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深山 敏郎

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第65回 経営者のレジリエンス(15)経営者のストレス・マネジメント I

2022/09/13

前回は、経営者のレジリエンス(14)「経営者が新入社員の入社前にするべきこと」でした。
事例として、今は成功している企業の社長が失敗から学び、その後の立ち直り、その社長が実際に新入社員(より正確には内定者)とそのご家族にしていることを書きました。

今回と次回は、経営者のストレス・マネジメントというテーマです。
筆者が小規模企業の経営者として実際に体験してきたこと、そしてコンサルティングなどで関わってきた経営者の皆様から教えてもらったことを書きたいと思います。

経営者とは通例、起業家、事業承継者、雇われて経営を任されている人のすべてを含みます。

改めて、「ストレス」とは何か

ストレスという言葉はよく聞く言葉です。
ただし、その内容について実は正確に理解されることが少ない言葉でもあります。
このコラムシリーズでは以前にもお伝えしたことをなぞるようで恐縮ですが、コラムがどこにあるのかを探すのはご面倒でしょうから改めて書いてみます。

ストレスという言葉はもともと物理学用語で、外部から与えられた圧力という意味です。
この圧力を与えるものはストレッサーと呼ばれますが、ここでは詳しいご説明を省略します。

例えば風船を両手で挟んで押すとゆがみますね。
この場合、圧力を与えている両手はストレッサーです。
ゆがんだ状態の風船は、ストレス状態と呼ばれます。
因みに、このコラムシリーズのメインテーマであるレジリエンスとは、風船が元の状態に戻ろうとする力を指します。

これらが転じて心理学用語として、使われるようになりました。
例えば経営者にとっては資金繰りに悩んでいる状態、あるいは従業員が自分の思うように働いてくれない、などはストレス状態といえるでしょう。
この場合、ストレッサーとは資金繰りの厳しさ、従業員の働きぶりなどを指します。
従業員からみたら、社長の方針、上司の叱責、あるいは達成が困難なノルマや周囲からの高すぎる期待などがストレッサーになり得ます。
そうすると従業員は悩んでしまい、時にはメンタル不調に陥ることもあるでしょう。
こうした状態がストレス状態です。

一般用語でいうストレスとは、上記ストレッサーを表すこともあれば、ストレス状態を表すこともありますね。

一方で人間はストレスがまったくないという状態は、死んでいる状態だと言われています。
仕事に集中するには適度なストレスが必要です。
しかし、そのストレスが過剰になった場合には、それを軽減することが必要になります。
それがストレス・マネジメントです。

社長にとってのストレスの特徴

社長のストレスは、従業員と比べると少なくとも以下の3つの特徴があります。

・ストレッサーの種類がより多岐にわたる
・少しの失敗が会社のかじ取りに大きな影響を与えうる(権限が与えられていると同時に責任も重い)
・経営者の言動が多くの利害関係者に影響を与える

上記はほんの数例ですが、それ以外にも違いはいろいろあるでしょう。

こうしたことを経営者はよく理解しています。
どのような意思決定も他人の責任にできませんから、責任はすべて自分で負うわけです。
これは企業の規模に関わりません。

社長にとってのストレス・マネジメントとは俯瞰すること

それではどうすれば良いかというのが本稿の目的です。
ストレス・マネジメントのスキルを身に付けましょうということです。
ストレス・マネジメントとは、外部から与えられるストレッサーにどう対処するか、ということです。

私のお勧めの一つは、状況を俯瞰する習慣を身に付けることです。
私も小さな事業体(最初は屋号)を立ち上げてから30年以上が経過しました。
その間、倒産の危機も一度や二度ではなく、自然災害や経済の大不況が起こるたびに直面して来ました。
正直なところいつも首の皮一枚で何とか生き残っているという状態です。

しかし、企業の平均寿命が7年とも5年ともいわれる中で、何とかこの間、やってこれたのは、小さな企業の経営者なりのストレス・マネジメントのスキルを磨いてきたからだと思います。
その代表的なスキルが状況を俯瞰するスキルです。

サッカー選手の俯瞰力

いきなりスポーツの話になって恐縮ですが、サッカーの話です。
私はたまたまご縁があって大学時代に仲間とともにサッカー同好会を立ち上げて1年で運動部に昇格させたときのキャプテンでした。
私が心から尊敬する元サッカー選手が二人います。
一人はブラジルのペレです。
もう一人はドイツのベッケンバウアーです。
ペレの引退試合に二人ともニューヨーク・コスモスの選手として日本に来ていたと記憶しています。
私の観た試合ではベッケンバウアーは故障で出場できませんでした。

今回はこのベッケンバウアーのことを例としてお示ししたいと思います。
彼はドイツのバイエルン・ミュンヘンやドイツ代表などのチームでリベロというポジションでプレーしていた選手でした。
リベロというのはもともとイタリア語の自由を意味するポジションで、通例はゴールキーパーンのすぐ前でゴールを守るとともに、攻撃にも自由に参加するプレーヤーを指します。
近年、このシステムはW杯などではあまり採用されていないようです。
それだけ負荷がかかるポジションで、特定のプレーヤーにしかできないポジションなのでしょう。
ベッケンバウアーはこのリベロのポジションでW杯などでも活躍しました。
彼は最後尾からピッチ(サッカーのグラウンドのこと)全体を俯瞰し、メンバーに指示を与えてもいました。

ベッケンバウアーはこのポジションで数多くプレーすることによって、ピッチ全体を俯瞰することが出来たのです。
そのため、西ドイツ(当時)監督の時にW杯で優勝できたのです。
つまり全体を俯瞰する習慣が身に着いたことが監督としてもプラスになったのです。

経営者の場合はどうでしょうか。
ベッケンバウアーと同じような役割を果たしているのではないでしょうか。
会社全体のみならず、会社の置かれた環境を俯瞰して危機を乗り切っているのではないでしょうか。

実はこのように、ストレス・マネジメントの中核的なスキルである俯瞰は、経営者であればどなたでも持っているのです。

厳しい時であればあるほど、この俯瞰力を発揮しようではありませんか。
西洋のことわざに、このようなものがあります。

どの雲にも銀色の裏地がついている

「どの雲にも、銀色の裏地がついている」の意味は、空の雲の太陽側には太陽の反射光が輝いているという意味で、逆境も見方によってはチャンスになるということです。

次回は「経営者のセルフ・マネジメント II」というテーマを考えてみます。
経営者がどのような方法で自分のストレスをマネジメントしているかをご紹介します。
レジリエンスの高い経営者とそうでない経営者の差は、こうした人間の基本的なことをどれだけ深く理解しているかどうかということにも関連します。

レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。(筆者:深山 敏郎)

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