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深山 敏郎

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第20回 シェイクスピアの登場人物のレジリエンス(8)恋の骨折り損

2021/11/02

前回はシェイクスピア作品「十二夜」の主人公のヴァイオラについて、私なりに分析してきました。

今回はレジリエンス応用編の第八弾として、シェイクスピアの戯曲「恋の骨折り損」の主要登場人物の一人、ナヴァール王「ファーディナンド」のレジリエンスについて検討してみます。

「恋の骨折り損」は、シェイクスピア初期の“知的”な恋愛劇

「恋の骨折り損」は、シェイクスピアの比較的初期の戯曲で、順番でいえば37作品の内、9番目に書いたといわれる作品です。
1594~95年に書かれた作品と言われています。
リチャードIIIなどの大ヒット作を書いた直後くらいの作品ということになるでしょうか。

シェイクスピア喜劇といえば、どたばた劇が多いのですが、この作品はどちらかといえば、言葉による知的な恋愛喜劇ということが言えるでしょう。
しかし、遊び心が満載で言葉遊びや状況による遊びがとても多い作品の一つです。
筆者はGlobe座によるDVDなどを観ましたが、それなりに観客が湧いていてコメディーの要素はたっぷりでした。シェイクスピアの台詞から触発されて、演出家や役者が楽しみながら作ったという印象です。

喜劇はやはり楽しみながら作ることで、自由闊達な雰囲気が客席にも伝わるようです。
人生も是非、そうありたいと考えます。
つまり、楽しみながら生きている様が周囲へ楽しい雰囲気を伝えられますように。

「恋の骨折り損」のストーリー

この作品では、複数の男性がお相手を見つけて恋の告白をします。
しかし、最後にはすぐに結ばれず、12か月待って恋心に変わりがないのなら愛を受け入れるという結末となっています。

ナヴァールの国王ファーディナンドは、ギリシャ時代のプラトンの学校アカデメイアに因んで、自らの宮殿においては、学芸に打ち込むことを目的として3年間、粗食に耐え、睡眠は日に3時間、そして女人禁制という過酷な環境に身を置くことを法令化して誓います。
3人の部下ビローン、ロンガヴィル、デュメーンにも同様に自らとともに学問に集中するように誓わせます。

ところがフランスから王女一行がフランス王の代理で宮殿に到着します。
国王ファーディナンドたちは自らが決めた法令のため、彼女たちに近づくことすらできません。
そこで、宮殿近くの野営地で王女たちに接見することにします。
そこで国王は王女に、そして部下たちは王女の侍女たちに恋してしまうのです。
中でもビローンは恋文を届けようと必死です。

しかし王の指示で自らが署名した法令に縛られて、ビローンは告白することすら許されません。
そこで田舎者の助けを借りて恋文を届けてもらうのです。
仲介してくれた人も文字が読めないので、神父に代読してもらおうとします。
神父は法令違反の証拠品だということで、王に届けるように仲介者に伝えます。
ことが発覚して、ビローンは「女性と親しくすることこそ、生きた学問である」と開き直ります。
法令には無理があったため、王はフランス王女たちを歓待することにします。

男たちは茶目っ気を発揮してロシア人に変装して行くのですが、王女たちはからかわれていると誤解し、仮面をつけて待ちます。
結果として、男たちは違う相手に愛の告白をすることになります。
このような中、王女の父であるフランス王が崩御したという報が届きます。
そのためフランスに急ぎ、帰国することにします。
ファーディナンドたちは仕切り直して告白をするのですが、彼女たちの結論は、「12か月待ってください。それでもお心が変わらなければお受けします」というものでした。

国王ファーディナンドのレジリエンス

今回も以下の代表的なレジリエンス要素を用いて分析をします。
1.自己効力感
2.感情のコントロール
3.思い込みへの気づき
4.楽観
5.新しいことへのチャレンジ

自己効力感はある程度、高いと考えられます。
しかし、自分の地位である国王としての威厳を借りているわけで、権力者にありがちな思い込みも多分にあろうかと考えられます。

感情のコントロールという面では、ある程度自らの感情を御することが出来たのであろうと考えられます。
最後に12か月待って欲しいと言われたときに、部下のビローンとの会話で、12か月待とうではないか、と自らの感情を抑えるシーンなどがあります。

思い込みへの気づきという面では、この戯曲の冒頭からアテネのプラトンのアカデメイアを理想として、それに倣い、宮殿をかなり窮屈な場としてしまったということがあったと思われます。
ただし、ビローンの法令違反に対しては、法令自体の不合理さに気づいたために問題視していません。
ある程度の気づきがあったようです。

楽観という視点からは、自らの見通しを楽観できる面があり、ある程度高いと考えられます。

新しいことへのチャレンジという視点は、十分にあったと考えられます。

次回はローレンス・オリヴィエなど名優が演じて喝さいを浴びた作品で、宮廷の権謀術数に長けた人物として描かれた、「リチャードIII」の登場人物リチャードIIIについて分析してみましょう。

レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。

また、シェイクスピアに関するビジネス活用のご参考として、拙著:「できるリーダーはなぜ「リア王」にハマるのか」(青春出版)があります。この書籍はシェイクスピア作品を通してビジネスの現場にどう活かしていくかを検討するために書かれました。

toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
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