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星 寿美

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第17回 部下に理解され、信頼される話し方

2021/08/08

部下に対して、
「こんなに何度も何度も言ってるのに、何でわからないんだ?」
「なんで、いつまでも言われた通りにできないんだ?」
などと感じたことはないでしょうか?

経営者やリーダーたちから、このような悩みを聞く度に、私は状況判断のために、その対象となる部下と個人面談をします。

そして、大抵の場合、経営者やリーダーが伝えたいことが『思っているほど、相手には伝わっていない。』という事実が判明します!

同じ日本語ですから、言葉としては伝わっていますが、真意が伝わっていない、という意味です。

「そんな難しい言葉を使っているわけじゃないし、なんで伝わらないんだー!」と反論が聞こえてきそうですが。

このことを、別の例で説明してみますね。

ある時、経営者仲間5名で集まって話していた時のこと。

一人の経営者の悩みに対してみんなで相談に乗っていました。
私は相談者からお話を伺い、いくつか質問して、さらに内容を深めた後、アドバイスをしました。

そのアドバイスに対して、相談者が「意味が分かりません。」と言いました。

なので、私は他の方に「いま、私が伝えたいことを別の角度でお話しできる方はいますか?」と聞きました。

すると「今、星さんが話したことを別の角度から説明してみましょう。」とトライしてくださった方がいました。
そのおかげで、相談者が「あぁ、なるほど。」と理解できた、という場面がありました。

この時、私の説明の意味がわからなかったのは、この相談者だけで、その場にいた他の3名には、意味が通じていただけではなく「分かりやすい!」「素晴らしい観点だ!」と感じていたと後で聞きました。

相手の理解力は関係ない!

では、相談者の理解力が低かったのでしょうか?

いえいえ、そうではありません。

理解力という意味では、大きな差はないと思います。
ただ普段使っている言葉や、環境によって、理解しやすい言葉と、しにくい言葉が人それぞれにある、ということです。

誰もが、それぞれ経験や背景による思考癖があります。
それに加えて、感情やプライドなどによって、理解することを邪魔する場合もあります。

だから、全く同じアドバイスを聞いて、ある人は「わからない。」ある人は「素晴らしい観点だ!」となるのです。

同じ経営者同士という立場であっても、このようなことは起こります。

ましてや『立場』『視点』が違う部下には、伝わらないことは思ったより多い!と肝に銘じましょう。

伝わらない言葉は、何度言っても伝わらない!

さて、部下に対して「伝わっていない」言葉を、同じように何度話しても伝わりません。回数ではないのです。

特に、情熱タイプの経営者・リーダーは要注意です。
自分の言葉を熱量込めて繰り返してしまうことが多いからです。
もちろん、そのこと自体は、とても素晴らしいことです。

そうやって多くの部下や仲間を巻き込んでムーブメントを起こしていくタイプなのですから!素晴らしい能力です。

しかし、話が伝わらない部下に対して、同じ話を情熱込めて何度しても伝わりません。

では、どうしたらいいのでしょうか?

『部下の話をしっかり聴いて、部下の視点からはどう見えているのかを把握し、部下に理解できるように伝えること。』です。

こうして言葉で説明すると『そんなことまで、やってられない。』『仕事なんだから、部下の方が努力してよ。』と感じるかもしれないのですが、実はそれほど難しいことではないですし、さまざまな効能もあります。

それほど難しくない、というのは。
相手の話を聴く習慣さえできれば、なんの苦もなく自然に会話の流れの一部として、相手の話を聴けるようになるからです。

要は『質問・発問スキル』なのですが、スキルとして習慣にする、というよりは、『相手に興味を持つ』というあり方の問題かと私は感じています。

【質問】とは、こちらが知りたいことを相手に聞く。答えは相手にあります。
【発問】とは、相手に言ってほしいことを発問を通じて言わせる質問。答えはこちらにあります。
【相手に興味を持つ】とは、こちらが思う通りに、人をコントロールしようせず、「相手はどう感じているのだろう?相手はどういう状況なのだろう?」と相手を理解しようと努める心持ちのことです。

相手に興味を持つと、自然と質問が生まれます。質問を投げると返ってきますから、対話が生まれます。その対話の中で相互理解は深まっていきます。

ここで気をつけたい事実があります。

オウム返しに注意!

「話したことは理解できましたか?理解したことを話してください。」

と話が理解できたかどうかを確認するリーダーも多いです。
確認そのものは素晴らしいのですが、注意が必要です。

この時、リーダーが話した言葉と全く同じように説明したら、もしかしたら部下はリーダーの話を理解していない可能性があります。

日本語として理解していることと、真意を理解することは全くの別物だからです。

こういう時、部下は、他の人に教えられるほど上手く説明できます。
言葉としては理解できているからです。そんな部下の『言葉』を鵜呑みにして、

「よし!わかってくれた。」「よし!伝わった!」と安心したのに、同じ過ちを繰り返されてしまうので、リーダーたちの心労たるや・・・
という状況が多発しています。

では、どうしたらいいのでしょう?

理解され、信頼される話し方とは?

どうしたらいいのか?それはやはり、

『部下の話をしっかり聴いて、部下の視点からはどう見えているのかを把握し、部下に理解できるように伝えること。』です。

伝えるためにできることがあります。
それが『理解され信頼される話し方5ステップ』です。

①伝えたいことを整理する。
②相手の頭にまず先に箱を作る。
③理解しやすい順番で説明する。
④相手に興味を持ち、質問、発問を通じて相手を理解する。
⑤お互いにすり合わせる。

順番に説明します。

①伝えたいことを整理する。
相手に伝えたいことを、相手に伝える前に自分の中で整理しましょう。
整理する内容は「何を伝えたいのか?何のために伝えたいのか?なぜ今なのか?」などです。整理していると、こんな質問が飛んできそうだな?ということにも気づきますので、それに対する答えも用意します。

このように、自分の中で整理するだけでも、結果は大きく違います。

②相手の頭にまず先に箱を作る。
そして、次は伝え方。相手の頭の中にまず箱を作る!と私は表現しています。それは、これから「この話」をしますよ!という「この話」という箱を頭に作ってもらうということです。

なんの話をしているのか、最後まで聞かないとわからない話は、脳にとってストレスです。

実際、部下に対して「結論から話せ!」「結局何が言いたいんだ?」と言いたくなる時、多いですよね?

ですから、
特にリーダーは「今からこの話をするよ。」という結論を先に話して『聴く準備』を整えてあげることが大事です。これをしていなければ、部下に「結論から話せ!」って言えないですからね。

③理解しやすい順番で説明する。
相手の頭に箱を作って『理解を補填する素材』を投げ入れていきます。

例えば、
「朝のルーティンについて、必ず守ってもらいたいことをお伝えします。朝、必ずAの確認を最初に行ってください!なぜなら、最初にAの確認をしないと、発注数に間違えが生じるからです。だから、必ず最初にAの確認をしてくださいね。これを忘れないようにするためには、どんな工夫がありますか?」

などと伝えると分かりやすく、さらに、実行するためにどうしたらいいかを部下に考えてもらうと、より実行しやすくなります。

しかし現場では、
「○○さん!どうしてAの確認してないの?朝必ずしてって言ったよね?仕事なんだからちゃんとしてください。」などというような伝え方になっていることが多いようです。

④相手に興味を持ち、質問、発問を通じて相手を理解する。
『相手に興味を持つ。』これこそが信頼の大きな一歩目です。人は人として尊重
してくれる人を信頼します。
他に代わりがきくような扱いをする人を信頼できません。だから指示命令して
人を動かそうとする人のことは信頼できないのです。

もちろん仕事ですから、指示命令は必須です。その通り動くことも必須です。
しかし、人はロボットではありません。誰もが一人の人として扱われたいのす。

相手に興味を持つということは、その人を一人の人として尊重するということ
です。

それは『自分の物差しで人をジャッジすることなく、ありのままのその人を理解しようとする心持ちである。』ということです。

それが、相手に伝わります。

人は、誰もが超能力者だと私は常々感じています。どんなに顔で笑っていても「この人、怒ってる。」とバレていますよね?

例えば、リーダーが腹の底で「何度言っても理解しない、ダメな部下だ!」と思っていたら、表面上、丁寧に仕事を教えていたとしても、ちゃんとその心持ちは伝わっています。

自分をダメだと決めてかかっている人を信頼することは難しいですね?

だから、まずこちらから相手に興味を持ち、人として尊重する。それが、基本中の基本です。

もちろん、人間ですから相性もあるでしょうし、その時々の感情もあります。いつでも相手を理解しようとするのは難しいかもしれません。

だから、たった一つでいいです!
『自分の物差しでジャッジすることをやめる。』それだけで効果テキメン!です。

どんなに自分から見て、例えば「甘い!」「ダメなやつ!」「やる気なし!」と見えていたとしても、真実は違うことが多いものです。

一度このような物差しでジャッジすると『それが真実である証拠』を見つけて、リーダーの中では真実になっていく。それで部下との関係が悪循環に陥っていきます。そんなことを何度も目にしてきました。

その『悪循環』は、ありのままを受容し合う関係性を築くことで『好循環』に変換できます。

だから、自分からはそうにしか見えないけれど、本当はどうだろう?と相手に興味を持ってみるところから始めましょう。

⑤お互いにすり合わせる。
相手に興味を持つと、自然と知りたい!と思って質問が生まれます。質問すれば答えが返ってきます。そうして対話が生まれます。

例えば、

「私は、こう考えるのだけれど、あなたはどう思う?」
「私からは、こう見えるけれど、本当のところはどうだろう?」
「これについて、どんなアイデアを持っていますか?」
「よりよくするために、他に何ができると思いますか?」

このような質問を投げることで気持ちの良い、深い対話ができたら、もうその関係こそが信頼関係です。

同じ質問でも

「なんでこんなことしたの?」
「どうしたら、こんな酷いことになるの?」

などは全く逆効果。これらは質問ではなく「責めている言葉」です。

また「今、話したこと、説明してみて!」だと、ただ言葉を繰り返してしまうだけ、ということが起こります。その人がどう感じたのか?どう考えているのか?知りたいですよね?

「私は、こう考えるのだけれど、あなたはどう思う?」
「私からは、こう見えるけれど、本当のところはどうだろう?」
「これについて、どんなアイデアを持っていますか?」
「よりよくするために、他に何ができると思いますか?」

例えば、このような質問は、相手に興味を持つことで『自然に』生まれます。

「あなたが、何を感じて、何を考えているのか、ちゃんと理解したい!」この気持ちが相手に届きます。

だから「質問で引き出す。」のようなスキルで何とかしようとしないことです。

相手をありのまま理解しようとする心持ちが、相手に伝わり信頼関係の礎となります。

いかがでしょうか?

理解され信頼される話し方、少しでも参考になれば嬉しいです!