第15回 部下に対し『甘い!』とストレスを感じる時
2021/07/25
ある経営者の方から「若い(入社1年未満の)新人が潰れそうです。どうしたらいいでしょうか?」と相談が来ました。
その新人を教育している上司が、新人に対して『甘い!』とストレスを感じていると言います。
そして新人に厳しく注意をして、新人が辞めそうになっているとのことでした。
経営者は、その上司の気持ちも、そして新人の気持ちもわかるし、どちらも大切なので、どう対応していいのか困っているようでした。
この会社に限らず、上司が部下に対して『甘い!』とストレスを感じている例は多いです。
さて、本当に部下は『甘い!』のでしょうか?また、甘いと捉えることで建設的な何かにつながるのでしょうか?
このような場合、どうしたらいいのでしょうか?そのあたりのことを書きたいと思います。
部下に対し『甘い!』とストレスを感じる時の要因
部下に対して『甘い!』と感じる要因がいくつかあります。
・自分が、同じ年代や新人の頃にやっていたことと、同じことができない部下に対して甘い!と感じる。
・他のできる部下と比較して、できない部下に対して甘い!と感じる。
・新人たるもの、こうあるべきという想いを持っていて、その想いに合わない部下を甘い!と感じる。
他にもありそうですが、主にこのような要因が考えられます。これらは、全て『自分視点』から見える範囲で判断していることがわかりますね。
『甘いっ!』とストレスを抱えている上司のほとんどが、自分視点のみで判断しストレスを抱えています。
いわば自作自演状態なのです。
そもそも『甘いっ!』という状態を定量化することは難しいですよね?
例えば、ある新人の同じ行動を見て「そのくらいおおらかでいいんじゃないか?」と感じる人がいたり「もっと、きちっとやるべきだ!」と感じる人がいます。
同じように『甘い』という言葉には基準が存在しません。
あるのは、そう感じている本人の主観のみです。
なので、部下に対して『甘いっ!』と感じたら、上司自身が「あ、かなり主観で判断してしまっているな。」と気づく機会にしていただければいいと思います。
そして本当に、誰がどう見ても甘い場合もありますが、それでも『甘いっ!』と捉えて状況が改善することはありません。
だから『甘いっ!』と感じた時こそ、お互いに成長する機会と捉えると、改善が早いのです。
実際の部下の状態は?
さて、甘い!と主観で決めつけられた部下を面談してみると、大抵は『甘くない!』ということがわかります。
上司からしたら驚愕の事実!かもしれませんね。
まず、その人なりに一生懸命に考えていることが多いのです。
それが現場では通用しなかったり、場に合わない行動だったりしても『甘さゆえ』に、その行動をとっているわけではなく、その人なりに考えた末の行動ということが非常に!本当に!多いのです。
話を聞いてみると、やる気もあり、学ぶ姿勢もあり、成長のポテンシャルも高い人材がほとんどです。
じゃぁ、どうしてそんな人材が上司から見て『甘い!』と判断されてしまうのかというと・・・。
わかりやすいように子どもの例で説明します。
例えば、小さな兄弟がいたとします。
そしてお兄ちゃんが、ある友達を『理由も言わずに、急に殴ってしまった!』という場面があったとします。
その場面に対して、親は
「理由も言わずに急に友達を殴ることはいけないことだ!どんな理由があっても暴力はいけないことだ!謝りなさいっ!」
と叱りつけるかもしれません。
けれど、このお兄ちゃんには『弟がその友達に、おもちゃを取られたり、ばかにされたりしたから。』という理由がありました。
もし、ちゃんとその理由を聞いたとしたら?
きっと親は、
「弟のために殴ったんだね。理由はわかったよ。だけど、方法がよくない。気持ちは理解できるし、弟のために行動して本当に偉かったね。でも理由も言わず殴っちゃったら、その子と同じじゃないかな?どうしたら良かったかな?」
などと一緒に考える機会にできるし、優しい気持ちを理解することもできますよね?
お兄ちゃんのことを理解する機会、お兄ちゃんが成長する機会にできます。
子どもの例だと、少しわかる気がしませんか?どうでしょうか。
ここで言いたいのは『見える範囲で判断したら間違える。』ということです。
例え『どんなにそう見えていても!』です。
新人は新人なりに、一生懸命に考えて頑張っています。
そして、能力や考え方は千差万別。人それぞれ違います。
だから、まずは話を聞いてみないと分からないことが、ほとんどです。
人は、つい自分の体験してきた範囲で物事を判断してしまうことが多いので、意識する必要があります。特に人を教育する立場の人ほど。
『甘い!』と捉えることで成長の機会を奪っている
実は『甘い!』という言葉は非常に便利です。
そう決めつけることで、思考停止していられるからです。
さらに、もしかしたら無意識で、できる自分ができない部下を指導しているという、一種の優越感も感じているかもしれません。
また、ストレスを抱えている一方で、もしかしたら、できない部下に対して苦労している、頑張っている自分という自尊心も満たされているかもしれません。
なので『甘い!』という言葉は非常に便利なのです。
その言葉で、一緒くたに片付けられるからです。
しかし、その『つけ』は大きい。
なんといっても相手の成長の機会を奪ってしまう可能性があるからです。
では、どうしたらいいのでしょうか?
『まずは、相手の話を聴く!』
以上です。
聴いてみないとわかりませんから。
「こういう行動をとっていたけれど、どうしてその行動をとったの?」
「こんな時、どうしたら相手が嬉しいと感じると思う?今の行動は相手がどう思うかな?」
「自分だったら、こうするよ。なぜなら、こうだから。それを聞いてどう思う?」
このように、相手の『理由・考え・気づき・感情』などを丁寧に聴くことです。
聴けば、何かしら答えが返ってきます。
より相手を理解しようと思えば、そこから対話はどんどん深まります。
対話が深まれば、相互理解も深まり、信頼関係も育ち、成長に繋がります。
部下を『甘い!』と感じる時こそ、お互いに成長できるチャンス!
上司も育ち、部下も育つ機会になります。
そんな機会にするために「まずは話を聴く!」という習慣や風土を育てることが大事です。
ところで、最初の書いた「若い新人が潰れそうです。どうしたらいいでしょうか?」と相談してくれた会社。
上司と部下、それぞれに個人面談を行い、コミュニケーションの学びや意識をチューニングしました。
その上で、感じることを出しあえる全体会議を毎月行い、お互いに気づきを共有することで現場改善し、新人もリーダーも大きく成長することができました。