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深山 敏郎

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第173回 困ったときの老荘だのみ エピソード73

2024/10/08

毎回老子の言葉をひとつずつご紹介しています。
コラムの172回目では、「迷妄」を検討してきました。
老子は言います。
「知の限界を深く自覚することが、真の知である」と。

今回は「抑圧なき政治」です。
老子は言います。
「為政者の最高の存在形態は、無為の政治であり民衆は自然に治まり、為政者の存在すら忘れる」と。

「抑圧なき政治」とは何か

今回は老子の言葉「抑圧なき政治」の意味をご一緒に考えましょう。
老子は言います。
「無為の政治を行なうならば、民衆は自然に治まり、為政者が存在することを忘れます。これこそ為政者の行うべき最高の形である」と。また老子はこうも言います。
「民衆の本性を軽視してはいけない。民衆の自然なありさまを抑圧してはならない。抑圧しなければ政治は良い姿になる」と。

これは一国の政治にとどまらず、あらゆる組織運営のコツを言っているのではないでしょうか。
例えば会社のトップは部下が今後どうしたいのかをきちんと聴き、仕事を通じてそれを実現する手伝いをすることが望まれます。

また、チームリーダーなども自分の頭の中にあるものを実施するだけではなく、そのチームが何を望んでいるのかを考えて行動することが重要ではないでしょうか。

演劇にも活かされた考え方

世界的に有名な演出家ピーター・ブルック氏は「何もない空間」という書籍の中で、彼が英国ロイヤルシェイクスピアカンパニー(RSC:Royal Shakespeare Company)で最初に演出をした時のことを振返っています。
彼は緻密な演出設計をして初稽古に臨んだそうです。
自分の思う通りに役者を動かそうとした。

ところが役者は彼の思い通りには動かなかった。
内心さぞ慌てたことでしょう。
また、最初は自分の指示通りに動かない役者たちに憤慨したことでしょう。
しかし彼はその稽古で大きな発見をしたのです。
自分が詳細に設計してきた設計図通りの動きよりも、役者が自然に動いて劇を創る方が数段面白かった、説得力があったということです。
それで、詳細に書き込んだノートを捨て去って、役者とともに舞台を作り始めたのだそうです。
これが世界屈指の演出家誕生の瞬間でした。

役者を目指していた頃の私は彼のこうした態度に感動したものでした。

本コラムが私たちの日々の悩みを和らげ、深く自省するきっかけになれば幸いです。

「老子」に関しては、徳間書店「中国の思想」第6巻 「老子・列子」を参考にさせていただきました。

レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。

(筆者:深山 敏郎)
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