毎回老子の言葉をひとつずつご紹介しています。
コラムの173回目では、「抑圧なき政治」を検討してきました。 老子は言います。
「無為の政治を行なうならば、民衆は自然に治まり、為政者が存在することを忘れます。これこそ為政者の行うべき最高の形である」と。
今回は「天網恢恢、疏にして失わず(てんもうかいかい、そにしてうしなわず)」です。
老子は言います。
「天道は、自分を主張せずすべてのものを統括し、命令せずにすべてのものを適応させて、招かずにすべてを帰着させる。作為ではなく秩序を形成するのだ。天の網は粗いが、取り落とすことはない」と。
宇宙の本質は絶えざる変化であり、聖人といえどもその真意を「こうだ」と断言することはできません。
「天網恢恢、疏にして失わず」とは何か
今回は老子の言葉「天網恢恢、疏にして失わず(てんもうかいかい、そにしてうしなわず)」の意味をご一緒に考えましょう。
この言葉の意味は、「自然の法則は万物に貫徹している」ということです。
この言葉は一般に、「悪いことをしたら、いずれそれが露呈してしかるべき罰を受ける」という意味で使われています。
しかし老子は本来、このような意味では使っていないのです。
本来の意味は、「一つの立場に固執する限り、正しいとはいえない」ということです。
なぜならば、世の中は常に変化を続けているからです。
「天網恢恢、疏にして失わず」を周囲の事象にあてはめてみる
この言葉を私たちの周囲で現在起こっていることにあてはめた場合には、次のようになることでしょう。
多様性を認めず、自らの立場に固執した場合にはそれが常に正しいとはいえないということです。
例えば国際紛争を例に挙げるならば、Aという国の主張とBという国の主張が真っ向から対立しているとします。
「相手が悪い。自分たちは正しい」ということを主張することがありますが、それはある一定の条件が整った場合に限ります。
しかし現実には条件は絶えず変化し、それぞれの視点が正しくもあり、間違ってもいるというのがこの老子の言葉の真意です。
別の例では、企業活動、具体的にはマーケティングなどに応用した場合、「消費者ニーズはこうである」、という仮説はすぐに崩壊します。
時代とともに変化し続けています。
従って、動態的に消費者ニーズを把握することを心がけるしかないのです。
こうした考え方を忘れないようにしたいものです。
本コラムが私たちの日々の悩みを和らげ、深く自省するきっかけになれば幸いです。
「老子」に関しては、徳間書店「中国の思想」第6巻 「老子・列子」を参考にさせていただきました。
レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。
(筆者:深山 敏郎)
株式会社ミヤマコンサルティンググループ
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