今回は、「経営者の喜怒哀楽」というテーマで考えてみましょう。経営者とはここでは起業家、事業承継者、雇われて経営を任されている人のすべてを含みます。
経営者の喜怒哀楽は、社員の喜怒哀楽と違うのでしょうか。
人間として喜怒哀楽に代表される「感情」を持つことは共通しています。
ただし、経営者と部下の方々では、その表現方法が異なります。
経営者の感情表現の大切さ
1.喜怒哀楽の表現が、周囲(この場合は社内)に好ましい影響を与えるケース
2.喜怒哀楽の表現が、周囲(この場合は社内)に好ましい影響、あるいは好ましくない影響を与えるケース
3.喜怒哀楽の表現が、周囲(この場合は社内)に好ましくない影響を与るケース
それぞれの事例を挙げてみます。
1.好ましい影響を与えるケース
社内に一体感があり、事業の進捗や成否が社員全体ですでに共有されているケース。
ライバル企業との競争に勝った・負けたといったことに対して社員とともに感動する、悲しみの涙を流すことなどが、これにあたります。
また、苦労して続けて来たプロジェクトの成功などもこれにあたります。
JAXAが宇宙にロケットを打ち上げて成功した時の感動などは広くJAXAのみならず、日本中の感動につながったケースもあります。
組織のトップも技術者も関連企業の皆さんも同じ感動を分かち合いました。
努力が報われなかったケースでも、経営者が悔しがることで効果が出る場合があります。
筆者のかつての指導先であったA社はアパレルショップブランドとしては素晴らしい接客をすることで有名でした。ところがある店舗を訪れたお客様からのクレームを頂戴したそうです。
社長のS氏は社外の親しい友人と飲みに行って「こんなはずじゃなかった。とても悔しい」と悔し涙を流したそうです。たった一つのクレームに対してです。
彼の悔しさは、クレームを受けた個人を責めるためのものではなく自分に対する悔しさであったと想像できます。
これがめぐりめぐって社内に伝わり、接客に対する姿勢が良い方向へシフトしました。
2.好ましい影響か、好ましくない影響を与えるケース
特定の個人・部署などの成功・失敗について経営者が一喜一憂する姿を社員全員が見るという状況です。
失敗事例に関しては、個別に対面して喜怒哀楽をうまく伝えるというケースもあろうかと思います。
ただし、怒りや哀しみなどマイナスの感情を伝えるには相当なスキルや工夫が経営者には求められています。具体例は後述します。
また、成功事例であっても特定の個人や部署にだけ焦点が当たり、他の個人や部署が置き去りにされているという可能性があります。
特定の個人や部署を褒めたたえることによって、他者や他部署のモチベーションが下がるケースもあるため、注意が必要なことはもちろんです。
最悪、部署間の溝が出来てしまうケースもあります。
もちろんそうならないための対策として、特定個人や部署のみが頑張ったためではなく、関連する各個人や部署の協力が重要であったということも伝えることが必要でしょう。
3.好ましくない影響を与えるケース
部下に怒りなど、マイナスの感情を伝えなければならない時もあるでしょう。
伝え方によっては、非常にマイナスな影響が出ます。伝え方で達人と私たち凡人の差が出るようです。
有名なケースですと、故松下幸之助氏は手首に輪ゴムをはめていたと言われています。
自分が怒りっぽいことを自覚していて、そうした怒りの感情のまま部下を叱りつけるとマイナスの影響が強いため、輪ゴムをパッチンとして分泌されすぎた攻撃ホルモン(アドレナリンなど興奮作用があるもの)を低下させて冷静になってから部下を叱ったことが想像されます。
また、自分の感情のコントロールをうまく行っている経営者もいます。
筆者が直接お会いした経営者では、新将命(あたらしまさみ)氏が面白いことを仰っていました。
ご自分のカバンの中に手鏡を入れているそうなのです。
部下が社長室のドアをノックしたタイミングがもし何らかの理由でご自分が怒っている時やいらいらしている時には、「ちょっと待って」とドアの外の部下に伝え、手鏡を出し、自分の顔を確かめてスマイルを作るのだそうです。
大企業のトップを歴任した彼ならではのエピソードです。
経営者ご自身の喜怒哀楽を大切にしていただきたいと思います。
それを経営やご自分自身の成長にどのようにつなげるか、つなげないか、それが超一流の経営者とそうではない方を分けることだけは理解しておきたいところです。
次回は「経営者のレジリエンス経営者のレジリエンス(7)経営者の思考法」について考えてみたいと思います。
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toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
株式会社ミヤマコンサルティンググループ