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岩田 徹

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第91回 信念を持った人材育成

2022/09/09

先週に続いて甲子園優勝校の仙台育英高校の話題です。

東北勢初の優勝だっただけではなく、
今大会の同校は高校野球に新たな時代の到来をもたらしました。

特徴的なのが投手の起用法。
これまでの高校野球では一人の大エースの活躍が多く見られました。
横浜高校春夏連覇の松坂大輔投手。
ハンカチ王子こと早稲田実業の斎藤佑樹投手。
近年では金農旋風と呼ばれ、ミラクルを何度も起こした金足農業の吉田輝星投手。
どの投手も素晴らしい投球を見せ、甲子園を湧かせた投手です。

特に公立高校でもある金足農業の吉田投手は、
秋田県大会の1回戦から甲子園の準決勝まで全ての試合を一人で投げ切りました。
その投球数は1517球。
甲子園だけでも881球を投じ、最後は体に力が入らなくなった、
と吉田投手が話していた通り、決勝では本来の投球とは程遠く、
大阪桐蔭高校に打ち込まれました。

対照的に今年の仙台育英高校は、
140キロを超えるストレートに複数の変化球を併せ持つ左右の投手を5人揃え、
全ての試合で継投で勝利し、頂点まで駆け上がりました。
甲子園で一番投球数が多かった投手でも213球。
前述の吉田投手と比較しても圧倒的に疲労感も違ったと思います。
仙台育英の須江監督が言うには野球には慣れが非常に重要であり、
特に打撃は率が低く、投手に慣れる前に継投することが大事だとの考えがあるそうです。

そのためどの投手もがエースを言えるくらい、投手陣が切磋琢磨して競争し、
最終的に特徴のある投手を5人、揃えることができた、と話されていました。
ベンチ入りできなかった投手にも140キロを超える投手がいるほど、
人材の育成に成功していたようです。
その根底には、「勝利と育成の両立の実現」を目指す須江監督のブレない信念がありました。
一人の大エースが投げ続けることで勝利には近づくが、将来的な怪我に繋がりかねない。
その裏で他の投手のモチベーションが下がり、野球から離れる可能性もある。
継投を念頭に高いレベルでの競争を促し、結果勝利も育成の両立を実現。
下級生も多く出場していた仙台育英。
次のセンバツに向けての戦いは全国でスタートしています。

また新しい高校野球が見られるのが今から楽しみになるとともに、
複数の投手を揃えるのが難しい公立高校出身の筆者としては、
母校の甲子園出場がいつになるのか、さらに遠のいたような感覚に陥っています。