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深山 敏郎

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第44回 シェイクスピアの登場人物のレジリエンス(32)

2022/04/19

前回はシェイクスピアの歴史劇「ヘンリーVIII」のウルジーのレジリエンス分析をしました。
今回はシェイクスピアの喜劇「間違い続き(「間違いの喜劇」ともいう))」の双子の主人公アンティフォラス(エフェソス)の妻エイドリアーナのレジリエンス分析をします。

実は、1977年冬にロンドンで、デイム・ジュディ・デンチ演ずるエイドリアーナを観て感動した覚えがあります。
当時私は大学4年生で友人の故ジョン・A・フレイザー氏とともに観劇後にジュディと旦那さんの故マイケル・ウィリアムズを楽屋に訪ねました。
実はフレイザー氏がジュディとマイケルのキューピッドだったのです。
ジュディとマイケルから日本の劇団四季の演出家浅利慶太さん(当時)への伝言を頼まれて、当時四季のプロデューサーをしていた友人経由で伝えました。
それが私と四季のご縁も作ってくれました。
そのため、海外の脚本翻訳(粗訳)をお手伝いしたり、ロンドン・シェイクスピア・グループと四季の方々の交流の橋渡し役をすることになりました。

デイムの称号を得たジュディ・デンチは映画「恋に落ちたシェイクスピア」のエリザベスI役でアカデミー助演女優賞を受賞しました。
古くは007シリーズのJ.ボンドの上司であるMの役柄などで有名でした。
英国では長年、ナンバーワンの人気を誇る女優です。

ジュディはRSC(ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー)の舞台「間違い続き」の前にイアン・マッカランと共演した「マクベス」の舞台に立っていて、今でも伝説のマクベス夫人となっています。
この舞台は長期間チケットがまったく入手できないという超人気でした。

その直後に演じた「間違い続き」もチケットがまったく取れず、3週間しかロンドンに滞在出来ない私は、観に行くことを諦めかけていました。幸運なことに、帰国直前になってブリティッシュ・カウンシル(英国文化庁)のヴァル・ウェストさんというフレイザー氏たちのロンドン・シェイクスピア・グループを世界中に派遣する上司が、ロイヤル・シートを2枚用意してくれたのです。
ロイヤル・シートというのはエリザベス女王がふと芝居が観たいと思った時にいつでもご覧になれるように用意してある座席で、グランドサークル最前列の中央です。
当日は女王の公務が決定していたため直前に開放されたそうです。
本当に幸運でした。

フレイザー氏とともに訪れたためか、ジュディもマイケルもとても気さくな方々で、控室で長年の友人のように私を扱ってくれました。
舞台の率直な意見を求められました。
またハグをしてもらった覚えがあります。
この「間違い続き」の舞台は今まで私が観たシェイクスピア劇でナンバーワンの感動を得た作品でした。

今回、当時観劇した際の記憶とともに、ジュディが主演し、マイケルもドローミオとして出演しているRSCのTV版「間違い続き」のDVDを観て、松岡和子先生の翻訳、そしてOxford版の原作を参考にコラムを書くことにしました。

「間違い続き」は若きシェイクスピアの傑作喜劇

この作品は、シェイクスピアの若い頃に書いた傑作喜劇(ドタバタ劇と言った方がよいかもしれません)で、もともとプラウトゥスの喜劇のストーリーが土台になって、シェイクスピアが独自に味付けをして作った舞台と言われています。


二組の双子(主従関係)が出て来て、双子同士はまったく同じ名前で同じ格好をしています。
一組は旅の途中でエフェソスという土地を訪れるのですが、双子の主人が、もう一方の従者と自分の従者を取り違えたり、地域の人たちが皆、二組の双子を取り違えます。
これらは、いわば喜劇の古典的手法なので、観客だけが取違えを知っていて、登場人物たちは皆、大混乱をします。

「間違い続き」のストーリー

こうした混乱が劇の間中に起こるため、ストーリー展開が早く、ご説明することが非常に困難です。

シラクサの商人イジーオンは20年前海難事故で双子の子供の兄と妻と別れ別れになりました。
双子の弟と一緒に暮らしていましたが、7年前、双子の弟はやはり双子の召使の片割れとともに母や兄を探す旅に出ました。
ところが長年帰宅しないため、父親イジーオンが探しに出たのです、ところがシラクサから来た商人はエフェソスの地に足を踏み入れると極刑になるという法律があったのです。
裁く側の公爵はイジーオンに同情するものの、法を曲げることが出来ずに、当日中に保釈金を支払う者が居れば釈放するという刑の執行を猶予するくらいしかできません。

そこで既にお伝えしたような二組の双子が互いに間違える、また、エフェソスの街の人たちも彼らを間違えるなどして、さまざまなトラブルが発生します。
その中でエフェソスのアンティフォラス(兄)の妻であるエイドリアーナは、昼食時間になかなか帰宅しない夫に焼餅を焼いてやきもきしています。
そこに偶然現れた自分の夫と瓜二つであるシラクサから来た同名のアンティフォラス(弟)を夫と誤解して、強引に自らの館に連れ込んで愛情を求めます。
弟の方は、自分には妻などいないとエイドリアーナを拒絶して、エイドリアーナの妹ルシアーナに求婚します。

また、エイドリアーナの本当の夫であるエフェソスのアンティフォラスは館に入れてもらえず、腹を立てて娼館に赴きます。
こうしたトラブルが続き、最後は真実が明らかになります。
そこでイジーオンと彼が生き別れた妻エミリアとの感動的な再会や双子の兄弟二組も互いに会えたことを祝福します。
イジーオンも無事に開放されます。

エイドリアーナのレジリエンス

彼女のレジリエンスは、以下のようになりました。

今回も以下の代表的なレジリエンス要素を用いて分析をします。
1.自己効力感
2.感情のコントロール
3.思い込みへの気づき
4.楽観
5.新しいことへのチャレンジ

自己効力感はある程度以上高かったと思われます。
夫への依存度も高く、夫への愛着も高いのですが、相思相愛の夫であるため、当然のことだと考えられます。

感情のコントロールは、あまり得意とは言えず、焼餅焼きで絶えずやきもきしています。

思い込みへの気づきという面は、この芝居の性質上、登場人物のほぼ全員が思い込みをしてストーリーが展開されています。彼女も例外ではありません。

楽観という視点からは、低いといえます。
夫がランチタイムに帰宅しないだけで自分に魅力がなくなったのでは、と悲観的になるのです。

新しいことへのチャレンジという視点は、特に発揮してません。

次回は、シェイクスピアの悲劇「タイタス・アンドロニカス」を検討してみます。
この作品は非常におどろおどろしい作品です。

レジリエンスの高い人の特徴を詳しく知りたい方は、拙著:「レジリエンス(折れない心)の具体的な高め方 個人・チーム・組織」(セルバ出版)などをご覧いただければ幸いです。

また、シェイクスピアに関するビジネス活用のご参考として、拙著:「できるリーダーはなぜ「リア王」にハマるのか」(青春出版)があります。
この書籍はシェイクスピア作品を通してビジネスの現場にどう活かしていくかを検討するために書かれました。

toshiro@miyamacg.com (筆者:深山 敏郎)
株式会社ミヤマコンサルティンググループ
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