます。調べてみると、福岡銀行の「デジタルIT部門」、第四北越銀行の「金融DX推進コース」、宮崎銀行の「IT・デジタルコース」など、地方銀行でも同様の採用コースを設ける動きが広がっているようです。

実は私も、かつては銀行員でした。当時を振り返ると、銀行を取り巻く景色は大きく様変わりしました。電子マネーなど考えたこともありませんでしたが、いまでは私自身、ATMでお金を下ろすのは月に1回ほどでしょうか。経済産業省によれば、2025年の国内のキャッシュレス決済比率は58.0%に達し、2023年の48.4%からわずか2年で10ポイント近く伸びています。紙の通帳も、大手銀行を中心に2021年ごろから発行に手数料がかかるようになり、スマートフォンで明細を確認するデジタル通帳への移行が進みました。いま通帳を持ち歩いている人は、ずいぶん少なくなったのではないでしょうか。ATMの設置台数も、ここ数年は毎年3千〜4千台ずつ減っているといいます。社会の状況やインフラ、通信手段がこれだけ変わったのですから、そこに絡むお金の扱い方や考え方が変わるのは、むしろ当たり前のことなのだと思います。

だからこそ、学生時代からデジタルに親しんできた若い世代に寄せる期待は大きいのです。彼らは良い意味で、まだ金融機関の「常識」に染まっていません。私たちが思いもつかないような斬新な仕組みを生み出してくれるのではないか、と期待が膨らみます。しかも先の1期生は、データ分析を「お客様のニーズに寄り添う」ための手段として捉えていました。技術のための技術ではなく、人のための技術。秋山常務の「安心と信頼」という言葉とも、きれいに響き合っているように感じました。

ただ、ここで一つ気がかりなことがあります。若い人たちがせっかく多くの知識やスキルを携えて入ってきても、指導する側がそれなりに進化していなければ、その力は生かされません。それどころか、本人にとってはとても気の毒な状況になってしまいます。「まずは銀行のやり方を覚えてから」「前例がないから」と、新しい提案がやんわりと押し戻されていく。そうした景色は私自身も目にしてきましたし、同業の仲間からもよく耳にします。

前々回の第289回では、AIの普及によって、先輩の横について覚えるOJTの機会が失われかねないと書きました。銀行員としての基本や、お客様と向き合う姿勢は、これからも先輩から後輩へと受け継がれていくべきものです。しかしデジタルの領域に限って言えば、知識の流れは必ずしも上から下へとは限りません。若手が経営層や管理職の「先生役」を務めるリバースメンタリングは、米ゼネラル・エレクトリックのジャック・ウェルチ氏が始めたとされ、日本でも資生堂や三菱マテリアル、東京海上日動などが取り入れてきました。大切なのは、若手を「デジタルに詳しい便利な人」として扱うのではなく、互いに学び合う関係をつくることです。ベテランは業務やお客様の勘所を、若手はデジタルの視点を持ち寄る。そうした双方向のOJTがあってこそ、新しい技術は「安心と信頼」へとつながっていくのだと思います。

そしてもう一つ欠かせないのが、若手が遠慮なく意見を言える職場の空気、つまり心理的安全性です。入社1年目の若手が「この手続き、アプリでできませんか」と口にできるかどうか。その一言を受け止め、面白がれる上司がいるかどうか。デジタル人材の採用とは、実は迎える側の組織の成熟度を問うものでもあるのでしょう。

せっかく入ってきてくれたIT・デジタルの優秀な人材が存分に才能を発揮し、そのスキルが会社の発展や地域社会の繁栄へとつながっていくように。人材育成を生業とする者として、指導する側の学び直しや、世代を越えて育ち合う仕組みづくりについて、何かしらの提案をしていきたいと感じる今日この頃です。

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