先日、日本経済新聞に「AI時代の人事は心理戦 透明な評価と心情への肉薄が経営力」という非常に興味深い記事が掲載されました。
医療関連サービスのスタートアップ企業であるUbie(ユビー)が、社員の人事評価にAIを導入するというニュースです。
このシステムでは、社内チャットや会議、タスクの進捗といった日々の業務ログを自動で収集し、AIが各自の実績を抽出して評価案(ドラフト)を作成します。
不足分は社員自身が補い、最終的な評価は代表が決定する仕組みだそうです 。
この取り組みの素晴らしい点は、単に管理職が評価に割く労力を減らすだけではないということです。
人間による評価のバイアスを排除し、「AIなら日々のコツコツとした貢献まで全て把握してくれる」という透明性が、社員の公正感や納得感を生み、前向きなモチベーションに繋がっているといいます。
人事教育コンサルタントとして、私はこの「人事評価へのAI導入」という大きな方向性には大賛成です。
日頃、様々な企業様で人事評価者研修や制度運用のアドバイスを行っていますが、評価する側の管理職が抱える悩みはどこも共通しています。
プレイングマネージャーとして多忙を極める中、「部下の日常的な行動を細部まで観察できていない(観察する場面が少ない)」、「評価項目の解釈に個人差があり、どうしても評価に偏りが生じてしまう」、「面談でのフィードバックの根拠が乏しく、論理的な説明ができない」といった課題です。
さらに深刻なのは、「職場の人間関係を壊したくないため、波風を立てないよう可もなく不可もない曖昧な評価をつけてしまう」という心理的なハードルです。
記事にあるようなAIシステムは、こうした人間が陥りがちな限界や感情的なバイアスを見事に補完してくれるはずです。
同じ基準で、膨大なデータをコンスタントに処理し続けることはAIの最大の強みです。
だからこそ、公平・公正な人事評価の「土台作り」において、AIは非常に信頼できるツールになり得ます。
ただでさえ忙しい管理職の有能なアシスタントとして、客観的な事実に基づいた評価案を提示してくれる存在は、現場にとってこの上ない助けになるでしょう。
また、社員との面談を通じて様々な要望を吸い上げるプロセスにおいても、AIの活用は効果的だと考えます。
従来、部下が上司に業務改善の要望を出しても、上司個人の判断で握りつぶされてしまったり、先送りされたりすることが少なくありませんでした。
その点、AIには人間関係特有の「忖度」が一切ありません。
社員の声をフラットに拾い上げ、客観的なデータに基づいて適宜適切な提案を経営陣に届けてくれます。
逆に、社員側にとっても、上司から「今は無理だ」と一蹴されるより、AIから「組織全体の状況を分析した結果、今は優先順位が低い」と論理的に提示された方が、感情的なしこりを残さずに納得しやすいのかもしれません。
近年、AIの進化とビジネスへの浸透は目覚ましいものがあります。
コンサルティングやマーケティング業界、あるいは金融機関などでは、AIの台頭によって大規模な人員整理が敢行されているというニュースも耳にします。
これは、それだけ「AIで代用可能な定型的な知的業務」が多かったという厳しい現実を示しています。
だからこそ、記事の終盤でUbieのCTOが語った言葉が私の心に強く響きました。
全社員の3割がエンジニアである同社でも、「プログラムコードの95%はAIが書く」状況になりつつあり、「エンジニアも足で稼ぐ時代が来る」というのです。
ひたすらキーボードを打つのではなく、実際に高齢者のもとへ出向いて直接悩みを聞き、そのアナログな対話から得た気づきを製品に生かしていく。
テクノロジーの最先端にいる企業が、究極の「人間臭いアプローチ」の重要性を説いている点に、これからの働き方の本質が隠されていると感じます。
テクノロジーが進化し、AIが私たちの業務を強力に代替・サポートしてくれる時代だからこそ改めて「人間が泥臭くやるべき業務」と「AIに任せるべき業務」の線引きを明確にしなければなりません。
業種、職種、そして階層ごとに、これからの時代における「働き方のあるべき姿」を、お客様と共に一つひとつ丁寧に創り上げていくことが、私たちコンサルタントの急務であると強く感じている今日この頃です。