第47回 シェイクスピアの登場人物のレジリエンス(35)シンベリン
2022/05/10
前回はシェイクスピアのロマンス劇「ペリクリーズ」の主人公ペリクリーズのレジリエンス分析を行いました。
今回はシェイクスピアロマンス劇「シンベリン」の主人公の一人で王女イノジェンのレジリエンス分析をしてみようと思います。
参考にしたのは、松岡和子先生の翻訳、BBCのDVD、そしてOxford版のシェイクスピア全集およびRSC版のシェイクスピア全集です。
今回、BBCのDVD「シンベリン」を観ていると、主役級の女優陣が豪華で圧倒されました。
主人公級のイノジェン(綴りの解釈で、イモジェンとも)はアカデミー主演女優賞、エミー賞、そしてトニー賞と三冠を受賞し、また、英国帝国勲章を授章したデイム・ヘレン・ミレン。そしてシンベリン王の後妻(王妃役)のクレア・ブルームといずれも舞台・映画で活躍した世界的スターです。
ちなみにクレア・ブルームはチャップリンの映画「ライムライト」ではヒロインのテリーというダンサーを演じ、その可憐で美しい姿は衝撃的でした。
また、映画「怒りをもって振り返れ」では、リチャード・バートンと共演するなど、大女優として活躍しました。
シェイクスピア作品ではローレンス・オリヴィエ監督・主演の映画「リチャードIII」で、レディ・アンを演じました。
映画「英国王のスピーチ」ではメアリー王太后を演ずるなど、さまざまな作品で活躍した元女優です。
BBCの「シンベリン」の中では、主人公イノジェンの継母として義理の娘である王女を自分の娘と結婚させ、その後シンベリン王と王女とを亡き者にしようと企みます。
この王妃はグリム童話の「白雪姫(第二版以降)」の継母の王妃を連想させます。
「シンベリン」のストーリー
この作品は、ブリテン王シンベリンの王室に巻き起こるさまざまな問題をめぐる人間模様を表現した芝居です。
シンベリンには先妻との間に3人の子が居ました。
長男・次男は幼い頃にさらわれて消息不明となっており、残るのは末っ子の王女イノジェンでした。
シンベリンは後妻である王妃のたっての希望もあって、娘である王女イノジェンを後妻の連れ子クロートンと結婚させようとしますが、王女は首を縦に振りません。好きな男性が居たからです。
それはポステュマス・リオナータスという若者です。そのため、王女は極秘裏にポステュマスと結婚しますが、父王シンベリンは激怒して王女を城内に閉じ込め、また、ポステュマスを国外追放とします。
国外追放となったポステュマスはローマへ向かいます。
そこで不良貴族のイヤーキモーと賭けをします。自らの妻である王女イノジェンの貞節を信じて馬鹿な賭けをするのですが、不良貴族のイヤーキモーは、ポステュマスの紹介状を持ってイノジェンの元へ向かいます。そこで貞淑な王女イノジェンに拒絶され追い返されそうになるのですが、卑怯な方法を用いてあたかもイノジェンが自分を相手に不貞をはたらいたように見せかけて、ポステュマスとの賭けに勝ちます。
あれほど互いの誠実を誓ったポステュマスは心が荒れてしまい、召使いに港町ミルフォードで妻を殺すよう手配し、妻にはミルフォードへ来るように手紙を書きました。
また、王妃イノジェンは夫の裏切りを聞き、不安になります。
イノジェンは一人旅の危険を回避するため、男子に変装してミルフォードへ向かいますが途中で疲れて眠ってしまいます。
そこには偶然、王女の二人の兄が自らの身分を知らぬまま彼らの育ての親とともに洞窟のような環境に住んでいたのです。そこに国王シンベリンの後妻の愚かな息子クロートンがイノジェンを力でねじ伏せようと、一人で追って来ます。
イノジェンの長兄がたまたまクロートンと遭遇し、侮辱されたため対決して殺して首をはねます。
首無し遺体は何と、イノジェンの夫ポステュマスの服を着ていたのです。その遺体を見たイノジェンは絶望します。
こうした絶望が続く中、奇跡が起こります。王女イノジェンは生き抜き、不貞の汚名をすすぎます。
また、シンベリンの後妻である王妃は死に、いまわの際にクロートンとイノジェンを結婚させた後に国王と王女を毒殺して権力を得ようとしたとのことでした。
王女が死んだと思ったシンベリンは絶望し、自分の決断を悔やみます。また、自らの妻イノジェンを殺したと思い込んだポステュマスは自暴自棄になり、ローマ軍に入り、自らの国であるブリテンと対決し、自らブリテンに捕まることを選びます。
最後は死んだと思われていた、シンベリンの3人の子供たち(王女イノジェンと二人の兄)が生きていたことに深く感謝し、すべてを許し、イノジェンはポステュマスと結ばれます。
イノジェンのレジリエンス
彼女のレジリエンスは、以下のようになりました。
今回も以下の代表的なレジリエンス要素を用いて分析をします。
1.自己効力感
2.感情のコントロール
3.思い込みへの気づき
4.楽観
5.新しいことへのチャレンジ
自己効力感は非常に高かったと思われます。
王女としての立場よりも、貧乏なポステュマスとの結婚を選び、一直線に行動します。
独自の価値判断をして、この芝居の推進役としての役割を果たします。
感情のコントロールは一般的であったと思われます。
ただし、自らの夫の浮気を間接的に聞かされた時の彼女の動揺は隠しきれないものがありました。
思い込みへの気づきという面は、この芝居の性質上、夫の服を着たクロートンの首無し遺体を夫と思い込んでしまいます。従って、やや思い込みが強いと思われますが、これはこの芝居の脚本の巧妙さといえるでしょう。
楽観という視点は、ある程度自分の行動を楽観している部分と、自らに与えられた試練を悲観してしまう部分が混在しています。
しかし、どのような人物でもこれほどの試練を与えられた場合には、こうした悲観はあることでしょう。
新しいことへのチャレンジという視点は、父王に隠れて結婚する、若い男に変装して恋人を追うなどさまざまなチャレンジをします。
決断したことをすぐに行動に移します。いずれもが独創的な発想です。
次回は、シェイクスピアの喜劇であり、問題劇でもある「終わりよければすべてよし」を検討してみます。
喜劇ですから、ハッピーエンドにはなるのですが途中でいろいろと不幸なことが起こります。
レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。
また、シェイクスピアに関するビジネス活用のご参考として、拙著:「できるリーダーはなぜ「リア王」にハマるのか」(青春出版)があります。
この書籍はシェイクスピア作品を通してビジネスの現場にどう活かしていくかを検討するために書かれました。
toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
株式会社ミヤマコンサルティンググループ