先日、日本経済新聞に掲載された楽天市場の「AIコンシェルジュ」に関する記事が大変興味深い内容でした。
記事によると、生成AIの普及によって検索そのものの意味が大きく変わり始めており、ユーザーが大量の商品や情報から自力で選ぶ時代から、AIに要約・推薦された候補を検討する時代へと移行しつつあるといいます。
例えば、「予算5000円で、部署異動をする40代男性向けの送別の品を探したい」と相談したとします。
従来のキーワード検索では「名入れTシャツ」などが大量にお薦めとして並ぶのに対し、AIコンシェルジュは「名入れボールペン」「高級ハンドタオル」「コーヒーギフトセット」という実用的な3点に絞って提案してくれます。
これにより、ユーザーの比較検討の負担が軽減され、購入決定までの時間が約43%短縮、さらに平均注文額は約41%も増加したそうです。
これはまさに、実店舗において一人ひとりの要望を理解し、最適な提案を行う「スーパー店長」の接客をデジタル上で再現する試みと言えるでしょう。
このニュースを見て、時代は自ら検索して探す「ググる」から、AIに対話で相談する「ジェミる(Geminiを使う)」あるいは「チャッピする(ChatGPTを使う)」へと本格的に変わってきていることを実感します。
最近のテレビCMでも、大雑把で曖昧な要望に対してAIが複数の的確な提案を返す様子が描かれていますが、この流れは今後さらに加速していくでしょう。
細かな仕組みは分かりませんが、企業側も単にキーワードを大量に用意するだけでは選ばれない時代になりつつあるのかもしれません。
現代は圧倒的な情報過多の時代です。
検索窓にキーワードを打ち込んで無数の結果が表示されても、かえってその情報量の多さに疲弊してしまうことが少なくありません。
だからこそ、こちらの意図や文脈を読み取って、2〜3個の最適な選択肢に絞り込んでくれるAIの存在は非常にありがたいものです。
かつてインターネットが出現し、Amazonや楽天などのEコマースが台頭してから、百貨店の「外商」の仕事が減ったという話をよく耳にしました。
Amazonなどのレコメンド機能は、顧客の購買傾向を把握しておすすめを提案するという、ある意味で外商が担っていた役割をデジタルで代替するものです。
しかし、従来の外商は一部の限られた人だけが享受できるサービスであり、どちらかと言えば需要喚起的なセールスの側面が強いものでした。
それに対して今回のAIコンシェルジュは、消費者の頭の中にある「ぼんやりとした曖昧なニーズ」をいかに掴むかという点に本質があります。
誰もが専属の有能な御用聞きを持てる「一億総外商時代」の幕開けとも言えるのではないでしょうか。
そして、この記事は単なるEコマース業界の出来事にとどまらず、私たち人事教育コンサルタントをはじめ、BtoBビジネスを展開するあらゆる業界にとっても極めて重要なヒントを含んでいると感じます。
お客様は必ずしも「〇〇という研修をしてほしい」「こういうシステムを入れたい」と明確な答えを持っているわけではありません。「組織を良くしたいが、何から手をつければいいか分からない」「社員のモチベーションを上げたいが具体的な施策が浮かばない」といった、曖昧な悩みを抱えていることがほとんどです。
これからの時代、私たちプロフェッショナルに求められるのは、そうしたお客様の曖昧なニーズについて、対話を通じて引き出し、「可視化」し「言語化」してあげる力です。
AIが優秀な御用聞きやスーパー店長になれる時代に、人間がただ言われたものを手配するだけでは存在価値がありません。
曖昧な相談を整理して、お客様自身も気づいていない本質的な課題を明確な言葉に落とし込むこと。
これこそが、AI時代における人間のプロフェッショナルの価値だと言えます。
そして何より、お客様の潜在的なニーズを言語化するためには、大前提として「自分たちの仕事の中身や提供できる価値」を、相手に伝わりやすく可視化・言語化できていることが不可欠です。
便利なAIが選択肢を絞り込んでくれる時代だからこそ、最後に選ばれるための自社の強みや専門性を明確に定義し、自らの言葉で発信していくことの大切さを、改めて問われている。そのように強く感じる今日この頃です。