今回は、「経営者の思考法①客観思考」というテーマで考えてみましょう。
経営者とはここでは起業家、事業承継者、雇われて経営を任されている人のすべてを含みます。
経営者の思考法と言われて、例えばポジティブ思考、目的思考などが思い浮かぶ方もいらっしゃることでしょう。
ここでは、経営者の思考法を「客観思考」、「判断」、「問題解決」といったキーワードで表現しています。
これまでこうした分野の思考法を多く身に付けて来た方々は今一度、ご自身を振り返るツールとしてお使いくださいますよう。
こうした思考法は、経営者のレジリエンスを高める要素といってよいでしょう。
経営者の思考法はレジリエンスを高める
1.客観的に把握する「客観思考」
2.適切な判断をする
3.問題解決をする
という3種類の思考方法をこれから3回にわたって考えてみましょう。
今回は1.客観的に把握する「客観思考」です。
ものごとを空間・時間・心理の3軸で客観的に把握する「客観思考」
客観というと、数値に代表されるデータ、トレンド、事実などといったキーワードを連想される方が多くいらっしゃることでしょう。
これらはビジネス成功のためには非常に重要なことですし、私もそうした思考を心掛けています。
現在、データを用いたマーケティングや経営計画などの構築が花盛りです。
それはそれで成果をあげるために重要な思考法です。
しかし、今回お伝えしたいのはやや異なる観点です。
「客観思考」とは、視野の広さといったこととほぼ同一の意味です。
私たちが一流の経営者を目指すならば、以下の3つの客観思考を身に付ける必要があります。
①空間的な把握力の広さ
②時間的な把握力の広さ
③心理的な把握力の広さ
です。
抽象論ではなく、具体的に考えてみましょう。
①空間的な把握力の広さ、および②時間的な把握力の広さ
先日、オンラインでポーランドの一般家庭のご婦人とお話をする機会を得ました。
ご存知の方も多いかと思いますが、ウクライナからの避難民(難民)の方々を現時点で最も多く受け入れている国です。
2022年7月5日時点で4,472,349人(UNHCR資料より)という世界一の受け入れ国です。
しかし、彼女が仰っていたのはポーランドとウクライナの間には悲しい過去があり、多くのポーランド人が過去の戦争時にウクライナ人に殺されたということでした。
正直、大変複雑な気持ちだと仰っていました。
こうしたことを考えてみますと、ただ単にポーランドはとても親切な隣国という考え方で割り切れない、悲しい過去を乗り越えて人道上の支援をしようとしている国であるということが分かります。
こうした歴史を学ばずに、国際関係、あるいは日本国内での都道府県民感情などは分かりづらいでしょう。
同様にロシアとウクライナの歴史、西洋キリスト教国とアジア・中南米などは歴史的にさまざまなことを経験してきました。
そうしたことが現代のビジネスにも強いインパクトを与えていることは容易に想像がつくことでしょう。
50年前に予見されていた現在の地球環境
また同様に、将来を見通すためにも空間的、時間的な把握力が重要ですね。
私たちビジネスパーソンはじめ多くの人の失敗例として、以下を挙げます。
皆さんはローマ・クラブの「成長の限界」をお読みになりましたか。
今からちょうど50年前に日本でも、ドネラ・H・メドウズ『成長の限界—ローマ・クラブ人類の危機レポート』(ダイヤモンド社、1972年)というタイトルで出版されました。
科学者たちが検討を重ねて提言してきた内容ですし、現在の状態がかなり正確に予見されています。
私もその頃に手にとって読み、将来の地球環境への強い危機感を覚えました。
こうした危機意識を、世界のほとんどの国や団体(政府や企業など)があまり深刻には捉えずに、あるいは深刻さを頭で理解していても抜本的な対策を打たなかった。
半ば放置に近い状態にした結果が現在の世界です。
こうしたことは、SDGsではとても太刀打ちできないレベルに来ています。
ここでは時間的に長期的な視点が欠落するとどうなるか、という事例の一つとして地球環境の問題を挙げたわけですが、皆様の企業経営に関してはいかがでしょうか。
事業承継がうまくいかない、売れる商品が見当たらない、人材が不足している などなど、昨日今日始まったことではないにも関わらず、多くの経営者が悩み、苦しんでいます。
今からでも結構ですので、10年後、20年後、そして50年後を見据えた視点でビジネスを見つめ直してみてはいかがでしょうか。
③心理的な把握力の広さ
私たちの関心の範囲はいかがでしょうか。
関心の範囲をいくつかの広さで区分してみましょう。
1)自分のこと、自分の家族のこと、従業員やその家族のこと
2)上記を含む市町村や都道府県など、地域社会のこと
3)国全体のこと
4)世界のこと
こうした視点からすると、私たちのほとんどが
1)自分のこと、自分の家族のこと、従業員やその家族のこと
で関心の範囲は閉じているようです。
筆者自身も強く反省するところです。
本来、ビジネスをするということは、社会的に価値があり(困っていることへの解決策としての商品・サービスを提供すること)、そして関係する人たち(難しい言葉では、ステークホルダー、つまり利害関係集団と言いますね)の幸福を追求するということになります。
もちろんステークホルダーにはお客様も含みますから、厳密にはステークホルダーにバランスよく奉仕するということになります。
しかし、顧客満足を通じて社会に価値を提供するということがビジネスの中心的な意義であることは否めません。
心理的な把握力の広さとは、顧客と自分、家族、従業員とその家族といった範囲にとどまらず、より広い社会課題の解決を絶えず念頭においてビジネスをすることを指します。
そうした心理的な把握力の広さというものも、一流の経営者には必須ではないでしょうか。
次回のテーマとも通ずる部分があると思われます。
次回は「経営者のレジリエンス経営者のレジリエンス(8)経営者の思考法②適切な判断をする」についてご一緒に考えてみたいと思います。
レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。
toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
株式会社ミヤマコンサルティンググループ