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深山 敏郎

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第46回 シェイクスピアの登場人物のレジリエンス(34)

2022/05/03

前回はシェイクスピアの悲劇「タイタス・アンドロニカス」の悪の主人公エアロンのレジリエンス分析を、劇団昴公演の想い出とともに書きました。

今回はシェイクスピアロマンス劇「ペリクリーズ」の主人公ペリクリーズのレジリエンス分析をしてみようと思います。
参考にしたのは、松岡和子先生の翻訳、BBCのDVD、そしてOxford版のシェイクスピア全集です。

毎回、個人的な想い出とともにこのコラムを書いていて、懐かしさがこみあげてきます。
今回ご案内する「ペリクリーズ」はBBCのDVDを観たのが初めてで、残念ながら舞台を観たことがありません。
また、大学の後輩のW氏が学生時代に演じたと言っていましたので機会があれば、そのDVDも観たいと思います。
今回、時間の関係でBBCのDVDを観ながら(聞きながら)松岡和子先生の翻訳を読むという方法で鑑賞しました。

BBCのDVDの中では、日本でギャリー・レイモンド氏とともにお会いしたことのあるジョン・ウッドバイン氏がアンタイオカス役で出演していて、とても懐かしく思いました。
日本では1991年4月東京グローブ座3周年記念公演イングリッシュ・シェイクスピア・カンパニー「ヴェニスの商人」のシャイロック役を演じて大迫力でした。
ギャリーがアントーニオでした。ジョンは私の娘宛に色紙にメッセージを書いてくれました。
低く、響きのある声をした素晴らしい俳優です。
Old Vicでも活躍した名優で、日本公演では「ヴェニスの商人」と「ヴォルポーネ」に出演していました。
ギャリー、ジョン、妻、そして私の4人で食事をしてその後、夜桜を愛でました。

話を「ペリクリーズ」に戻します。
この芝居はシェイクスピアのロマンス劇に分類されます。ロマンス劇と言っても、恋愛物語ではなく悲劇的な展開で死んだと思った人物が奇跡的に生きていて、女神の導きで再開するといった奇跡の物語です。
この作品の他にもシェイクスピア晩年の作品と言われる「シンベリン」、「冬物語」、「テンペスト(嵐)」がロマンス劇にあたります。

「ペリクリーズ」のストーリー

この作品は、タイア(聖書ではツロ)の領主ペリクリーズの経験する数奇な運命を描いた作品です。

彼は先に触れたアンタイオケの王アンタイオカスの娘である美しい姫に求愛すべくアンタイオケに出向きます。
王の与える謎を解くことができれば姫を手に入れることが出来るのですが、失敗すると命を失うことになっています。
現に、過去に数々の命が奪われたのです。

謎を解いたペリクリーズが知ったのは、アンタイオカスと娘である姫が実は近親相姦の大罪を犯しているということでした。
その謎を解いたことをほのめかしたため、アンタイオカス王に命を狙われます。タイアに逃げ帰ったペリクリーズでしたが、自分の命のみならず、タイアの民の命も危ないことから、側近のアドバイスもあり、船で国外に逃れます。
ところが途中、嵐の中、船が難破してペリクリーズ一人だけがペンタポリスの陸に打ち上げられて助かります。
そこで偶然貴族たちによる槍の大会があることを知り、かつて父から譲られたぼろぼろの鎧に身を固めて参加して優勝します。
そこでペンタポリスの王女タイーサと恋に落ち、結ばれます。

そこに母国から手紙が届き、アンタイオカス王と娘には天罰が下り死んだため、もう安全なので母国へ帰って欲しいと促されます。
妊娠しているタイーサも同行を希望したため、妻を伴い母国へ船で向かいます。ところがそこでまた嵐に遭遇し、船は難破します。
妻は女児を産み落とすとともに他界します。

船乗りのたっての希望で、海を鎮めるために妻の亡骸を装飾品と共に棺桶に入れて海に流します。
ペリクリーズは娘をマリーナと名付け、体力的に母国まで航海したのでは生命がもたないだろうと、途中ターサスの太守クリーオン夫妻に預けます。
夫妻は大事に育てると約束するのですが、クリーオンの妻は自分の娘とマリーナ姫が比較されるたびに負い目を感じ、次第に嫉妬の炎を大きくします。

そしてついに部下にマリーナ姫を殺すよう指示します。
部下がマリーナ姫を殺すことに手間取っていると海賊に遭遇し、姫を強奪されます。
海賊は姫を売春宿に売り渡してしまいます。
マリーナ姫は男を取らせられるのですが、来る男々々に説教をして撃退します。
その一人がミティリーニの太守ライシマカスです。
彼も姫に説教されて、金だけ渡してその場を去ります。

そうした中に、旅をするペリクリーズの船がマリーナの居る地を訪れます。
ペリクリーズはターサスの太守クリーオン夫妻に、愛娘のマリーナが死んだと伝えられ、もう何日も食事らしい食事を取らず、船の中で臥せっています。
そこに気持ちを紛らわせようと、太守ライシマカスは売春宿で出会った女、つまりマリーナをペリクリーズの気を少しでもまぎらせようと、引き合わせます。
彼女は歌を聞かせたり、話をしようとしますがペリクリーズには何も変化が起こりません。
最初はまったく気づかなかったペリクリーズですが、マリーナの名前や身の上話を聞いているうちに、自分の娘であると確信します。
めでたく親子が再開するのです。
そこでペリクリーズは女神ダイアナの啓示を得ます。ターサスの太守夫妻に復讐することを止め、神殿に導かれます。

何とその神殿に、ペリクリーズの妻タイーサが巫女として生きていたのです。
実は、死んだと思われていたペリクリーズの妻タイーサは、棺桶に入ったまま陸に打ち上げられ、その土地の医師らの努力で奇跡的に息を吹き返し、巫女になっていたのです。

親子3人はそこでこの奇跡的な再会の喜びに満ちます。
また、マリーナを死に追いやろうとしたターサスの太守クリーオン夫妻は、ペリクリーズへの呪わしい裏切りの噂が広まり、市民たちが憤怒に駆られて一族もろとも宮殿ごと焼き滅ぼされたという結びです。

ペリクリーズのレジリエンス

彼のレジリエンスは、以下のようになりました。

今回も以下の代表的なレジリエンス要素を用いて分析をします。
1.自己効力感
2.感情のコントロール
3.思い込みへの気づき
4.楽観
5.新しいことへのチャレンジ

自己効力感はある程度高かったと思われます。
もともとが高貴な生まれで、自信にあふれていましたが、青年の野望から数奇な経験をすることになり、劇の中盤から段々この自己効力感もしぼんでいきます。

感情のコントロールは一般的であったと思われます。
自分の命が狙われたときにも、自らの民の命を思って国外逃亡をします。
感情のコントロールあればこその行動です。
ただし、数々の試練に出会い、絶望の淵に立ちます。

思い込みへの気づきという面は、さまざまな思い込みを持ちます。
例えば、妻が出産直後に命を失ったものと思い込みます。
それは実際、そのように感じられたのでしょう。
また、自分の娘も死んだと言われて絶望します。

楽観という視点はこの戯曲に描かれているペリクリーズからは、あまり感じられません。
それ程悲劇的な事象が次々と彼を襲うのです。

新しいことへのチャレンジという視点は、あまり発想も実行もしていないようです。

次回は、シェイクスピアのロマンス劇「シンベリン」を検討してみます。
シェイクスピアのロマンス劇というのは、ストーリー自体は悲劇性が高いものの奇跡などを経て、最後はハッピーエンドになるという作品を指します。

レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。

また、シェイクスピアに関するビジネス活用のご参考として、拙著:「できるリーダーはなぜ「リア王」にハマるのか」(青春出版)があります。
この書籍はシェイクスピア作品を通してビジネスの現場にどう活かしていくかを検討するために書かれました。

toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
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