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深山 敏郎

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第66回 経営者のレジリエンス(16)経営者のストレス・マネジメント II

2022/09/20

前回は、経営者のレジリエンス(15)「経営者のストレス・マネジメント I」というテーマでした。
主に社内外を俯瞰することの重要性をお伝えしました。

今回は「経営者のストレス・マネジメント II」として、経営者の皆様から私が学んだストレス・マネジメント術、つまり具体的な方法を中心にご紹介します。
一般的な、呼吸を整える、ぬるいお風呂に入る、適度な運動をする、好きな音楽を聴くといったことにプラスして、以下もご参考になれば幸いです。

経営者とは通例、起業家、事業承継者、雇われて経営を任されている人のすべてを含みます。

有名社長のストレス・マネジメント術

有名な松下幸之助氏は、ご自分が怒りっぽいことを自覚していて、手首に輪ゴムをはめていたという話はご存知でしょうか。
部下を怒鳴りたくなった時に、輪ゴムを手首でパッチンとするそうです。
そうすると、アドレナリンなどの闘争本能に結びつく分泌物を下げる効果があるということです。
これは松下氏がご自分の失敗から学んで独自に創出した方法と考えて良さそうですね。

Aさんという私が良く知る経営者の方は、自分が長時間仕事をしている姿を部下が観て、ストレスを感ずるだろうということで、会社の近くにマンションを購入してその一室で仕事をしていました。
仕事の鬼といった印象の社長ではあったのですが、部下が定時になっても誰も退社しないことの原因が自分の残業にあるという判断をして、定時になると「じゃ、お先に」と言って職場を離れて、社員が知らないそのマンションに向かいます。
そこで納得がいくまで仕事を続けるのです。

自分が部下のストレスの原因であることを自覚しているので、そうしたことが部下を苦しめていることに耐えかねた結果だったようです。
私はたまたまそのマンションに招待されて、彼が仕事をしながらいろいろな話をお聴きしたことがあります。
結果として、彼はある外国語教育出版社を超一流にしました。
会社を外資系企業に売却して、引退後は悠々自適に絵を描いていらっしゃいました。
仕事も超がつくほど一流でしたが、絵画のスキルも見事でした。

次にAMさんという方の話です。
ある外資系の大企業トップを何社も務めた経営者は、ある海外企業(当時の売上規模3兆円)の日本子会社の社長時代、社長室で親会社の役員と電話で丁々発止のやり取りをして、高ストレス状態になることが多かったそうです。
そうした時に、部下が社長室の扉を叩きます。
そうした時に、「ちょっと待って」と言ってカバンの中から手鏡を取り出して、スマイルをしたそうです。
心の中は先ほどまで煮えたぎって、「何て馬鹿な(米国親会社)役員なんだ!」と思っていても、手鏡に映った顔を点検し、修正する。それだけで気分転換が出来たそうです。
部下に不機嫌な顔は見せられないという一貫した態度を貫いたのです。

私も若いころいろいろと教えていただいた有名な社長で、現在でも外資系企業の経営陣のお一人として大変活躍していらっしゃいます。
ご自宅の玄関には、200号くらいあったでしょうか、とても素敵な絵画が飾られていました。
確か花の絵だったと記憶しています。
上記出版社の元社長といい、この社長といい一流の経営者は芸術を愛することも忘れていないようです。

苦境の時の切り札

私が経営者向けのレジリエンスコラムを書き始めた理由は、経営者の皆様にはまずご自分の命を大切にしていただきたいというものでした。
日本の場合、中小企業の社長にとって会社倒産は、ほぼ全財産を失うということになるため、場合によっては自分が死んで責任を取るという人もいらっしゃいます。
非常に残念なことです。
私の友人にもそうしたことを一度は考えたという経営者が居ました。
仮にどんなに経済的に破綻したとしても命までは奪われません。
ある意味で、そうした開き直りが経営者には必要ではないでしょうか。

以下は筆者の例で恐縮ですが、私は苦境に陥った(と思った)時に読む本を決めています。
それは「老子」です。
老子の無為自然な生き方の知恵は、ものごとを一面だけ観るのではなく多面的に考える必要性を教えてくれます。
水が上から下へ下へと流れていくように、どのような環境でもそれに順応して形を変えて流れるのです。
肩の力を抜いて、自然に振舞うだけなのですが頭の中で凝り固まっている考えがほぐれて、悩みが消え去るのです。無駄な考えをするよりも、自分に出来ることをしよう、という気にさせてくれるのです。

同じように古典といわれる書物を読むことで心を中のしこりを解きほぐす経営者は意外に多いように思えます。

読者の皆様のストレス解消法はどのようなものでしょうか。
是非ご教示ください。

次回は「経営者のヘルス・マネジメント」というテーマを考えてみます。
経営者の健康管理ということです。レジリエンスの高い経営者とそうでない経営者の差は、こうした人間の基本的なことをどれだけ深く理解しているかどうかということにも関連します。

レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。

toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
株式会社ミヤマコンサルティンググループ
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