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深山 敏郎

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第26回 シェイクスピアの登場人物のレジリエンス(14)冬物語

2021/12/14

前回はシェイクスピア悲劇「アントニーとクレオパトラ」の主人公アントニアスを私なりに分析してきました。

今回はレジリエンス応用編の第十四弾として、シェイクスピアの戯曲「冬物語」の主人公、嫉妬に狂うシチリア王「レオンティーズ」のレジリエンスについて検討してみます。

「冬物語」はシェイクスピアの末期の作品

「冬物語」はシェイクスピア末期のロマンス劇の一つです。
タイトルの一部である「冬」とは、16年間の“心の冬”を表しています。
前半の展開は嫉妬に狂った夫が妻に対して接する態度など、まさに悲劇「オセロー」並みの展開です。
ただし、「オセロー」と違うのは、後半にまったく異なる展開に至ることです。
後半だけ観てみると、まるで喜劇の様相です。

筆者がこの作品をはじめて観たのは40年程前でしょうか。
大学の後輩の英語劇で、友人が主演のレオンティーズを演じていました。
改めてBBCのDVDを観、そして(日本語で)読んでみるとレオンティーズが嫉妬に狂う様子が実にリアル、かつ詳細に描かれていて、シェイクスピアの脚本を書く力がいかにパワフルだったかを思い知らされました。

前半の嫉妬に狂うレオンティーズは今ではドラマなどで余り見られなくなったシンプルな展開で、寝取られ夫と思い込んだ主人公が妻に対して激怒します。
一般家庭の内輪もめであれば、これほど盛り上がらないのですが、王家の物語であり、また、妻の貞淑さが際立っていますので、大いに“悲劇性”を際立たせているのです。

「冬物語」は、日本のプロの劇団からはあまり人気がないのでしょうか、それとも私が気づかなかっただけでしょうか、あまり舞台で拝見する機会がなかったという記憶です。
少なくとも、シェイクスピアの四大悲劇「ハムレット」、「マクベス」、「オセロー」、「リア王」や、「ロミオとジュリエット」、「リチャードIII」、「ヴェニスの商人」、「真夏の夜の夢」といった作品の人気とは比べ物にならないほどです。
しかし、シェイクスピアのロマンス劇にみられる凄さは、その精神性や哲学性、人間の心の問題を深く理解するためにはもってこいの
作品群です。

「冬物語」のストーリー

シチリア王リオンティーズのもとに、親友で幼馴染のボヘミア王ポリクシニーズが滞在しています。
王と妃ハーマイオニーはポリクシニーズの滞在を延ばすためにあれこれ言葉を尽くします。
妃の強い勧めでポリクシニーズは滞在を延長することになります。
王リオンティーズは、妃ハーマイオニーが親友ポリクシニーズを留める熱心さに嫉妬し始めます。
それを知ったリオンティーズの臣下がポリクシニーズの早期の帰国を促し、帰国するのですが、それが火に油でリオンティーズの猜疑心はエスカレートします。
やはり後ろめたいことがあったから逃げたのだと、リオンティーズの思い込みから来る怒りの感情は自分では止めることが出来なくなります。

リオンティーズの妄想は膨らみ続けます。
妃は牢屋に閉じ込められ、そこで女児を出産します。
もちろん、夫リオンティーズの娘なのですが、リオンティーズは自分の娘をボヘミア王の子と決めつけてしまいます。
臣下たちは妃の誠を信じ、アポロの信託に委ねますが、法廷で妃は潔白であるというアポロの信託を聞いてもリオンティーズは妻を信じられなくなります。
また、信託にはリオンティーズは世継ぎを失うとも。リオンティーズはアポロに対して悪態をつくのです。
その時でした、リオンティーズとハーマイオニーの子である王子は、(あまりの心痛に)命を落としたという報が届きます。
また、それを聞いた妃も命を落とします。
牢屋で生まれた娘はボヘミアの荒野に捨てられますが、羊飼いに拾われて育ちます。
こうなってみて、リオンティーズは初めて自分の愚かさに気づき、後悔の念にさいなまれます。

それから16年が経過し、ボヘミアに移り住んだかつてのリオンティーズの臣下カミローは、国(シチリア)を案じます。
そうした中、ボヘミアの王子フロリゼルは羊飼いの娘パーディタに恋をします。
ボヘミア王はこの二人の結婚を許しません。
王子の決心が固いことを知ったカミローは、懺悔の毎日を送っているシチリア王リオンティーズに相談することを勧めます。

シチリア王リオンティーズは、懺悔の毎日を送り、アポロの信託どおり再婚せずにいます。
王子たちが相談に出向くと、ボヘミア王ポリクシニーズも彼らを追いかけて到着します。
羊飼いもその場に来て、この娘こそ16年前に王の命によって荒野に投棄された王女パーディタであるという説明をします。
彼女は母の非業の死を知って泣き崩れます。
ところが母は死んではいなかったのです。
侍女のポーリーナの家にある彫像が、本当は生きている王妃ハーマイオニーであるということが分かったのです。

こうして互いが分かりあい、ハッピーエンドとなるのです。

リオンティーズのレジリエンス

リオンティーズのレジリエンスは、戯曲の前半と後半では異なるのですが、その根底にある彼の本質をなるべく忠実に分析をしてみます。

今回も以下の代表的なレジリエンス要素を用いて分析をします。
1.自己効力感
2.感情のコントロール
3.思い込みへの気づき
4.楽観
5.新しいことへのチャレンジ

自己効力感は、とても低いといわざるを得ません。
前半では、妻である妃を信じられず、嫉妬心のとりことなります。
真に自信があるならば、身内を信ずることが出来るはずです。

感情のコントロールという面は、嫉妬心に取りつかれて激怒したまま収まらなかったのです。
従って、この戯曲の前半でのリオンティーズは、「オセロー」の中のオセローが妻ズデモーナへの猜疑心の虜となったように、感情のコントロールが出来ませんでした。

思い込みへの気づきという面では、まったく周囲の言葉に耳を傾けず、アポロ神の信託さえ信じませんでした。
前半では思い込みが強く、打つ手がないという状況です。

楽観という視点からは、楽観どころかまったく希望を持てないということが明白です。

新しいことへのチャレンジという視点は、この戯曲の中ではまったくといっていいほどしていません。

かなり厳しい評価になりましたが、シェイクスピアは人間誰にでも内在する愚かさに焦点を絞ってこの主人公リオンティーズを描いていますので、このようになるのが当然でしょう。
後半は、懺悔から別の人格に生まれ変わっていると思われますが、ここでは記述を省略します。


次回は、シェイクスピアの四大悲劇の一つ「オセロー」を検討してみます。

レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。

また、シェイクスピアに関するビジネス活用のご参考として、拙著:「できるリーダーはなぜ「リア王」にハマるのか」(青春出版)があります。
この書籍はシェイクスピア作品を通してビジネスの現場にどう活かしていくかを検討するために書かれました。

toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
株式会社ミヤマコンサルティンググループ
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