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深山 敏郎

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第43回 シェイクスピアの登場人物のレジリエンス(31)ヘンリーVIII

2022/04/12

前回はシェイクスピアの歴史劇「ジョン王」のジョン王のレジリエンス分析をしました。
「ヘンリーVIII」の主人公であるヘンリーVIII王は、歴史上の人物でエリザベスIの父親です。
シェイクスピアにとってエリザベスI(女王)は劇団のパトロンの一人にあたります。
そのためでしょうか、エリザベスIの父親であるヘンリーVIIIや、母親である王妃アン・ブーリンに関しては好意的に書かれています。
特にアン・ブーリンに関しては理想の女性に近い存在として描かれています。
ヘンリーVIIIに関しては、あまり感情を見せず悪人でも善人でもなく描かれているように思えます。

こうした中で筆者が非常に興味を持ったのは、悪役として登場する枢機卿ウルジー(以下、ウルジー)です。
悪役で、常に堂々と振舞い、相手を言葉巧みに操る能力に長けています。
シェイクスピアの悲劇の悪役としての魅力を兼ね備えています。
そうした理由から今回はウルジーのレジリエンスを分析します。

「ヘンリーVIII」は国王が悪役ウルジーに操られる物語

私は残念ながらこの作品を、舞台では観たことがありません。
今後機会があれば是非観てみたいと考えています。
また今回BBCのDVD(ジョン・ストライド主演、ウルジーは、ティモシー・ウエスト)を観ました。
また、必要に応じてOxford版の原作及び松岡和子先生の翻訳を参考にしました。

「ヘンリーVIII」は歴史上の事実としてヘンリーVIII王がイギリス国教会を設立するきっかけとなった物語を描いた作品です。
王はウルジーの策略によって王妃キャサリンと離婚し、後の妃アン・ブーリンと再婚しようとしましたが、ローマ法王はそれを許しませんでした。
そのため、イギリス国教会が設立されるに至りました。

「ヘンリーVIII」のストーリー

この作品はウルジーが、ヘンリーVIIIから最も信頼を寄せられたために起こる宮廷内外に起こる悲劇の数々を描いています。
ウルジーを良く思わぬ王の側近であるバッキンガム公が無実の大逆罪で処刑されます。
枢機卿であり、ヘンリーVIIIの心の拠り所であるウルジーの策略です。
また、王妃キャサリンもさまざまな濡れ衣を同じ理由で着せられます。
客観的な証拠はなく、捏造された数々のことによってウルジーが宮廷内を操ります。

結局、王妃もでっちあげられた内容で裁判にかけられそうになります。
この裁判はローマから呼び寄せた枢機卿とウルジー自身が裁くことになったため、王妃は裁判への出廷をたびたび拒否し、結果として申し開きをせずに無実の罪で離婚させられます。

劇の後半でウルジーのさまざまな悪事の証拠が明らかになり、ウルジー自身の立場が悪くなります。
ウルジーが不当に得ていた巨額の利益も明らかになります。
結果として、ウルジーが失脚し、護送の途中で命を失います。

一方、ヘンリーVIIIは王妃キャサリンと離婚をして、ローマ法王の許可を得ず、王妃の女官であったアン・ブーリンと再婚をします。
彼女と王は晩さん会で出会い、王が一目ぼれをしたのです。
このアン・ブーリンはその美貌に加えて、心のやさしさが描かれています。
彼女は妊娠しており、女児を設けます。それが後のエリザベスI(女王)となります。
宮廷では、カンタベリー大司教とウィンチェスター司教の権力争いが起こります。
結局大司教がヘンリーVIIIとアン・ブーリンの娘をエリザベス(後のエリザベスI)と名付けます。

ウルジーのレジリエンス

彼のレジリエンスは、以下のようになりました。

今回も以下の代表的なレジリエンス要素を用いて分析をします。
1.自己効力感
2.感情のコントロール
3.思い込みへの気づき
4.楽観
5.新しいことへのチャレンジ

自己効力感はある程度以上高かったと思われます。
ヘンリーVIIIから全幅の信頼を得ており、宮廷を自由にコントロールしていました。
残念なことは、倫理観が欠落していたことでしょうか。
私利私欲に走り、結局自滅します。

感情のコントロールは、かなり出来ていた様子です。
王妃キャサリンを裁判に出廷するよう話し合う席でも王妃からは罵倒されますが、あくまで自分のペースで王妃の説得を試みます。
ただし、これはウルジーの策略の一部です。

思い込みへの気づきという面は一般的であったと考えられます。
ただし、自己の悪事が露見しないと思い込んでいたことが最後に分かります。

楽観という視点からは、非常に高かったように思えます。
自らの環境をコントロールできるという確信から生まれた根拠のない楽観ではありましたが。

新しいことへのチャレンジという視点は、悪事のためにあらゆる謀略を思いつくという面からすると、高かったと考えられます。

今回まででシェイクスピアの歴史劇は終了します。

次回は、シェイクスピアの喜劇「間違い続き」を検討してみます。


レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。

また、シェイクスピアに関するビジネス活用のご参考として、拙著:「できるリーダーはなぜ「リア王」にハマるのか」(青春出版)があります。
この書籍はシェイクスピア作品を通してビジネスの現場にどう活かしていくかを検討するために書かれました。

toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
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