HACHIDORI NO HANE(ハチドリのはね)HPトップ

星 寿美

ホーム > 星 寿美 > 記事一覧 > 第20回 叱るとすぐ泣く新人社員の育成例

第20回 叱るとすぐ泣く新人社員の育成例

2021/08/29

飲食サービス系企業、女性の新卒採用例です。
中島彩香さん(仮名)は、筆記試験も面接も、とても評価が良かったのです。
面接を担当した人たちは『明るくて、やる気もあるいい人材だ!』と喜びました。

しかし入社後、問題が起きました。
雑談をしている時は、よく笑い明るい性格の中島さんですが、先輩が何度仕事を教えても同じミスを繰り返します。そして、ミスを注意すると、すぐに泣いてしまうのだそうです。

仕事では、ちょっとした注意でもすぐに泣くのに、休憩中はケロッとして楽しそうに雑談をする。
彼氏の話などプライベートな話も屈託なくするのだそうです。

先輩方の話をよく伺うと、メモして数回行えば、すぐに覚えるような単純なことも、なかなか覚えない。
そして、普通に社会生活をしていれば、わかるであろうことなどが、細かく指導しないと理解しないし、理解できても忘れて、何度も同じミスをしてしまう、とのことでした。

注意すると泣いてしまうので、傷ついたのかと心配していると、雑談には明るく応じる。
泣く割には、気にしている様子も、反省している気配もない・・・

先輩方の方が、どう教育をしていいのか悩み、ノイローゼになりそうでした。

もし、あなたの組織でこのようなことが起こったら、どうしますか?

背景を理解する

私はどんな時も、双方から話をじっくりとお聴きします。
その時、最初に聴いた話は棚にしまって、まっさらな気持ちで聴きます。
そうでないと主観が邪魔をして、真っ直ぐに聴けなくなるからです。

この時も、中島さんの話をとことんお聴きしました。

すると「仕事を一生懸命にやっている。」という意識しかなく、覚えが悪い・迷惑をかけているということには無頓着でした。
「先輩たちは優しく好き!この仕事も好き!頑張ります!」と。

それに明るく愛嬌があり、屈託ない笑顔。
現場を見ていない上層部からのウケは相当いいだろうと想像できました。

さて、注意されて泣くのはどうしてなのかを聞いてみると「今まで注意されたり否定されたりしたことがないから、どうしていいかわからない。」ということでした。
ご両親から、大切に褒められて、認められて、育ってきたようです。

逆に、両親から否定され続け、自信が持てない大人もいる一方で、認められすぎて社会性が育っていない人もいるのだと感じました。

もちろん、全く同じように育てられても、それぞれの持って生まれた性格や環境・時代などで、結果は変わります。子育てに正解はありません。

だから、このような場合、親の育て方が悪かったと片付けてはいけない問題だと私は考えます。
両親の影響は誰もが受けますが、それをどう捉え自分の糧とするかは本人次第だからです。

社会人になったら、例えどのように育てられようと、自分の選択、自分の責任だと私は思います。
気づいていないことがあれば、大人同士、お互いに刺激しあい成長していけばいいのだと思います。

ただ具体的に解決するために、背景として理解しておきたいので、幼少期のこと、親との関係などプライベートまで踏み込むことはあります。

中島さんの背景を理解し、本人にも断った上で、先輩がたに情報共有しました。
そして「このくらいは、わかるよね?」という『期待』をするのをやめる提案をしました。

そして私から中島さんに個人面談を通じて「なぜ先輩が注意したのか?」「なぜ注意されるのか?」「仕事とは何か?」「責任とは何か?」という社会人としての『大前提』を対話で深めていくので、少し様子を見てほしいと先輩方にお願いをしました。

本人ではなく周りの対応を変える

まず、毎週1時間の対話で、自ら「仕事とは何か」「責任とは何か?」などに気付く時間を作りました。
教えるのではなく、中島さん自らの言葉で気づきを促す対話を繰り返します。
そして、その日の対話に基づいた1週間に1つの課題を出しました。

その一方で、先輩方が中島さんを教育することを一時中断していただきました。
先輩たちが今までと同じように、楽しく働ける雰囲気を取り戻すことを優先したのです。

そのヒントは、私の子ども時代にあります。
昭和40年代頃の時代は、大きな子どもたちが缶蹴りや、鬼ごっこなどしていると、まだ小さい子たちも混じって遊びます。
多年齢で同じ遊びをするときに、大きな子たちは小さな子たちを『おミソ扱い』します。

まだルールが理解できない子はタッチされても鬼にならないのが『おミソ』です。
そうすると大きい子たちも楽しく遊べますし、小さい子は一緒に走り回っているだけで楽しい。
どっちも楽しめます。
小さい子たちは、その中でルールを覚えて次第に遊びに加わるようになり、そしてまた小さい子たちがおミソとして加わっていく・・・。

あの頃は、空き地で多年齢の子どもたち、みんなで遊べていた時代でした。

それを応用して、中島さんは仲間として気持ちよく加わっているのですが「おミソ扱い」です。
そこを今回は先輩方によくご理解いただけたので、成功しました。

もし、先輩方の意識がもう少し幼稚で「なんでお給料をもらっているのに!」のような、よくある不満が出たら成り立たなかったでしょう。
この時は、仕事意識の高い先輩方に大いに助けられました。
自分たちの職場をよりよくしたい!というその目的が一致していたからこそ、でした。

中島さんにとっては、おミソ扱いで何度も丁寧に仕事を教わることができる環境。
先輩方にとっては、ストレスなく仕事を楽しめる環境を作りました。 

その一方で、毎週1時間、中島さんと「対話」を重ねました。
その連携の同時進行により、 中島さんは少しずつ理解を深めていきました。
仕事とは何か、責任とは何か、なぜ注意や指摘は必要なのか、大人とは何なのか、社会はどう成り立っているのか。

もしかしたら、小学生の道徳レベルかもしれません。
それでも、そういう社会性を学べずに社会に出た中島さんには必要なことでした。
3ヶ月後、新卒の新入社員としてスタート地点に立てた中島さん。
きっと10年後、20年後に、このときに関わってくれた先輩方のありがたさを知るでしょう。

状況を見極め対応策を考えること

さて現代は、中島さんのようなタイプをすぐ『発達障がい』というカテゴリーに分類する風潮を感じます。
もちろん、そういうケースが多いのも事実ですが、今回のようにただ社会性が学べていないだけ、という場合もあります。

いづれにせよ、例えば「愛嬌があり明るい」などの良い部分を活かし、苦手なことをフォローし合う体制づくりもできます。

ですから「できないレッテル」を貼って、お互いにストレスをためるのではなく、対話を重ねて状況を見極め、本人も周りも幸せに仕事ができるようになる!それが大切だと再認識したケースでした。