HACHIDORI NO HANE(ハチドリのはね)HPトップ

益田 和久

ホーム > 益田 和久 > 記事一覧 > 第85回 データ活用

第85回 データ活用

2022/10/20

そろそろ紅葉のシーズンが近づいてきたのでお出かけでもしたいなと思っていたところ、先日の日経に興味深い記事がありました。

コロナ禍の影響で業績低迷が続いている温泉地が、地域としての生き残りをかけ「機密情報」である自社の”宿泊データ”の地域内共有を開始したとのことでした。
兵庫県豊岡市の城崎温泉では、各旅館の予約データを自動で収集・分析するシステムを構築しました。
各旅館は他社や地域全体のデータを参考にして、需要予測や宿泊プラン作りなどに生かすそうです。

コロナ禍以降、温泉街で宿泊施設の廃業が続いているようですが、データに基づいた経営にシフトすることで反転攻勢を図っていくのが期待できますね。
実際に、兵庫県の日本海側に位置する城崎温泉では、関西圏の観光客が大半を占めていたので、検索広告(検索エンジン、Googleやyahoo等への広告)はこれまで関西在住者を主なターゲットとしていたようです。
ところがデータ分析を導入したところ、温泉地全般として都内からの宿泊客の割合が上昇していることをキャッチ。都民向けの検索広告を大幅に増やしたことが功を奏し、都民の割合が着実に増加したようです。

今回の”DX経営改革”を支えるのが「豊岡観光DX基盤」というプラットフォームなのですが、温泉地の若手旅館経営者や豊岡市、旅行システム会社が共同開発したようです。
しくみとしては、登録している旅館から、自社サイトや旅行会社のオンラインシステム経由で予約された情報(日程、人数、金額、予約者の居住地域等)を自動で収集することで、温泉地全体の予約状況を可視化し、数カ月先までの需要を予測できるようです。
「豊岡観光DX基盤」に参加する旅館は自社のデータを提供することの代わりに、同価格帯の旅館や地域全体の平均データなどを閲覧できるそうです。
旅館名や宿泊予約者名などの情報は特定されないようになっているようなので提供側も安心できます。
76軒ある温泉地の宿泊施設のうちすでに45軒がデータ提供に賛同していて、情報収集範囲は宿泊客数の8割に達したそうです。
各旅館にも経営規模や温度差がありますので、全旅館の参加には時間がかかると思いますが、効果が出てくれば賛同する旅館が増えてくるのは確実です。

またDX経営ですので、宿泊客を増やすということだけではなく、コスト削減にも役立てているようです。
ある旅館では8月初旬時点で予約が全く入っていなかった9月初旬の日を臨時休業日としたそうです(基本は年中無休)。
温泉地全体でも稼働率が10%以下と低いというデータもあり決断したようですが、結果は予想通り温泉地への来客は伸びず、スタッフの稼働調整や食材の仕入れ抑制もできたようです。

宿泊データは各旅館にとって、最高の機密情報ですし、自旅館のデータが特定されないとはいえ、ライバル関係にある旅館同士でデータを共有することへの抵抗感は根強いようです。
そんな背景もありながら共存共栄の方向にシフトしたのは大きくは3点あると思います。
①新型コロナウイルス禍による需要の激減。
②社員旅行や慰安旅行などの団体旅行の現象。
③データ経営を活用した旅館業が増えてきたことです。
また城崎温泉では経営者の世代交代が進み、データ共有への心理的なハードルが下がっていることも背中を押したようです。

今後の課題はデータ分析の精度向上。というのもデータを参考に経営戦略を考えられる人材は不足しています。
また新たにデータ共有を始める温泉地にとっては、システム構築の財源確保やデータ提供への抵抗感も壁となっているようです。
これはDX経営という観点からするとどこの業界も同じですよね。

改めて感じたのは、温泉地全体でデータを共有することで、温泉地としての需要の底上げはできますが、個々の固有の価値を高めることがより一層重要になってくるのではないかということです。
中華街に行くと、せっかくだから一番美味しい店、評判の良い店を探す感覚と似ているかもしれません。

それは私たち研修業界も同じで、仲間同士で「今、どんな教育ニーズがあるか」ということは情報交換をしますので、コンテンツ開発やお客様へのアプローチも一定の効果はあります。
ただ、ニーズが高まるということは、お客様の目も肥えてくることにもつながります。
データはあくまでもデータ。そのデータを基にした戦略立案だけでなく、人や商品、システム等の“武器”のクオリティをあげていくことも拘っていきたいと思う今日この頃です。