HACHIDORI NO HANE(ハチドリのはね)HPトップ

星 寿美

ホーム > 星 寿美 > 記事一覧 > 第84回 家族経営から組織に移行するときの難しさ

第84回 家族経営から組織に移行するときの難しさ

2022/11/28

社員30名前後、小さな会社の2代目、3代目で、規模や形態を変え『家族経営から組織化していこう!』というタイミングで、コンサルティングさせていただくことが多々あります。

さまざまな側面でご苦労されている経営者が多いのです。
私は組織育成の専門家なので、その側面でお話ししたいと思います。

事例1:先代の側近たちとの関係性が複雑
事例2:理想は高いが社員がついてこない
事例3:会長派VS社長派という構図に
まとめ:結局、どうしたらいいのか?

この4点にまとめてみたいと思います。
少しでもお役に立ちますように!

事例1:先代の側近たちとの関係性が複雑

世代交代の後、先代の側近たちと表面上はうまくいている風なのですが、何かとやりづらく感じているR社長。
「特に半目されているわけでもないし、対話もできている。しかし、新しい考えには慎重で、説得が大変。」なのだそう。

あからさまに嫌悪されるのも辛いですが、表面上は穏やかでありながら決定に関して進めづらいのも辛いですよね。
また、側近たちは、いつも社長を立ててくれるような態度を取っているので、本音がすれ違うような、でも、何をどう言えば良いかわからない、そんなもどかしさを感じていたのだそうです。

もちろん、ビジョンやミッションも共有し、長中期計画も立てています。
その上で、改めて『この会社をどんな会社にしていきたいのか?』『自分はどんなふうに貢献し、活躍していきたいのか?』という言語化をする会議を実施しました。

社長や側近たちにお話を伺い『会社をよりよくしたい!』という思いは同じだと感じたからです。

側近たちは、先代のやり方に縛られていたり、変化を恐れるという側面ももちろんありました。
でも、それよりも『自分たちがしっかりしないといけない、若い社長を支えなくてはいけない』という思いが強いので、社長の決定に慎重になっていたようです。

いずれにしても『より良い会社に』という思いは一致していました。
そのために、今の思考ややり方が、本当にベストなのだろうか?
どうしたら本当の意味で『より良く』なるのだろうか?

本音ベースで語り合える『場を創造』しました。
この『場』が『クリエイティブな場』になるか『表層的な場』になるかは、ファシリテーターの腕にかかっていると思います。
外部で関わるからこそ、できることがあります。

なかなか内部だけで『クリエイティブな会話』を引き出すのは難しいのです。
それまでの関係性やしがらみがあるからです。

月に1回『クリエイティブな場』を創造することで、半年後、側近たちとの関係がよくなり、社長の憂いは解消されました。

事例2:理想は高いが社員がついてこない

それまでは、TOPのいうことは絶対で、まるで親方のよう!
そして社員たちは、非常にアットホームな雰囲気。
典型的な『家族経営』でした。
その親方のようなTOPが退き、30代の息子であるI社長が3代目社長に・・・

私の肌感覚ですが、このパターン、多いような気がします。

それまでは親方気質の社長の言うことさえ聞いていれば安泰だった社員たち。

しかし『時代も変わり、そんな経営では淘汰されていく!だから社員全員の意識もあげて、組織化しようと思っている』そんなI社長の意図はなかなか伝わりません。

「先代の頃はよかった」と社員から愚痴が出る始末です。

「社員を全員入れ替えた方が、どんなにかやりやすいか・・・」と、社長からも愚痴が出ます。

しかし、愚痴を言っても始まらないと社長は、社員の意識をあげようと、さまざまな研修を導入したり、評価制度などの制度も整えたり、会社のミッション・ビジョン・長中短期計画を社員と一緒に作り上げたりもしました。

その甲斐あって、リーダーの一部の人たちは社長の意図を汲んで主体的に動く社員に育ってくれました。

しかし、そのリーダーたちと他の社員たちの差は広がるばかり!研修をしても『やらされ感』で、自分ごとにはしてくれません。

理想に突き進む社長と数名のリーダーたちは、ほとほと困ってしまいました。

さて、こんな組織をどのように解決したらいいのでしょうか?

実は、組織の数だけ答えがあると私は思っています。
と、いうのは、どんな組織も結局は社長次第なんですよね。

だから、私は社長と対話を深めます。
すると抱えている問題は人それぞれ、なので・・・組織の数だけ答えがあると感じています。

I社長の場合は、幼少期からの両親との関係性が、社員との関係に深く影響していました。

例えば・・・
・自分は、どんなに理不尽に怒鳴られても頑張ってやってきた
・自分は、一回も褒められたことはないけれど頑張ってやってきた
・自分は、親に一切甘えた記憶もないけど頑張ってやってきた

など、本当に辛い状況の中、頑張られてこられたのです。
それはとても尊いことです。
ただ、あまりにも頑張りすぎたために心の痛みとして残っています。

だから、頑張っていないように見える社員(実際には頑張っていても、表面的にそう見えてしまう)を見ると、その積み重ねてきた心の痛みが反応して許せないのです。

例えていうと、
休みたくても休まないで無理して頑張っている人が、適当に鼻歌歌ってサボっている人を見ると「私がこんなにがんばっているのに!」って許せない気持ちになる、というのに似ています。

本来は、無理して頑張るのも、サボるのも、それぞれの選択に過ぎないので、どちらも『いい・悪い』ではなく、ただの個々の選択に過ぎません。
けれど、心の痛みがあると、感情が『過剰反応』してしまうのです。

この過剰反応で、社員と対峙しているので、綱引きのように引っ張りあってうまくいきません。

だから社長は、その『痛み』を自覚して、自分自身で「あぁ、本当に頑張ってきた!偉かった!お疲れ様」と過去の自分を自分で承認するプロセスが必要です。
そうすれば、もう過剰反応はしないで済みます。

すると『頑張っていない!』と決めつけていた社員が、実はめっちゃくちゃ努力していた側面に気づくこともできます。
過剰反応は思い込みを強めますので、それがなくなるだけで多角的に物事を見ることができるからです。

なので、社長との深い対話を通じて、社長自身の心の痛みに社長が自ら気づき、『社長が自分自身を労る』というところから、やっと組織づくりに着手できます。

どんな組織も社長次第だからです。
頑張ってきた社長ほど、こういうジレンマに陥っている。
本当に他の人では耐えられないような状況で頑張り尽くしてきた社長だから、ここを乗り越えて欲しいなぁと思います。

事例3:会長派VS社長派という構図に

組織内の対立を解決した事例は数多くあります。

対立のほとんどは『どちらかが正しくて、どちらかが間違っている』とか『自分たちの言い分をわかって欲しい』という意識なので、どこまでも平行線。解決が難しいのです。

私は組織内の対立でも、個々の対立でも、この意識を外すところから始めます。
『どちらが、いい・悪い』『わかって、わかって!』という意識はまさに百害あって一理なし!と言えます。

でも、どうでしょうか?
社会は、このような意識に満ち溢れていないですか?
どうしたら外せるのでしょうか?

まずは、心の中にある「言い分(自分の正義)」や「わかってほしいこと」を出し尽くす必要があります。
これを出し尽くさないと、人のことを理解する心のゆとりが確保できないからです。

私はいつも関係者を全員一堂に集めて、会議をします。
そして、

①まず『解決したい課題』『目的』を、全員で共有します。

②感情についてのレクチャーをします。

・いい悪いという概念は何も解決できない
・全て『正しい』ということ
・感情が過剰反応するときは相手ではなく自分の心にスイッチがある
・そのスイッチに気づいて心の痛みに気づけば、同じことがあっても反応しない。(だからスイッチに気づかせてくれた相手に感謝)
・攻撃ではなく、解決する課題や、同じ目的のために話をしている

などの必要な共通項目を確認します。

③本当に感じていることを、交互にいうことがなくなるまで、話し尽くします。
相手が話していると、また心が反応して言いたいことが出てきます。
それをまた自分のターンの時に話し尽くす・・・
全員がそれを行います。

④自分が伝えたいことを、全て言い尽くすと、やっと「あれ?相手は、本当は何を伝えたいのかな?」と理解したくなります。
こういう風に思い込んでいたけれど、本当はこうだったのかな?などの気づきが生まれます。

⑤本来の目的を思い出し、そのためにお互いに何ができるのか『クリエイティブな対話』に移行していきます。

まとめ:結局、どうしたらいいのか?

3つの事例を読んで、もうお気づきかと思います!
結局は『対話が解決の全て』です。
でも、表面的な対話はかえってこじらせてしまいます。

例えば『過剰反応している感情の奥にどんな痛みを抱えているのか』そこまで掘り下げる対話が、必要不可欠なのです。

今は、怒りなどの感情を抑えたりごまかすような方法が主流ですが、それでは根本解決が遠ざかるどころか、いつも似たような出来事で怒りを感じるなどを繰り返してしまいます。

『怒りなどのマイナス感情』こそ、本当の自分自身に気づき、対立を解決することができる羅針盤。
感情を大切に扱って対話を深めてほしいと切に願っています。

家族経営から組織に移行するとき、また経営していれば、たくさんの課題があります。
どんな課題も解決の根本は『対話』です。
もし相手がいない課題であっても『自己対話』が必要です。

相手がいてもいなくても、解決の鍵は『深い対話』なのです。
そのやり方はこれまでの記事でもたびたびお伝えしてきました。

また本でも、まとめています。
『経営者・リーダーへ怒りを抑えてはいけない!』(プラウド出版)
興味ある方は、アマゾンで探してみてください。

今日の記事では、家族経営から組織に移行するときの難しさというテーマで3つの事例をご紹介しました。
いかがでしたか?
質問などあればぜひご連絡くださいね!